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よくある話

「恋愛したことないヤツに合コンは無理ってことがよーくわかったわ」


 講義の合間、購買部で買ってきたプリンを掬いながら優子がため息をついた。向かいに座るわたしはバナナがまるごと入ったお菓子(但し、ハーフサイズ)のビニールを剥いている。

 優子はゆるふわ茶髪女子で、男からは「名前の通り優しいね~」なんて言われてるけど、わたしら女子からすれば何のことはない、超演技派女優なだけである。実際は仲間内でも男勝りな部類。この子のおかげで、適度なぶりっ子は世渡りには必要なのだと学んだ。

 わたしはといえば本当に十人並みの容姿だ。黒髪ロングストレートがモテるというなら、生まれてこの方ずっと髪を染めていないわたしの方がモテてもいいはずなんだが。なんなの? セミロングだとだめなの?

 リア充な優子とはしかしなぜか馬が合うので、大学に入ってからはよく一緒にいる。お陰様でそういう方面に関しては“情強”だ。


「大体、趣味が料理って狙いすぎ。こういう時は男も話題についてこられるような趣味を言うのよ、例えば自転車とかアニメとかー」


 ちょっとカチンとくる。確かに趣味ってほど上手じゃないかもしれないが、特にお菓子を作るのはそれなりに好きなのに。無駄に洋酒とかスパイスとか揃えちゃうのに!


「わざわざ媚びるために言わないってそんなこと。そもそも、全くの赤の他人のためになんで嘘までつかなきゃいけないわけ」

「だからあんたは現実的すぎるっつってんでしょーが。可愛げが足りない!」


 うるさいなー、よく言われるっての。じゃあ深夜アニメとかライトノベルが大好きですぅ、なんて言ったら会話が盛り上がったっていうわけ? そのくらいの分別はあるわ!

 別に、恋したくないわけじゃないのだ。だから二十一歳にして、勇気を振り絞り合コンデビューをしてみたほどじゃないか。

 格好いいなと思った男子に好意を抱いたことは何度かあるけど、付き合うってことをわたしはしたことがない。ちなみに優子にはバスケサークル所属の、絵に描いたようなイケメン彼氏がいる。

 その彼女にせっかくセッティングしてもらったというのに、緊張でしょっぱい自己紹介をやらかし、初っ端から会話に入れず。なんでこんな見ず知らずの男のために作り笑いしなきゃいけないんだろう……段々と馬鹿らしくなってきてしまい。まあ、料理とお酒は悪くなかったけど。

 そんな状態で収穫があるわけない。メール? 一応連絡先は交換したけど、一往復で終わったっての!


* * *


 水面に浮かび上がるような、ゆるやかな覚醒。

 遠くで不快な電子音が鳴っている。ピピピピ、ピピピピ、……段々と間隔が小さくなって、最後にはけたたましく響き始めた。

 このままだとご近所さんに迷惑かな? このマンション、家賃は安いけど壁が薄いから。まあそんなに困っていないから、大学卒業するまであと一年は住むけど。契約も二年更新だし。

 仕方がなく手を伸ばして目覚ましを止める。ボタンを一度カションと押す。いまどきみんなスマートフォンだよね、目覚まし。わたしは何となくデジタル時計を使ってるけどさ。

 ……そういえば昨日、あのくだらない合コンのせいで、優子とちょっと口論になったんだっけなぁ。なんだか学校に行くの憂鬱だな。

 もうちょっと、寝よ。

 素肌に触れる布団の気持ちよさが好きだ。顔の方まで手繰り寄せて、寝返りを打った。


 ら、転げた。


「痛っ!」


 え、何なにナニ? うち、ベッドとか買ってないんですけど。パジャマ越しの固い感触。冷たい。わたしはどこから落ちた(・・・)わけ?!

 何だか周りが騒がしい。心臓バクバク。恐る恐る目を開けると、黒い長い服――ローブっていうのかな、を着たおっさん達がさらにどよめいた。たくさん。


 ローブ? おっさん?? ――見覚えのない、部屋。


「……いせかいトリップ?」


 我ながらとても情けない声が出た。寝起きなのだ、勘弁していただきたい。

 夢かどうかを確かめようとは思わなかった。頬をつねらなくても、先程の落下の衝撃でまだ右半身がじんじんとしびれている。何せこの部屋は石造りのようだ。そりゃ痛いに決まっている。

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