本当の自由のための戦い
初の自由の革命の勝者に国民や奴隷達はまるで自分のことのように喜ぶ者が居た、コロシアムを終え俺達はヴァルレオーネ帝国に戻る為に船に乗り込もうとしていた。
王女に渡されたヴァルレオーネ帝国宛てへの手紙をしまい密閉されたような海の匂いに懐かしさとほんの少しの楽しさが胸に広がる。
ユキノのワンピースを着てシトリンは何故か浮かない顔をし港からモリージェリー王国を見た。
「…シトリン、どうした?」
「シルバー…お願いがあるの」
そう言ってシトリンは服の袖を強く握り締めながら俺に訴えるような瞳を見せる、話しをそれなりに盗み聞きしていたのかユキノとウィンも持っていた荷物を置き聞き耳を立てる。
「私は自由になれた…それは本当に嬉しいし私はこの国で一番幸せな奴隷だと思った」
「…」
「だから…私のような奴隷を無くしたい」
やけに海の波の音が聞こえる、シトリンは本当の気持ちを言ったのだろう、他の奴隷達のために動こうとしている姿はとても美しい、人間の残酷性に立ち向かうほどの力をきっとシトリンは持っているだろう。
「シトリン…それはお前の思う本当の気持ちなんだね?」
「ユキノ…約束通りちゃんとヴァルレオーネ帝国に行くから、約束するから私に時間をちょうだい」
ユキノが心配そうな瞳でシトリンの目線に合わせかがみ両手をとった、シトリンは祈るようにユキノと目線を合わす。
「…いい?もしもの為に1000フィナ持っときなさい、ヴァルレオーネ帝国の船に乗るために500フィナ、それと長くなるようだったらここに手紙を送りなさい」
「ユキノ?」
「いい?必ず無事で帰ってきなさい」
シトリンの少し小さな手の平に銀色のコインを握らす、小さな鞄を持たせてその金色の髪を優しく撫でる。
一度抱き締めシトリンを送るためにその背中をモリージェリー王国の方向に押した。
「何をすれば良いかわかってるのか?」
「わからない…だけど、私にしか出来ないこともあると思う」
「無理するなよ」
ぶっきらぼうに目線を外しながら、真っ直ぐ見つめてくるシトリンの頭を撫でる。結局の所エスパーではないから俺は決してシトリンの気持ちを100%理解できない、それでも少しぐらいくみ取れるシトリンのやりたいと思う気持ちには応えてやりたい。
ウィンもその気持ちがあるのか心配そうにしてはいるがシトリンの肩を掴み「辛くなったらいつでも帰ってこい」と言う、シトリンは涙をにじませながら強く頷いた。
「うん」
逆方向へと向かい港を抜け今度こそ1人で町を歩いている、ユキノ達には悪いが悪魔の奴隷制を廃止させたいと、自分のような子供達を生み出したくないと思い一晩考えた結果だ。
町の裏道を慣れた足取りで歩き一つの古びた木製の扉を開けた。
「セシリー、セシリー・ワッツ私よ」
そう声をかければ薄暗い本棚の後ろから埃を被ったワンピースを着た女性が走ってきて私を抱き締める。
「1048!生きてたのね!!あぁよかった怪我はないかい?本当に自由になれたのかい?」
「セシリー、落ち着いて私は無事よ」
疑い深くそれでいて心配そうに聞いてくるセシリーに私は心の底から嬉しく思い、友人の暖かさに涙が出て来る。
「貴方の味方をしてくれた人達が居たんだろ?」
「とっても優しい人達だった」
「知らせを聞いて寿命が縮まるかと思ったわよ」
私の右手を掴み奥に連れて行ってくれるセシリーは、本当に楽しそうで鼻歌まで聞こえてくる。
元々、自分のために作っていたのか小さな鍋から懐かしいポトフスープをよそって椅子に座った私の前と自分の前におき、銀色のスプーンを私にくれた。
「1023…死んでしまったのでしょ」
「……」
「よく、生きて帰ってきてくれた、ありがとうありがとう」
顎の下で手を合わせ涙をこぼしながら祈る、胸が張り裂けるような思いが心を打つ、あぁなんて慈愛深き友人なのだろうこんなよき友に出会えた私は本当にこの国で一番幸せな奴隷だった。
「私は奴隷制を廃止したい」
「…それは難しい事だとわかるかい?」
「…知ってる、だけど私にしか出来ないと思う」
自分の率直な気持ちを言えば彼女は溜息を零しながらスープをすすった、スプーンを持ち私も一口食べるとじんわりとした温かさが口に広がり食道を通る。
「私の旦那も奴隷だったから、廃止したい気持ちはあるよ…けど今までやってきたことは全て無駄だった」
「大丈夫、私を助けてくれた人達に聞いたけど奴隷制が残っているのは少数の国だけなんだって教えてくれた、それに努力は裏切らないと言ってくれたわ」
ユキノ、シルバー、ウィン三人の言葉を信じ今までやってきたことは確かに無駄じゃ無かった、多少の時間差はあったが努力したぶん強くなれた。
少しでも訴えれば奴隷制に疑問を持った人達が立ち上がってくれる。
「私達なら出来る」
「…悪いけど、私は貴方のその革命に参加しないわ」
その言葉に思わず目を見開く。
「まだ、貴女に言ってなかったわね、何で旦那がいないのかわかるかい?」
そう言えば居ないことに今更ながら気付く、また何処かにほっつき歩いているのかと思っていたが彼女の目を見てそうではないことに気付く。
「奴隷制廃止を掲げてしまったがゆえに反王女派と考えられて今じゃイヴァン牢獄の冷たい鉄格子がはられた部屋の中よ」
衝撃の事実に開いた口が閉じられない、目を見開き事実ではないと思いたくなってどうしようもなかった。
「だから1048おやめなさい、貴女は他の奴隷達のためになんて考えなくて良いの、逃げてちょうだい」
「…でも、だけど」
「あぁ貴女は少し疲れているのよ、商店街のパンを買いに行ってちょうだい、そしたら頭も冷めるわ」