02【次元の裂け目の間】
(くそっ!!親父め、オレの事何だと思って.....)
ニャルラトホテプは腹立ち紛れに
近くの壁を殴ろうとするも、それは
あまりにも愚かで阿呆くさいものだと
理解したようだ。憎々しげに舌打ちをすると
首を勢いよく振り、彼は目的地へと歩みを
早めるのである。
別名、無貌の神とも呼ばれる彼が
行き着いた先は限りなく白に近い輝きを放つ
『無』の空間。
しかしその空間の中心には何処までも高く
そびえる、巨大な扉が不自然に放置されていた。
彼はこの空間の正しい名前など知らないし、
知ろうともしなかったが、あえてこの場所に
名前をつけるとするならば彼はきっと
こう名付けるであろう。
『次元の裂け目の間』と。
ニャルラトホテプはキョロキョロと辺りを
見回す。彼の探し神はここの主なのだから
居ないはずは無いのだ。
.....と、そこで彼の深い紫色の瞳がキラリと光る。
目的の神では無いにしても、それに近い存在を
彼の瞳が認めたのだ。
スタスタとその存在に近づくニャルラトホテプ。
ソレは人間を少し小さくしたような姿を
しており、ローブをまとっていた。
「我が名はニャルラトホテプ。
タウィル・アト=ウムル、貴様の主である
副王、ヨグ=ソトースに面会を願いたい」
その声を受けた忠実なる従者は目の前に
立つのが神々のメッセンジャーである
無貌の神である事を確認した後、恭しく一礼し
しわがれたような、若々しいような、
表現し難い声を絞り出した。
「どうぞ、こちらへ......」
タウィル・アト=ウムルに先導され、
彼は次元の裂け目の間を本の少し後にした。
案内された空間は、人間から見れば異様な
ものだった。
美しい天幕がサラサラと心地よい音を奏でて
いるも、その天幕は空間の狭間から突然顔を
出しているようであり、更には所々空間が
歪んでいるのだから並の人間では普通では
居られなくなるのが落ちである。
「ヨグ=ソトース様。ニャルラトホテプ様が
是非とも貴方様にお目通り願いたいと」
その声を聞き、一番奥の天幕で隠されている
影がピクリと動いた。
「分かった。お前はもう下がっていいぞ」
主のその言葉にローブのソレは再度礼を済ませ、
姿を消す。ニャルラトホテプは何という事でも
ないが、その従者を目線で追っていたその瞬間!
「やあ、久しぶり。ニャルくん」
「.........」
彼のすぐ、目と鼻の先にそれは居た。
ニャルラトホテプは今ではもう、そういった
驚かしには慣れっ子だ。彼は疎ましそうに
眉を寄せて、三歩ほど後ろに下がる。
「そんなに近づくなよ、兄貴」
嫌で嫌で仕方がない!といった声色で
そう言われるとヨグ=ソトースはタジタジと
五歩分下がった。
彼の名はヨグ=ソトース。
時間と空間を操る神であり、ニャルラトホテプの
兄弟である。