トラブルメーカー
現在時刻17;40
樋口はあれからも、しばらくあの調子で、俺たちは慰めるのに無駄に時間を掛けてしまい今に至る・・・
俺たちは、部活動には入っていないので、早めの時間に帰れるはずだったのだが・・・
俺と和葉は、帰り道がほとんど一緒なので一緒に帰るという事になる・・・
だが、なぜか樋口も一緒に帰っている・・・
樋口が言うには、『苑宮をお前一人じゃ任せられないからな、俺も一緒に帰ってやる』だそうだ・・・
この時期は、この時間にでも充分薄暗い
「なんか、よくドラマとかで人が刺される時は、こんぐらい暗さだよな。」
樋口が言った・・・
縁起でもない事言うなよ・・・
「あっ 確かにそうかも」
和葉が笑いながら答えた
何でこんな事で話が盛り上がってるんだよお前ら・・・ 怖えーよ・・・
そして、和葉が何かをひらめいたように
「あっ でも、別に私達、人に恨まれるような事してないから、刺される事はないと思うけど」
そうだよ。別に、俺たち何もしてないんだから襲わせる心配はしなくいいんだよな・・・
そこに、突然樋口が
「ちょっと、悪い ここで待っててくれ」
「何だ、別に良いけど・・・ 何処に行くんだよ」
おれの質問に対し、樋口は
「少し 喉が渇いたから、そこでジュース買って来るけど、何か飲むか?」
俺は和葉に、何か飲むか、と目で聞いた。
そして、和葉は、私はいい、と目で返事をした。
「俺たちは、いいよ」
「そうか、んじゃ 行ってくるから、ここで待ってろよ。」
と言う風に、俺たちに念を賭けて、自販機の方へと走って行った。
樋口は、何を買うのかを、事前に決めていたらしく、それほど迷う事無く何かを買って戻って来た。
「うーっす お待たせ」
その手に握られていたのは、缶コーラだった・・・
「何で、わざわざ缶ジュース買って来んだよ。すぐに炭酸なくなんぞ・・・」
俺の指摘に、樋口は
「いいんだよ 缶の方がボトルより20円安いんだぞ。それに、お金を大切にする奴は、後でいい事があるんだぜ」
ただ、ケッチっただけだろ・・・
それに、誰だ!こいつに、間違った知識を教え込んだのは・・・!
そんな事を尻目に、樋口はコーラの蓋を、「プシュッ!」と、いい音と共に開けて一気に飲み干す。
なるほど・・・ これなら、炭酸がにげる心配はない。
「プハァー あー、生き返ったー」
と言い、ゴミと化した缶をここから10mほど先のゴミ箱に向けて投げつけた・・・
「あっ・・・」
と和葉が、樋口が投げた着地予定地点付近を見て、何かにきずいた。
「あっ・・・」
と俺も、和葉の見ている先を見て、多分和葉と同じ事にきずいた・・・
そこには、お兄さんが立っていた。いかにも不良といった不陰気を出している見知らぬスキンヘッドのお兄さんだ。
ふふ・・・ まさかな・・・
ほんの1秒・・・ いや、もっと短かったかもしれない。だが、この時間は、本来の時間よりも何倍も長く感じた・・・
『お金を大切にする奴は、後でいい事があるんだぜ』先ほどの樋口の言葉が、脳裏をよぎった。
そうだよ、樋口はお金を大切にした。きっと、お金の神様は俺たちを見捨てないよ・・・きっと・・・
ゴツッ、ガシャン
入った・・・ ちゃんと、ゴミ箱に入った・・・ お兄さんの見事なファインプレーにより・・・
おい、誰だ!この馬鹿に間違った知識を教え込んだのは!
「あぁー・・・」
お兄さんがとても、怖い目で俺たちを睨みつけた
俺と和葉は、同時に樋口を指差した。
お兄さんの目線は樋口に向けられた。
樋口は、振るえながらもお兄さんに親指を突き立てて、震える声でこう言い放った
「ナ、ナイスヘディング!」
ははは・・・
・・・終わったな・・・・
「おい てめぇら・・・ふざけてんのか。 普通・・・人に物ぶつけたら謝るもんだよなぁ・・・ そうだろ?」
「「「はい」」」
俺たちは声を合わせて答えた。
お兄さんはゆっくりと近づいて来る・・・
こんな時の和葉は、とてもか弱く見える。これは、俺の気のせいに間違いはないのだが・・・
そして、俺たちは近づくお兄さんにばれないように、目で緊急会議を開いた。
『おい 樋口、お前よくもやってくれたな!』
『あなた 後で処刑よ!』
と言う風に、文句の連打を与えた・・・
そんな俺たちに話を変えるように樋口が訊いた
『それより どうすんだよ このままだったら、フルボッコ決定だぞ』
てめぇ、誰のせいだと思ってんだ・・・
『大丈夫 相手はまだ一人よ』
この意見には、俺も耳を・・・ ではなく、目を疑った。
『おい それはどう言う意味だよ』
俺が訊いた・・・
和葉は答えた
『そのままの意味よ 相手は一人、こっちは三人、勝てるわ』
勝つ気かよ・・・
しかし、和葉の意見には一理あった。
そうだ。数ではこっちの方が多い何とかなるかもしれない。
樋口が小さな笑みを浮かべて、
『俺は、賛成だな。 ハル、お前は・・・』
てめぇ、誰のせいだと思ってんだ・・・
だが、この意見には
『俺も、賛成だな』
俺も小さな笑みを浮かべて答えた。
和葉も笑みを浮かべて
『なら決まりね』
そうだ、俺たちなら勝てる。
俺は、つくづく思った。持つべき物は、(馬鹿以外の)友達なんだと・・・
『なら 作戦を言うね』
反対する者は、いなかった。
『まず 樋口が相手の気を逸らすために適当に殴りかかって』
簡単に言えば、囮である・・・
『えぇ 何で俺が・・・』
『誰のせいで、こんな事になったと思ってんの・・・』
和葉が樋口を睨みつけた。
『うっ・・・』
樋口が黙った・・・
そして、何も無かったかのように続きを話始めた・・・
『その次に、ハルが隙を見て相手の動きを封じて』
よし、悪くない役割だ。
俺は、小さくうなずいた
『そして、私が、とどめをさすわ』
いいとこどりとは、この事なのだろう・・・
「おい 何さきっからこそこそしてんだ? 覚悟は出来てんだよな?あぁ・・・」
相手との距離は、約2mほどだ・・・
作戦決行のためには、充分近づいた。
『樋口 行けるわね?』
和葉が訊いた。
樋口は、少しだけ顔を引きつっていながらも、
『あ、ああ 俺に任せろ』
と、強気の発言をしているが、足はガクガクに震えている・・・
殴られに行くようなもんだもんな・・・
樋口のまいた種なのだが、少し同情する・・・
「だから、何さっきからこそこそしてんだよ!」
相手が、俺たちめがけて踏み込んできた。
ふっ それを待っていたんだよ!
