05【爽やかなイイネ!】
「そんなそんな嘘だ、この美しく、
欠点の無い顔を汚いなんて......!!!
しかも人間の女共がイケメンにされて
喜ぶ壁ドンもやってやったと!いうのに!!」
彼の、元々小さな瞳孔が更にギュウッと
絞られた。そしてふらりと立ち上がると...。
「あああぁぁぁぁ!!!!!
オレもうお婿に行けねぇぇええええ!!!!」
バッと目にも止まらぬ早さで動き出したかと
思うと、窓に向かって彼はガラスにより隔たれた
外へ飛び出したのだ。
ガッシャァァァン!!!!
そんな騒がしい音を響かせるニャルラトホテプ。
少女の目には、その日最後の太陽によって
輝くガラスの破片、そしてアスファルトで
固められた歩道へ転がり落ちる一人の青年が
映っていた。
「...........はあ?」
少女は口元をひくつかせ、歩道に着地する
自称神をただ傍観していた。
だが、この人間の少女はただ傍観するだけでは
終わらなかった。ふつふつとした怒りが
腹部から確実に沸き上がってくる。
そして、怒りに任せて今まさに走り出そうと
している青年に向け、大声で叫びまくった。
「ニャルラトホテプぅ!!!!
あんたが本当に神様なんならっ!
この!私の家の!!窓ガラスを直していけぇぇえええ!!!!」
その声に反応したらしいニャルラトホテプは
走りながらこちらをチラリと一瞥し、
爽やかに微笑んで親指を立てた。
『グッド』のサインだ。
ブチッと少女の何かが破裂した音がする。
「何『イイネ』してんだぁぁぁあああ!!
こちとら全然良くないわぁぁぁ!!!
待て!こらっ!逃げんなっ!修理代
置いてけええええ!!!!」
少女は完全にブチ切れていた。
暦上は春だが、まだ肌寒いこの季節。
それでも少女は怒りに体を煮えたぎらせ、
上着はとてもじゃないが着る気にはならない。
少女はもうとにかく、あの無礼なナルシスト野郎
に、一発入れてやらないと気がすまない。
急いで外靴を履くと鍵をかけるのも忘れ、
チラリと翻る茶色い上着を目指し、少女は
全速力で走り出す。
この時、この無名な少女が冷静であれば
気付いたであろう。
本来、深い黒に染まるはずの地球の空が
禍々しい赤紫色に呑み込まれていく、その異様さに...。




