03【オレと兄貴とタピオカと】
ニャルラトホテプの兄ということもあり、
彼_つまりヨグ=ソトース_は
良く似ている兄弟であった。
癖の強い金髪も、鋭い紫の瞳も
とても良く似ていたが彼の纏う優しげな
ヴェールはニャルラトホテプのソレとは
一線を画していた。
弟から言わせて貰えば、兄は
『神が良すぎる』性格なのだ。
「久々に訪ねて来てくれたと思ったら......
どうしたんだい、そんなにやつれて...」
ふわふわとヨグ=ソトースの辺りを浮かぶ
蛍光色の玉も主に倣ってか、ニャルラトホテプの
周りを浮かび始めた。
「親父がオレをボロ雑巾みたいに扱うから
ゆっくり休む暇も...あーっ!このタピオカ
みたいなやつ邪魔くせぇな!!!」
彼は怒りに任せてエネルギー体の一つを
平手打ちで床に叩きつける
ペチィンッ!!という鋭い音を立てると
まるでスーパーボールのように兄の
エネルギー体はポンポンポンッ!!と
四方八方に弾け飛んだ。
「ひぃぃいい!!何すんだよニャルくんっ!!
俺のアイデンティティがぁー!!!」
あわわ...!とヨグ=ソトースは口元に
手を寄せて顔を真っ青にする。しかし
そんなもの意に介さずな弟は近寄ってくる
鮮やかなピンクのエネルギー体をギュッギュッと
握り締めながら話を続けた。
「おかけでヘトヘトだ。
やれフルートが聞きたい、だの
やれこの楽器は嫌だ、だの
やれもっと面白い玩具を持ってこい、だの
オレは天下のニャルラトホテプ様だぞ!!
このまま親父にこき使われて一生を終えるのかよ!!」
「ニャ、ニャルくんそんなに乱暴に
俺のアイデンティティを扱わないで......」
その直後、パァッン!という風船が割れる音に
近い音が鳴り響く。
ニャルラトホテプは邪神に相応しい怪力で
手に持ったエネルギー体を握り潰したようだ。
「ごはぁっ!!やりやがったなっ
ニャルくんホント勘弁してッ!!!」
「くっそ、もう潰れやがって。
脆さは人間といい勝負だな、このタピオカめ...」
ドロドロと溢れ出す気色の悪い蛍光色の液体が
手のひらから零れ落ちるのを少し見送る。
そしてつまらなさそうに液体を舐め始めるのだ。
彼の真っ赤な舌は名状し難い蛍光色の液体を
ぬるりとすくい取り、口内へと運ぶ...。
「俺のアイデンティティを散々に扱った
挙句、人間と同じ防御力とか俺なんかした!?
その言葉の撤回を求めるぜ!?!」
短いポニーテールがヨグ=ソトースの
怒りに合わせてピョンッピョンッと跳ねている。
怒られた当人は液体を舐め終わり、自分の
上着で手のひらを拭うとケロッとした顔で
「だからさ、ちょっと疲れたから外出
したいんだよね。『門の創造』してくんない?」
「謝罪の!言葉を!求める!!!」
「はいはいゴメンネー。
兄貴、門の創造してくれよー」
「ぐぬぬ......!
...っはあ...もういいや、分かったよ」
わしゃわしゃ、と濃い金髪を自分の手で乱すと
短いため息を吐いて弟を『次元の裂け目の間』へ
連れて行く。そんな兄の姿を見て、弟は
(やっぱり優しすぎるよなー)
なんて、呑気に思うのである。