樋口、出動!
樋口も相手めがけて思いっきり踏み込んだ。
「くらえ! 正義の鉄拳! 琢磨スクリュー」
樋口全力を出して、相手に殴りかかった。
相手もまさか殴りかかって来るとは、思っていなかったらしく戸惑っている。
おお、このままだったら樋口一人で勝てるかもしれんぞ・・・
樋口の拳は、相手の顔面を捉えている。
よし 行っけぇぇぇぇーーー!
樋口は叫ぶ。
「うおぉぉぉぉぉぉーーー ぐはぁ!」
・・・・・・届かなかった・・・
相手は、避けれないと判断し、右フックを樋口のボディに叩き込んだ
樋口・・・ さっきまでの、俺の期待、返せ・・・
「うらぁ 調子に乗ってんじゃねぇぞ 殺すぞ」
うわぁぁぁ・・・
樋口は最初の一発で倒れこみ、腹を蹴られまくっている・・・
今日食った飯が、納豆で良かったな・・・
だが、樋口しっかりと役目をこなしていた。
そして、樋口は痛みをこらえて目で、俺に訴えてくる・・・
『い、行けぇ!ハル い、今だ!』
そう、告げると樋口はゆっくりと目を閉じた。
樋口の口は、少し微笑んでいる様にも見える
樋口は、俺たちを信じている。
和葉もそんな樋口を見て、驚きを隠せないでいる・・・
樋口・・・
そうだ。次は俺の出番だ・・・
樋口、お前の犠牲は、決して無駄にはしない。
俺、出撃!
俺も相手に向かい、思いっ切り踏み込んだ。
相手も俺にきずいた。
えっ・・・ ウソ ヤバイ・・・ やられる・・・
だが、異変はその時にはもう起きていた・・・
向こうも、俺の方へ向き代えようとして、その異変に気がついた
気を失っているはずの樋口が、相手の右足にしがみついていた。
「何だ こいつ放せ、放せ!」
相手も、樋口の行動に少し顔を引きつらした。
部外者から見れば、樋口はとても不恰好である・・・
だが、俺たちから見ればこれほど格好の良い樋口はない。
俺は、戸惑う相手の後ろに回り、相手の両脇に手を回し、自分の肩を握った。
「このぉ てめぇら、何なんだよ!」
俺は、その言葉を聞いて、少し微笑んだ。そして、最後の一人に向かって叫んだ。
「行けぇぇぇ---! 和葉ぁぁぁぁーー!」
和葉は、もう踏み込んでいた・・・
「うん 任せて!」
和葉は、笑っていた。
相手は、右足、両手を封じられている・・・
相手も、もう殺られると感じただろう。目が少し涙ぐんでいる。
和葉のパンチは効くぜ、と心の中で教えてあげた。
和葉が拳を握った・・・
この泣きっ面にパンチが飛んで来るんだと俺は、思った・・・
だが、和葉はなぜか勢いを止めずに、肝心な所で拳を下に振り下ろした。
え・・・ この、距離まで来て、何で・・・
だが、和葉の拳に換わって、右足が振り上がって来た。
え・・・ 蹴り? 何処を?
和葉の足の行き先を俺は、予測した。
・・・股の付け根
和葉の足は、正確に股の付け根を捉えていた・・・
「うりゃぁ!」
そして、和葉の足は、ものすごい勢いで、股の付け根を蹴り上げた。
殺りやがった・・・
「だっ・・・!」
と言う、短い悲鳴だけ上げて、お兄さんは口から泡を吹いて力が抜けた・・・
俺は、お兄さんの呪縛を解いてあげた。
そして、股間を押さえながら、ピクピクけいれんするお兄さんに向かい手を合わせた。
痛いだろうに・・・
この痛みは、俺たち、男にしか分からないのであろう・・・
いくら敵だったとはいえ、少し同情してしまう・・・
そして、和葉は、
「す、少しやりすぎたかな・・・」
そして、俺は手を合わせたまま答えた
「やりすぎだ・・・」
今回はちょっとしたトラブルや、日々日常的和葉と樋口と晴紀の行動を書いてみたつもりです。




