可能性
俺はまず、迷うことなく建物の真ん中にある扉へと向かった。
俺が、『霊界への扉』と変な不安を抱いてしまった、扉だ。
扉の前に着くと、意外と人が少なくあっさりと近寄れた。
だが、目の前にある扉は、見た目は変わらないが、夢で見た扉よりもきれいだった。
扉をゆっくりと前に押すと、ギギィッ、と音を立てながら開いた。
中に入ると、そこは畳張りではなく、木の床だった。
薄暗くてよくは見えないが、なんか、夢で見たのとは少し違う。
と、その時だった、
「そこで、何をしている!」
「どわぁ」
と、いきなり右側から怒鳴られて、変な声が出てしまった。
そこには、私服の胸元に、ここの従業員の証である名札をした男の人が立っていた。
「ここは、立ち入り禁止のはずだが!」
と言って男の人は、『立ち入り禁止』と書いた立て札を指差した。
「すいません ちょっと中を見たくて・・・」
とここは、素直に謝った。
だが、ここまで来たんだ、何も収穫なしでは引き下がれない。
「あの すいません ちょっと訊きたい事があるんですが、いいですか?」
男の人は少し意外そうな顔をしたが、
「ああ べつに構わないが・・・」
と言う答えが返って来た。
「あの ここの扉っていつからあるんですか?」
まず、俺がここに来て一番最初に気になった事だ。
「ああ この扉は、このお寺が建った時からあるから、80年ほど昔だが、18年前に一度作り直している」
これで、一つの可能性が消えた。
「だったら、中もその時に・・・」
と二つ目の質問をした。
「ああ そうだよ 中も相当古くなっていたからね・・・」
「もしかして、床張りになる前は、畳張りだったりって事あります?」
その質問には、男の人は嬉しそうに、
「へー 君、結構詳しいんだね。 そうだよ、古い畳だったからね、カビも生えてたんだよ。」
これで、二つ目の可能性が消えた。
俺はここに昔来たことがあったので、その記憶がよみがえって夢に出てきたんじゃないかと少し思っていた。
だが、ここの扉や部屋が新しくなったのは、18年前、俺がまだ産まれる前だ。
覚えているはずのない事が、夢に出てくるなんて事はない。
テレビの可能性もあるが、ここが有名になり出したのは10年ほど前だ。
昔の映像があったとしても、カビの生えた部屋を、わざわざテレビで流すとは思えない。
「あの ここの住職さんって、今何歳ですか?」
男の人は少し意外そうな顔をして、
「確か、68歳だったと思うけど、どうして、そんな事訊くんだ」
「いえ 少し学校の課題の一つで・・・」
適当な事を言っておいた・・・
男の人は、感心したように、
「へー 今ごろにもそんな学生がいたか・・・」
そう言うと、男の人は俺に背中を向けて、
「それじゃあ 俺は、仕事に戻るが、まだここに居るか?」
「いえ 仕事の邪魔をしてすいません」
と俺は謝った。
「そうか 少年も勉学にはげめよ」
と言って、行こうとした所を俺が、引き止めた
「あの すいません あと一つだけいいですか?」
男の人は立ち止まって、顔だけを向けた
「このお寺の裏に、お墓が一つだけあったりしますか?」
男の人は、答えまでに少し間を開けると、
「はははは そんなのはないよ。表にならたくさんあるけどね・・・」
そう言うと、男の人は俺に手を振りながら、仕事に戻って行った。
墓は・・・あるな・・・
これは、理屈がどうとか、可能性がどうとかじゃなくて、単に俺の勘だ。
なんとも言えない確信を胸に、俺は部屋を後にした。




