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レッツ異世界クッキング

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「何か必要なものはあります?!」


 にぎやかメイドちゃんに押し込まれて厨房に足を踏み入れると、忙しなく動いていた人々も、さすがにこちらを見てぎょっとした顔をした。そりゃそうですよねごめんなさーい!

 しかしノエルさんが大丈夫だというように笑顔で手をひらひらすると、向けられる視線は少なくなり、案内された隅の作業台へやってくるような人もいない。ギャラリーはサラマンダーとウンディーネがひとりずつだ。サラマンダーのあの喉元、すべすべしてて撫でてみたい。


「これ、とりあえず卵の黄身とミルクを混ぜたものなんですけど!」


 そんなに大声出さなくても聞こえてるよ!

 なんて言えないので、とりあえず器の中身を見る。うーん、ミルクセーキってほどおいしそうではない。フレンチトーストの原液みたいな感じ?

 ところで、卵って鶏のですか――なんて訊いたら、万が一の場合自分が辛くなりそうなので耐えた。だってこれわたしも食べる羽目になるかもしれないんだよ?!

 でもでも、このままじゃ少なくとも、八歳の女の子が好きな味とも思えないし……。


「お砂糖ってありますか? 甘味をつける調味料、とか」

「ありますよー!」

「高級品ではありますけどね」


 ノエルさんの補足にぎょっとする。そうか、昔は精製された白い砂糖は高級品だったってなんとなく聞いたことがある気がする。ええと、じゃあ、キビ砂糖のようなものなら大丈夫かな? やっぱりいきなり異邦人が台所に侵入して、領主のお嬢様に奇妙奇天烈なものを作ったらまずかろう。江戸時代の南蛮人とかこんな気分だったのかなーとか関係のないことを思う。


「通常は蜂蜜を甘味付けに使っているはずですが」

「じゃあ蜂蜜で!」


 ノエルさんナイス! にこにこして助け舟を出してくれたので、速攻で乗っかる。メイドちゃんは「はーい!」と敬礼。大丈夫かこの子。わたしが言うのもなんだが、警戒心ってものがないのか。

 卵、牛乳、砂糖。あと肝心なものは……


「バニラって、この世界にありますか?」


 この卵の生臭さをどうにかするためには、日本じゃお馴染みだったあのエッセンスが必要だと思ったのだ。

 とはいえ、ノエルさんもメイドちゃんも首をかしげる。うむむ、それなら。


「お菓子を作る時に、ハーブやスパイス……香りづけに何か使っているものはありませんか? 良い匂いがする植物を、粉にしたり液体にしたりとか……」

「ああ、そういうことなら!」


 言うなり、メイドちゃんはどこぞに駆けていってしまった。おー、見事に他のメイドさんや料理人たちの間をすり抜けていくぞ。ちゃんと蜂蜜も持ってきてくれるのかしら。

 その間にわたしはちょっとした装置をセッティング。その辺にある調理器具は使って良いとノエルさんが言ったから、鍋ひとつとお皿を二枚失敬。


「なるほど、概念としてあるものは通訳されるようですね。ハーブとスパイスはわかりましたが、先程のばにら?とやらはよくわかりませんでした」


 ばにら、の発音が少し不自然だ。こんなように聞こえていたのか。


「しかし砂糖にハーブに、ノノカさんは上流階級のお生まれですか?」

「え?! 普通にサラリーマンの家庭です!」

「さらりー……?」


 あああ、そっか、サラリーマンもこちらには存在しないのね。けどそんなにお高い食材ばかりなのかな。だとしたら結構申し訳ない。

 お皿を二枚、一枚は伏せて鍋の底へ、もう一枚は一枚と底が合わさるように上に重ねる。横から見たら砂時計型とでも言うのかな。で、お水お水っと……


「もしかして、ウンディーネちゃんって、水を出したりとかできますか?」


 物は試しでアニメ的に言ってみただけだったのだが。ノエルさんの返事の代わりに、それまで黙って見ていた小さく青透明な女の子が、ふわりと鍋に近づいてきた。お、これはもしや。


「……えーと、伏せてるお皿の上くらいまで、水を入れてもらえますか?」


 指で位置を示す。ウンディーネちゃんが両手をかざすと、きれいなお水がじゃばじゃばと出てきた。すごい! 精霊達自身の体躯はどの子も人間の片手にのるくらいでそんなに大きくはないのだが、どうやらさすがというべきか、あっという間に言ったことを実現してくれた。

 密かに感動していると、ノエルさんはちょっと驚いた風だったけれど小さく拍手。


「その子達はノノカさんのことが気に入ったみたいですよ。異世界の人間にも、精霊は馴染むものなんですねぇ」


 見れば赤いトカゲくんが、きらきらした黒目でこちらを見上げている。おおっ。でもごめんよサラマンダーくん、君の出番はもうちょっと先になりそうだ。

 ひとまずウンディーネちゃんに「ありがとう」を言いつつ、迷ったけれどなでなで。透けてるから表情が見辛いが、少し嬉しそう? 感触は、うーん、ゆるーい寒天みたいな感じ? わずかにひんやりとしていた。

 そうこうしていたら、「お待たせしましたー!」なんて声。顔を上げたら、騒がしメイドちゃんと……あの後ろのおじさんは誰だ? ガタイが良い、中年のおじさんだ。公爵様より若いか同い年くらいだと思う。コック服ってことは料理人さんのひとり?


「とりあえずうちで使っている香辛料をみんな持ってきましたー! あと、料理長がついてきちゃいました!!」


 おいおいおいマジか?!

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