01【症状、気絶。】
眩い輝きに目を細めながら
ニャルラトホテプは先へ進む。
歩いた時間は数分だったかもしれないし、
たった数秒だったかもしれない。
そもそも空間と次元を捻じ曲げるこの呪術に
時間なんてものは存在するのか?
そういった事をぼんやり考えていると、
気付けば彼は『そこ』に立っていた。
彼の視界に広がる『そこ』は勿論
見慣れたアルデバラン星
__で、なければならないはずであった...。
そこに広がるはそれなりの広さを持った
人間式の小部屋であり、窓から見える外には
車が数台、走り去って行った。
(......なるほど)
ニャルラトホテプはその尋常ならざる知識を
フル回転させ、結論に達した。
(兄貴め...、覚えてやがれ...っ!)
体がおぼつかない。
ふらふらと空間が歪んで見える。
頭がどんどん真っ白に染まっていき、
意識が完全に途絶える寸前、ガチャリと背後から
ドアが開く音がして...
「さーて!宿題も終わったし何しようか、な...
..........は?」
背後に若い女の声を聞いたのを最後に
ニャルラトホテプは顔面からバタンッ!と
床に倒れ、そして、ピクリとも動かなくなった。
「...は?ちょ、はああぁぁぁぁ!!!???」
後には不幸な少女の絶叫が残されるだけだった。
☆
(待って待って、なにこれ、は?どういうこと??謎すぎ、笑えないんだけど??)
少女は絶句した。
先程一階の茶の間で面倒な宿題をようやっと
終わらせて、さーて自由だー!となった瞬間、
自分の部屋に頭から倒れ込んだ謎の男が
そこにいたのだ。
(ま、ちょ...待って......。そもそもこの人
どこから入って来たん??だってここ二階...
い、いやそれより大丈夫?生きてる??)
この不審人物に聞きたい事は山ほどある。
それなのに当人は完全に気絶しているのか
か細い息の音しか聞こえない。
「......マジ意味分かんない...っ」
色々沸き立つ文句や疑問やその他諸々を
何とか一言にまとめると少女はわしゃわしゃっと
髪を掻き乱す。
そしてポケットに入れておいたスマートフォンを
手に取ると一心不乱に画面をタップして
『人間 気絶 対処法』と検索を掛ける。
そして検索結果に従いながら、ぎこち無く
謎の男を介抱するのであった。