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 1―4

「わ、判った。じゃあ俺より強い奴を紹介してやる。それでいいだろ。後はそいつをお前が口説き落とせばいいのだから変わらんし」

「やだ」

「何でだっ!?」


 もうラーに押し付けてしまえ、とか思っていたのにきっぱりマナは拒否して来た。


「ロクでもないの紹介して厄介払いする気でしょ」

「自分でも厄介だという自覚はあるんだな――ではなくて! ロクでもないのとは何だ! ラフィリアークディル・レヴァデア・ハインシュベルク。俺の兄だ」

「……兄弟の上だからって優秀とは限んないわ」


 目を伏せ、ぽつんと呟いたマナの言葉は痛い心に満ちていた。


「何だ、お前、妹だか弟だかに負けてるのか」

「はっきり言うなぁ」


 いっそ清々しいソウルの直接的な言い様にマナは苦笑して――頷いた。


「うん、そう。私の家ではね、魔力が強いのが当たり前なの。そーゆー家系なんだ。でも判るんでしょ? 私、ほとんど魔力なんか持ってないんだ」

「成程な。自分に無い力を契約した奴で補おうという訳か。他人任せにも程がある。ヘドが出るわ」


 マナの言葉に毛ほども同情せずにソウルはそう吐き捨てる。一瞬マナは怯んだ表情をしたが、すぐにきっと眉を吊り上げソウルを睨んだ。


「仕方ないじゃない! 無い物は無いんだもの! 自分に自信たっぷりな貴方とは違うのよッ!」

「……っ」


 マナの言葉にかっとソウルの頭は熱くなる。


(俺が。俺が――何もしないでここまで来たとでも?)


 半端な生まれであるソウルは、王の血を引いているとはいえ常に周囲から蔑みの目を向けられてきた。庇ってくれる者など勿論いなかった。父である王も、母を愛してはいてもソウルに心は向けなかった。

自分を王家の汚点として、殺されそうになった事だって覚えていられる数じゃない。

その周囲の態度に、怯えが無かったとでも?


(ふざけるな!)


 その周囲の者達に反発する様にソウルは生きて来た。

だからどうしたと。誰に遠慮もしない。自分を卑下する事もしない。ただ強く、強くと、自分を守る為にこうして来た。


「俺は他人任せに楽をする奴など大っ嫌いだ! 魔力が強い家系? それがどうした。魔力なんぞ無くてもどうとでもなるわ!! ならないならどうとでもするのだ!! それだけに価値を置くから何も見えんのだ、馬鹿者め!!」

「仕方ないじゃない!! 価値なんか無いのよ!! 魔力が無くちゃ……何にもない……。皆がそう見るなら、仕方ないじゃない!」

「『皆』などそれこそどうでもいいであろうが!! 他の誰が何を言おうが、お前がお前の価値を信じればいいだけだっ!」

「――……っ」


 はっとしてマナは目を見開いた。ソウルの怒り方はただ気に食わないからという相手に向けるものではない事に、気が付いたから。


「……ごめん」


 マナとて、その努力を惜しんできたつもりはない。魔力が無い代わりにと磨いた武技は、国の中では五指の指に入る程。

いつか、それをして自分を認めてくれるのではないかと――思っていた。

だが、駄目なのだ。

マナの家系で尊ばれるのは魔力だけで、他の何を持っていても駄目なのだ。


「……いや」


 マナの謝罪に少々ソウルも気が咎めた。マナが本当に何もしていないなどと思った訳ではない。事実彼女は歴戦の魔術師ですら恐れて忌避するこの魔界へ、魔力をロクに持たない人の身で来たのだから。

ただ、弱かった自分を思い出してマナにぶつけてしまっただけだ。


「ソールスティーリッヒ、だったよね」

「……あぁ」

「やっぱり私、貴方がいい。私と契約、してくれない?」

「……俺は」


 マナに力を貸すのも、悪くはないかもしれない。ふとソウルはそう思った。

しかしそうなると今度は別の躊躇いが出来る。


(俺は、半端だ)


 何を言おうと、どれだけ力があろうと――それは事実。


(俺と契約して、こいつの目的は果たされるのか? より蔑まれるだけではないのか?)

「ねえ、ソール――……」

「ソウル!」


 マナの再度の呼び掛けを遮る形で凛とした女の声が第一庭に響いて、あまり嬉しくないその声に慌ててソウルは声のした方を振り向いた。


「ル、ルクエール……ッ!?」


 何故ここに、とソウルの表情がそのまま言っていた。王家に人間の血を混じらせたソウルの母をはっきり毛嫌いしているルクエールが訪れるはずの無い場所だというのに。


(とゆーかこいつ何でわざわざ俺を捜しに)


 時間遡行の魔術で同じくらい消耗していたはずだというのに。まさかルクエールとの魔力にそんな開きがあってもう再戦しようとか――イヤイヤ、そんなはずはない。


「ソウル、陛下が――……って待ちなさい。何、その女」


 何処か慌てていたような様子はあっという間に消え去り、ルクエールはソウルの後ろに隠れていた、とは言ってもマナの方が背が高いので隠れきれてはいなかった彼女を見つけて、きっと睨み付けるとつかつかとそちらに歩み寄る。


「お前、人間ね」

「……そうよ」


 ルクエールの露骨な嫌悪と侮蔑は、ストレートにマナへと伝わった。隠そうとしていないのだから当然だが。

マナの答えが終わるかどうかのうちに、ルクエールの手に短刀が生まれ無表情にそれを首を狙って突き付け――



ギン!



 マナの首を裂く手前で、手の平に薄く張ったソウルの魔力に叩き折られた。


「何のつもり、ソウル」

「目の前で殺させるのが気に食わん程度には、俺がこいつを気に入っただけだ」

「ソール……」


 庇われた安堵と、何よりソウルの『気に入った』という発言に嬉しそうにマナの表情は輝き、逆にルクエールの表情は怒りに歪む。


「私よりも人間の小娘を取るというの」

「当たり前だろーが! 貴様選ぶよりゃなんぼもマシだ!」

「……ふ……」

「ふ?」

「ふふ……ッ。ふふふふふふ……っ」

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