03【他称変質者、自称神】
未だ、現実と夢の狭間を行き来している
ニャルラトホテプは乾いた微笑みを
維持するための力をあっさりと放棄した。
そしてふらりと立ち上がると、いつも
そうしているように威圧的な態度で少女を
見下ろした。
「人間の女。このオレを見ても正気度が
下がらないなんてなかなか肝が座っているな!
気に入った、このニャルラトホテプ直々に
とっておきのプレゼントを......」
少女は突然態度の変わった外人風の男を
胡散臭そうに見つめた。
そしておもむろにジャージのポケットをまさぐる。
「あ?どうした、女。スマートフォンなんか持って...」
「お気になさらず。ただ警察に通報している
だけなんで」
そう言っている間にもポンポンとタップ音が
響く。ニャルラトホテプは「げっ!?」と
小さく呻き、猫のような素早さで彼女から
携帯端末を奪い取った。
「ちょ!何すんのよ変質者!!」
「誰が変質者だ!神に行政機関を吹っかける
とはなんて不逞なヤツっ!!!」
「神とか、何言ってんのウケる」
プッと口を尖らせて少女は吹き出した。
少女から見れば完全にニャルラトホテプは
変人の極みである。というか寧ろ頭が
イカレていると思っている。
「えぇい!何故オレをそんな目で見つめることが
できるんだ!!.....ハッ?!」
彼は見てしまった。
ぼんやりと暗くなるその窓に映し出された
今の己の姿を。
背の高いスラリとした体。
不気味な程整った美しい貌。
どこまでも飲み込まれそうな深い夜空の色の瞳。
そして癖の強い、輝く黄金の髪。
(......うげっ、いつのまに人型になってたんだよオレは...っ!?)
正しくはかなり前から人型になっていた
ニャルラトホテプだが、残念ながら彼のいるべき
世界には鏡というものは存在しなかった。
否、必要とされていなかった。
そして今までの行動を思い起こし、彼は今
どうする事が正しいのか、生物を超越した頭脳を
フル回転させる。その時間は一秒にも満たなかったであろう。ニャルラトホテプはすぐに目の前の
少女に狙いを定め、手首を躊躇なく握った。
「ひっ!?!な、何すんのよ!!?」
当然の反応をする人間をせせら笑うと
彼は強引に少女の背中を壁に縫い付ける。
そして手首を握りしめたまま、無貌の神は
とある体位をとった。
そう、壁ドンを____。