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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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背伸び


「ドワーノ、甘い物が食べたいわ」 


誰もが騎士団団長とユキノとの戦いが始まると思った、俺だってそう思いシトリンにウィンと肩を貸し後ろに下がろうかと思っていたが、思いもしない王女のとんでも発言にそれは妨害された。


会場に響く言葉に困惑する、いや、本当に急な予定は困るのだ、なんだその三時のおやつみたいな感じ、無理ありすぎるだろあの王女の意図が読めない…否無いのか?

そう言うの告知してくれないと困るっと語る目を白黒させていると王女は席の奥へ消える。観客達も最初は動揺していたが次第に茶会へと興味が変更されぞろぞろと帰って行く、適応能力高すぎだろ、まるで早く準備しろと急かすように執事は俺達を睨み奥へと進む。


「今から45分後ぐらいに王宮へお越し下さい、勿論、王女の前ではまともな服を着てください」


騎士団団長とは違う、キッと王女の伝達役である騎士は軽蔑した目で俺達の奥にいるシトリンを見た後にやれやれと言う表情で肩を落としため息をつく。


「これだから、奴隷は」


冷たい目で睨みつける騎士に細やかなプレゼントとして笑顔、微笑みを贈っとく、目が笑っていたかと言うと微妙だが…。

シトリンの方に振り向き手を差し伸べた、その手を掴むことなく顔を伏したシトリンが呟く。


「どうして、どうして助けたの」


傷だらけの頬に涙が伝い、少し辛そうに顔を歪めかれた声を振り絞り俺を見る、差し出した手の平をひっくり返しシトリンの頭の上にのせ乱暴に撫でる。


「いいか?シトリン、お前のためならちょっとした無茶だってやってやる、だから少しだけ信用してくれないか?」


俺は奴隷という立場じゃない、他人を信用することがどんなに難しいかなんてわからない。


それでも俺は言わなければいけないと思った。


手の平の下正確に言えばシトリンから嗚咽音が聞こえる、こういう時、俺はなんて言えば良いのかわからない、残念ながらこう言うのは同性であるユキノの方が理解できると思う、男の俺はただ静にそして少し乱暴に目の前にいるシトリンの頭を撫でてやることしかできない。


「ひくっうっ」


ぶっきらぼに呟く。


「よく、頑張ったな」



この国のお茶会と言えばドレスなどが主流だ、菓子を嗜みダンスを踊る、貴族達の娯楽だ。

しかし、残念ながら俺達は同盟の会議の為にこの国に来たわけであり娯楽を、ましてや茶会のために訪れたわけではない、結論から言うとドレスやタキシードを持ち合わせては居ないのだ。

コロシアムを出て近くの場所に荷物を置きシトリンを寝かす、ユキノがシトリンの心臓部分に手を押し当て科学的魔法〈再生(サイ)〉を発動。シトリンの体内にある線維芽細胞を活性化させ通常じゃあり得ないほどの時間で傷などが塞がる。


「しばらく安静にしていれば骨も徐々に治るわ」

「あーなんかじわじわする」


傷が治っていく様に言い得ない嫌悪感を感じているシトリンの赤く腫れあがっている瞳はむすっとしていて、存外精神的にも回復している事に安堵する。ウィンはこれからどうするかと考え込む姿勢をし頭を抱えている、ファイト。

すると、さっきまでコロシアムに居た貴族のような煌びやかな服ではない、どちらかというと国民がもつお金で買えるくらいの少し汚れた服を着るモリージェリー王国では珍しい茶髪の女性がこちらを見て走ってきた。


「ここに居たんですね」


女性は大きめの紙袋二つを両手で持ちながら安堵の表情でそれをこちらに渡してくる。


「?」

「すみません、私はこの国に住んでるアルナーと言う者なんですが…ヴァルレオーネからの客人ですよね?」

「え、あっはい」

「よかった、突然茶会に呼ばれた友人が居るから助けてくれと恋人に頼まれて」


そんな親切な奴に会った覚えは全くないんだが…そう思った瞬間、ハッと目を見開いた、王女側の奴ら以外でまともに会話したのは確かに1人しか居ない。


「あんた、その恋人って東洋人の煙草吸ってるやつか!?」

「えっあ、はい」


その言葉にシトリンはぽかんとしユキノとウィンは思い出したように顔を見合わせる。あのユキノに変な質問をした胡散臭い男のつかみ所の無い行動に複雑な感情を抱くが認めたくないが良い奴ではあることは確かだ。


「私、東洋人で良かった」

「それな」

「な」


俺達の謎の納得にシトリンはただキョロキョロと俺達の顔を見て眉をひそめている、これが終わったら説明するからと言い女性に感謝の心を伝えると女性は顎の下で手を握り締め優しく微笑んだ。


「いえ、これも神の教えです。困った隣人にも自身の事のように愛す、貴方が自由になる日をそして皆様方の未来に幸せあらんことを」


ここで弁解しておこう、この国にはこの女性のように奴隷制があっても神を信じ平等を願う心優しき人物も居る。

それだけが何よりも大きな収穫に思えてしまうのはこの国が自分の思う普通とはかけ離れた物だからだと思えてしまう。


「本当に助かった」

「助かりました、ありかとうございます」

「ありかとうございます」

「ありがとう」

「その言葉を貰えるだけで私は嬉しいです」


そう言って親切な誇り高き女性は仕事があるとさっき来た方向とは逆の方向に進んでいく。

この国に来て始めて、この国も捨てたもんじゃ無いと思えた、この出会いはきっとシトリンの外の世界に対する感情を変えたであろう。

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