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 2―2

「それでもいいけれどその前に、一言ぐらい何もないのかしら」

「謝らんぞ」

「……お前は本当に可愛くないわね」

「結構だ」


 ルクエールから腕を取り戻しふいと踵を返すと、その横にルクエールも並んで歩き出す。


「…………何だ。まだ何か用があるのか」

「あの娘はどうしたの」

「貴様の知った事ではあるまい」

「なくなどないわ。お前は私のものなのよ。――大体、人間などを相手にして周りに何を言われるか考えないの?」


 マナを庇い部屋にまで招いた事を知られれば――言われるだろう、間違いなく。

それが煩わしくないとは言わない。だが。


「それがどうした。俺様がマナを気に入った。俺のしたい事をするのに誰に(おもね)る事も無いわ」

「……ソウル」

(お前は本当に――強いのね)


 それが発揮されているのが人間の小娘に、というのが気に食わないが、それでもやはりソウルのこの強さが、好きだ。


(……私には出来ない)


 それが出来るのなら、ソウルを夫にと素直に望むだろう。

しかし怖くてルクエールにそれは出来ない。ハーフであるソウルへの反発を負うのが怖いのだ。

 ソウルとの出会いは最悪だった。ソウルにとってもそうだろうが、ルクエールにとっても。

それまで同世代ではラーにしか負けた事など無かったのに(アレは別格なので戦えるとも思えない)、更に自分よりも年若いソウルに負けたというのが。人間の血を引いた恥さらしなど見たくもなかったからそれまでルクエールはソウルの顔を知らなかった。

悔しかったし腹立たしかった。半端なくせにそんな才を受け継いで生まれて来たソウルも、そんな半端に負けた自分も。

――殺してやろうと、本気で思った。喜ぶ者こそ居れ、悲しむ者など居るはずもない。


(そう思っていたのにね)


 そしてそう思っていたのはルクエールだけではなくて、中にはルクエールが眉をひそめるような手段を取る者もいた。

だがそのどれにも、ソウルは屈しなかった。

それを生意気だ、と思わなくなったのはいつからだろうか。


「……」


 無言になったルクエールにちらちらと視線を向けながらソウルはどうしたものかと困っていた。


(どこまで付いて来る気だ)


 部屋まで来る気ならこのままではまずい。マナを見られたらまた煩いに決まっている。

丁度注意は逸れているようなのでどこかに逸れてやり過ごすか――と足を止めると、考え事をしているというのにルクエールはすぐに気が付いた。


「どうしたの?」

「そりゃ俺のセリフだ」


 嫌だったが、波風立てるのを承知でそうソウルは口火を切る。このまま延々隣で歩き続けるよりはマシだ。


「何で貴様と並んで歩かにゃならんのだ」

「だから言ってるでしょう? お前は私のものなのよ」

「ふざけんなっ! いい加減に――っ!」


 怒鳴りつけようと声を荒げ、不意にルクエールの背後を取った人影にはっと眼を見開く。


「ソウ」

「伏せろ!」


 呼び掛けを遮りソウルはルクエールの体を押し倒す。そのルクエールの頭の上を魔力の塊が通り過ぎて事態を悟り、すぐさまルクエールは槍を創り出し当たりの気配を探り――


「無駄だ。逃げやがった」

「……そのようね」


 更に慎重に辺りの魔力を探ってから、しかし反応は感じられずルクエールは頷いた。


「人間だったか?」


 見てはいないが、つい先程魔王から忠告された事もあってソウルはもしかしたら同じ奴かもしれないと、その可能性をルクエールに訊ねる。


「判らないわね。――お前は怪我していない?」

「する訳無かろうが」


 立ち上がり、つい先程そこに人影が居た場所を睨みソウルは笑う。


(面白い。何者か知らんが戦りがいありそうではないか)


 今度もマナと同じく全く気配を悟らせずにここまできた相手だが、明らかにマナとは違う。確実に優れた魔力を持った強力な魔術師だ。城の結界に反応しなかったという事は結界師達よりも上の実力を持っているという事になる。

この目で見るまでは信じられなかったが、それが事実だ。


「……ソウル」

「?」


 元々ソウルは好戦的だ。遠慮なく戦えそうな相手の実力に期待して少し楽しくなっていた所に声を掛けられ我に返った。


「庇ってくれるのね」

「はぁ?」

「庇ったんでしょう? さっきのは」


 ――確かに庇った。咄嗟だったのでつい、というのもあるが。


「それが何だ。人間如きに魔族が手傷を負わされるなど面白くないからな」

「……そう、有難う」


 少々複雑そうに、しかし確かに笑みを浮かべてルクエールはそう言った。


「では次はお前を守ってやらないとね」

「いらんわ!」

「照れる事は無いでしょう。魔王に守られるなら恥ではなくてよ」

「お前はまだ魔王じゃなかろーが! つーか魔王になんのは俺だっつってんだろうが」


 男だ女だと言うつもりはない。正直魔族において性別は強さに然程関わり無いからだ。自らの体に魔力を巡らせ防護、強化し敵を粉砕する――

つまりは魔力の高さと肉体のキャパシティが全て。そこに男女差は生まれない。ただし魔力を使わなければやはり肉体に男女の筋力の差は出るが。


「お前は魔王にはなれないわ」

「何を……っ」


 かっとして振り向いて、そこにあったルクエールの表情にソウルは言葉を詰まらせた。

そこには揶揄や嘲りというようなものは無く、ただ――真剣に。


「私ならお前を裏切らず可愛がってあげるわ」

「必要無い」


 だからソウルも手拍子で受けてのセリフではなく、きっぱり彼女の眼を見据えて言い切った。


「俺は俺の実力(ちから)で居場所を作る。お前は俺に追い落とされる心配をしているがいい」

(……揺らがないのね)


 ルクエールの手を取れば楽なのに、自分の望まない妥協は絶対にしない。


「今日は戻って寝る。用があるなら明日以降にしろ。お前も戻れ。人間相手に後れを取りたくないならな」


 そう言って再び歩き出したソウルを、今度はルクエールは追ってこなかった。


(良かった……!)


 自分に付いてこなかったルクエールにソウルは内心冷や汗を流しつつ安堵した。

上手く逃げられた。良かった。本っ当に良かった。

足早にその場を離れつつ自分の部屋のある第一邸へと向かう。呼ばない限り人も来ないから大丈夫だとは思うが。


「――マナ、いるか」

「あ、お帰りソウル」


 先に言い付けた通りマナは大人しくソファに座って待っていたようだった。

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