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天涯記  作者: 浅黄 東子
第1章 術士と自由の革命
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青い空


冷や汗が背中をつたう、だんだんと口から水分が抜けていく鼓動の音が耳にはっきりと聞こえてきた。

無言を肯定と受け取ったのか男の口角が上がる、俺達は科学的魔法が無効化された瞬間、小型ナイフの柄を握り戦闘態勢に入る。 


「まぁ待てよ、ここは人が多い…それに良いのか?そこの赤髪、腕を止めてたらそのシールドはこじ開けられないぞ?」


突然ヴァルレオーネ語を使いウィンの手元を注意する男に俺とユキノは疑わしそうにジッと見つめた、ウィンは突然の指摘に放心した表情を浮かばせる。


「別に俺は邪魔しに来た訳じゃない、あーあれだ人探しだよ人探し…まぁ本当はヴァルレオーネ人など殺したいほどだが…なぁそこの東洋人」

突然、投げかけられた事にユキノはハッとし頭を傾けた。

「わた…し?」 

「そうそう、なぁ君は幸せか?」


男は煙草を口元に持っていき、すぐに口から離し煙と共に息を吐く、その行動の中でも一切ユキノから目を離さない。

ユキノは考え込んでいるのか唇をぎゅっと結ぶ、考えるのもわかる突然同じ東洋人から「幸せか?」と聞かれても戸惑うだけだ。


「……………………………………私は今の生活に満足してるわ」 

「それを聞ければいいわ、同じ東洋人だったら信頼できる」


もう一度フーと煙と息を一緒に吐く、おもむろにシールドに近づくと煙草の火を消すかのようにシールドに押しつけグリグリ回すと煙草を中心としてシールドは溶け出した。

目を見開き反射的に男の方を見ようとした、しかし男から目を離した隙に男の立っていた場所には誰も居なく唯、煙草が重力に従って落下するだけ。

金色の髪が多いこの場所にユキノ以外の黒髪は何処にも居なかった。




私は怒りでどうにかなってしまいそうだった。

どうしてそうなったかなんて覚えてない、でも合図したように私の中で永遠に忘れておきたい屈辱の過去が蘇ってくる。


4つの頃まで何も知らずにのうのうと生きてた自分が、「母親の身分を産まれた子供に引き継がせる」と言ったこの国の法が、主人である男にどんな意思にも従わなければならない事が、私にとって吐き気と憎しみ、殺意しか残さなかった。

例え私達奴隷が暴力や辱め、死を与えられようとも彼等は罰せられない、私達を守り人権を与えてくれる法律など何処にも無い。

 

私達の法律は権力者や金によって奪われたのだ。


そんな事が頭の中を駆け巡る、体中が熱でも出たのかと思うほど熱い、だがそれは辿り着いたもしもの未来によって急速に凍りついた。

 

もし、もしもだ恥と不幸と屈辱の人生をシルバー達に知られたらどうしよう、優しく賢い彼等の事だ心を苦しめるだろうか?それとも嫌われてしまうのか?


もし、もしもだ私の主人に知り合ったことがバレたら不幸な人生に彼等が堕とされてしまう、ユキノはとても美しく綺麗な女性だ、思い出すのもおぞましい屈辱を与えられるかも知れない。


私の儚い希望や夢がごっそり消える感覚が私を襲う、それと同時にお腹あたりが酷く重く感じる。


薄暗い年月は忘れてしまいたい事で一杯だ、元々今の主人の娘の物だった私は病に伏せたお嬢様が遺言で自由を与えてくださると口約束を結んでいたが…


『奴隷番号1049番お前は娘の遺言によって俺の息子の物へと譲渡された』


希望はすぐに消えさり今の主人の物として引き継がれたのだ、それから何年間もあの男の元で苦しみ嘆いてきた、死んでしまいたかった、そんな時逃げるための好機が見つかった、逃げたらどうなるかなんてわかってたが私は変わりたかった、今の自分から一歩踏み出す勇気が欲しかった。


私は私の武器を握りしめ目の前の私達の未来の邪魔になる魔物に対して頭上に向かって振り下ろす。

だが寸前でひらりと避けられる、もし今危惧していることが全てこの魔物に話されたらそれこそバットエンドだ。


「ドウシヨウ、モシ私ノ過去ガ…」


やめて、お願い、それだけは、やっと手に入れた幸せを奪わないで!






「シトリンっ!!!!!!!!!」






さっき居た場所とは反対側、ちょうど私の視界の先に落ち着く銀色の髪を揺らしたシルバー・オーラが私の名を叫んだ。

その事によって今まで焦っていた気持ちが嘘だったかのように落ち着き始め私は心の何処かでそっと息を吐いていた。


目の前の魔物はシルバーの声に反射的に反応したのか私を見続けていたその瞳はシルバーと合い目標が彼へと変わった、私は瞬時に「駄目だ」と思い武器をもち切り刻もうとしたがそれよりも早く左側の唇が動いてしまった。


「青イ、青イ空、誰モ起キナイ…アァ、アノ時死ンデ…」


ザシュッ!!







フィーリングテイクが俺の過去を覗き込み口にした数秒後、シトリンによって呆気なく斬殺された、取り敢えず勝ったのかと観客から拍手と歓声がシトリンに向け贈られる中、驚いたような表情でシトリンは俺を見上げていた。

フィーリングテイクとの距離が近かったせいかきっと最期まで聞き取ってしまったのだろう。

VLN-735を杖代わりにして肩で息をするシトリンは目を見開き口をハクハクと動かしている。   








「青イ、青イ空、誰モ起キナイ…アァ、アノ時死ンデシマエバドンナニ(しまえばどんなに)楽ダッタノダロウ(楽だったのだろう)



   


 




俺は空を見上げた、空は雲一つ無い青空で俺はこの青空が大っ嫌いだった。それ以上に自分が憎くて仕方なかった、生きていることも全て何もかも許せるはずが無いのだ、あの時、逃げてしまった事は決して変えられない事実であり真実だったのだ。


まだ思い出せるあの時の俺を通して違う物を見る違和感を、俺はそれを…。

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