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 1―5

 絶句し、しばし沈黙したかと思えばルクエールは低く暗い声で笑い始めた。ソウルは全く気が付かなかったが、マナは確かにルクエールの声に傷付いた響きを感じ取ってはっとした表情になる。


「自分が誰のものなのか、しっかり調教してあげるわ!!」

「ふざけんな! 俺は俺のもの以外の何者でもないわ!!」


 叫び、魔力を集中させ始めたルクエールに備えてソウルも構えようとして。


(うっ)


 元々魔術を使える程の魔力はもう残っておらず、それはルクエールも同じようでそこはほっとしていたのだが、更にソウルの方には武器を生成する魔力すら絞り出せそうになかった。


「ふっ! どうやらまだ武器も作りだせないようね!」

「くっ」

(マズい、いくら何でも素手では――)


 焦るソウルに構わずルクエールは地面を蹴る。むしろ絶好の好機と言える。


「ちっ!」


 舌打ちをしてマナの手を取るとソウルはその場から逃げだした。


「逃げ切れるの?」

「知るか!」

「あの人の武器、何か特別だったりする?」


 ソウルに手を引かれて走りながら、マナは後ろのルクエールを見ながらそう聞いて来た。


「アレはただ魔力が武器の形をしているだけだ。間接攻撃をして来んところを見るにどーやらあいつもそう余裕はなさそうだがな!」

「成程」


 頷き、マナはぱっとソウルの手を振りほどく。ぎょっとして慌てて止まろうとして、体がつんのめったが、しかし何とか倒れるのは耐えて振り返る。


「おい、マナっ!?」

「ただの武器なら大丈夫」


 すいと足に手をやって、スカートの内側から忍ばせていた剣を取り出す。流石にやや短めだが、短刀という程短くはない。


「どけ! 人間!」


 ソウルに対する時とは違う、本気でマナを殺す力を込めルクエールは槍を振り下ろす。


「ふっ!」


 短く鋭い呼吸と共にマナはルクエールの槍を絶妙のタイミングで跳ね上げ、無防備になった懐に飛び込み足を掬って倒し、その上に乗って首元に刃を当てて動きを封じた。


「くっ……」

「全然甘いわ。ちゃんと武術修めてるの?」


 マナの剣は『技術』である。普段ルクエールは――というかソウルもだが、力任せに叩っ斬る、のが普通なのである。強大な力を持つ魔族故の戦い方だ。


「ちょっと寝ててね」

「うっ!」


 鳩尾に拳を叩き込み、びくんとルクエールが痙攣して体から力が抜けたのを確認するとマナは馬乗りになっていたルクエールの上から立ち上がった。


「行こ」

「ってどこにだ」


 マナに手を引かれうっかり歩き出してしまってから、手を振り払って隣に並びながらそう訊ねる。


「とりあえず彼女が起きる前にここから離れた方がいいでしょ? お父さんの所がいいんじゃないの?」

「親父の? 何で」


 ルクエールから離れるのは大賛成だが、父王の所に行くのは微妙に気が進まない。


「だってさっきの人、『陛下が』って言い掛けてたよ?」


 そう、マナを見付けて目的がすり変わってしまったが、ルクエールは何やらソウルに用があったのだ。


「……親父か……」

「仲、あんまり良くないの?」


 少々苦いソウルの声にマナはそう気遣わしげに訊ねて来た。


「良くはないな」

「そう」

「しかし行かん訳にもいくまい。俺が正当に王位継承権を取るまで親父に何かあったら困るしな」

「王位?」


 ソウルが第二王子である事はマナも聞いた。順当に考えて兄だというラーが第一王位継承者なのだろうと判断する。訂正するのも説明するのも面倒なので特にソウルも何も言わない。


「ソールは王になりたいの?」

「……オイ、何でお前がソールとか呼んでんだ」

「さっきの人も呼んでたから。だ、ダメ?」


 仲の悪そうなルクエールが許される呼び方だから、意外とフランクにオーケーだろうと思ったのだが、自信無さ気にマナはソウルの様子を窺った。

確かにソールスティーリッヒという本名は長い。嫌いではないが。それを呼ぶ者はかなり少ない。


「まあ、いいが。ソールではなくソウルと呼べよ」

「ソウル?」


 強調された『ウ』の音にマナは首を捻った。


「だってソールスティーリッヒ、でしょ?」

ソール(天空)よりソウル()のがカッコ良いではないか!」

「……それだけ?」


 脱力してそう確認したマナに何ら怯む事なくソウルは得意げに胸を張る。


「十分な理由であろう!」

「……そうだね……」


 本人がそれが良いというなら良いのだろう。マナは同意して頷いた。


「でも律義にあの人も守ってたよねえ、ソウル」

「ルクエールか?」

「うん。もう少し優しくしてあげればいいのに。ソウルの事好きなんだよ」

「有り得んな」


 下らん、と吐き捨ててソウルは取り着くシマも無くそっぽを向く。


「どうして」

「俺はあいつをガキの頃負かしてるんだ」


 子供の頃、遊びがてらで賭け試合に参加した。魔族の中では珍しい事ではない。ちょっとした小遣い稼ぎにもなるし。


(半端の俺に負けたのが気に食わないんだろうさ)


 それがきっかけなのだろう、事あるごとにちょっかいを掛けられてきた。時と共に多少手緩くはなってきたが、初めの頃はそれこそ本気で殺されかけたのも一回二回じゃない。


(こうして生き残っているのは、ルクエールよりも俺様の方が強いからに他ならん)

「子供の頃でしょ? ……っていうか、ソウルは大人なの子供なの。魔族的に」


 年齢は聞いたが、魔族における千と二百歳そこそこというのはどれぐらいなのだろうか。


「……き、貴様よりはずっと年上だ」

「うん、良く判った」


 知識や知恵はどうか判らないが、精神的にはほぼ見た目通りで良さそうだ。


「何っか腹立つんだが貴様。……まあいい。俺はとりあえず親父の所に行って来る。お前を連れてはいかんから適当にどこにでも行け」

「て、適当にって」


 丸投げなソウルの言葉にマナはもう少し何か、と情けない表情になる。その顔を見てはぁ、と一つ溜め息をつき。


「まだ居座る気なら俺の部屋を貸してやる」

「うん!」


 ぱっと顔を輝かせたマナにソウルは再び溜め息一つ。


「お前、仮にも男の部屋に……まぁ俺様は人間なんぞに興味はないがな」


 明らかに男扱いされていないのが若干面白くないが、露骨に警戒されるのも本当にその気が無いので腹が立つ、という複雑な心境。


「付いて来い」

「うん」


 真っ直ぐ自室のある第二邸へと戻った。二階丸々がソウルの部屋であり、この上の階にラーの部屋がある。自室の中の一つである客室にマナを通してからびしとソウルは彼女に指を突き付けた。


「いいか! 勝手にウロチョロしたり人の私物に触れるなよ!」

「判ってる判ってる。――あ、ねえ」


 笑って手を振ってソウルを見送ろうとしてふと気が付いたように呼び止めた。


「何だ」

「ソウル、さっきの――……いや、やっぱり後でいいや。行ってらっしゃい」

「? 行って来る」


 多少気にはなったが元々ソウルは細かい事には拘らない性質だ。マナを残して父の私室へと向かう。


「……私の事嫌ってないなら契約してくれないかなぁー……」


 今言っても機嫌を損ね、部屋から追い出されると面倒なので言わなかった言葉を、見えなくなった相手に向けてぽつりとマナは呟いた。

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