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 4―2

「お前達に依頼したのはどこのどいつだ」

「言うと思ってるの?」


 勿論実際は『達』でもないがわざわざ修正してやる理由もない。

ユイリの答えにソウルは顔をしかめた。彼女をどうこうする気は無い。しかし言葉にしたのは依頼人を話せば、という前提付きでのみ。にも拘らずなユイリの態度は正直、面倒くさい。


「殺されようと依頼人の秘密は厳守か? 大したプロ根性だ」

「それでもいいわ」


 知らなければそう見えるかもしれない。的外れなソウルの言葉に、ユイリは歪んだ笑みを浮かべる。それが嘲った物を含んだ笑みである事はソウルにも当然通じてむっとする。


(可愛くない……ッ)

「お前、本当にマナの妹か?」

「よく言われるわ」


 良い意味でも、悪い意味でも。


「でも姉妹だからって似る訳じゃない。私とマナじゃ出来が違いすぎるから」

「お前……っ」


 あまりなユイリの言い様にソウルは次の言葉を言うまでに一瞬凍った。


「お前とマナは姉妹なんだろう。何とも思わないのか」


 自分とラーも腹違いではあるが、兄弟だ。一生必要ないだろうが、ラーが自分の手を借りる時が来れば出来る限り尽くしてやりたいと思うし、その力故に悪し様に言われているのを聞くと腹が立つ。

だというのに、力が無いというだけでそんな言われ方をするのか。肉親にまでも。


(いや、確かに俺もラーが何考えてるのか判らんし親父も俺を良くは思っていないが。それでもそこまで言われた事は無いぞ。……他人にならとにかく)

「思わないわ。当然だもの」

「……」


 果たしてこいつが死んでマナは悲しむのか。多少手荒くしてもいいんじゃないかと、そんな囁きが胸を掠める。


「人も魔族も変わらないわね。どうするの、ソウル」


 ソウルのように憤りはしなかったが、呆れた調子でルクエールはそう尋ねた。正直、さっきよりも格段にユイリの存在はどうでもよくなった。

まずソウルが気に入るタイプではない。


「……正直追い返してやりたいが」


 しかし送り返してもまた来るかもしれないし。今度も上手く見逃してもらえる相手に見付かるかどうかなど、尚更判らない。


「こいつは吐きそうには無いしな」

「任せてくれれば吐かせてやるけど?」

「いらん」


 ルクエールの提案は即行で拒否して、ソウルは腕を組んで考え込む。


「……仕方ないな。次の奴を待ってそいつに吐かせるとしよう。こいつはここに置いておく」

(次の奴なんか来ないけど)


 けれどそう思うのは勝手だし、どうでもいい。別にアルバトラズにだって――それ程帰りたい訳ではないから。

ユイリにとって世界は、どこでも同じ。


「そう。なら私もここに留まるわ」

「ハァッ!?」


 勢い良くルクエールを振り向くが、当然だと言わんばかりの表情で動じることなく視線を受け止められた。


「間違いが起こってからではこの女を殺しても遅いものね」

「起こるかァッ!」

「私となら間違いではないわよ」

「起こるかアァァァッ!!」


 全身全霊、全力で拒否してもくすくすと笑われるだけ。何となくこれ以上何を言っても勝てない気がしてギリギリと歯を噛みしめ堪えてふんとそっぽを向く。


「言っとくがな! 勝手に人の寝室に入るなよ! 入ってきたら一生痴女扱いしてやる!」

「別に構わないわよ」

「っだアァァァァ! お前のそーゆー所が俺は大っ嫌いだっ!」

「お前のそういう所が私は大好きよ」


 ぎゃあぎゃあと喚くソウルとそれを楽しそうにあしらうルクエールの二人を、冷めた目で見ながらユイリは苛々と手を組んだ自分の甲に爪を立てた。


(馬鹿だ。こいつ等)


 こんな下らない事で騒げるんだから、間違いなく馬鹿だ。


(理不尽だわ)


 なのにこいつ等は、何の努力もなくそれだけの力を持っている。――こんなにも自分は努力しているのに。

ソウルとルクエールのやり取りはそれだけでユイリの心を波立たせた。もうそんな物を聞いていたくなくて、目と一緒に心を閉じる。

――いつものように。回り全ての雑音を消して。

……ただ、一人の世界へと。




(……朝か)


 いつもより睡眠時間は短いのだが、体は規則正しくいつもの時間に眼を覚ました。

昨日何だかんだとルクエールと遅くまで騒いでいたせいで、まだ頭も体も目覚めきれずにぼんやりしている。

……案外、悪くないものだった。下らない話で騒いで、笑うというのは。


(普通に話せるのはラーぐらいだったしな)


 だがラーは馬鹿話をして騒ぐタイプではないので疲れる程に話す、という体験は初めてだった。


(あいつと、一緒にか)


 悪くはない、が――


(それとこれとは別だけどな!)


 一瞬過ったルクエールの愛人に収まるという想像をぶんぶんと首を振って追い出した。


(流され過ぎだ)


 どれだけ喜んでいるんだと、気を引き締めて起き上がる――と。


「!」


 ぴく、と微かな魔力に気が付いてソウルは顔を上げ窓の外を見る。知っていなければ、それが少し特別でなければ、気にも留めない程の微かな魔力。


(マナ……っ!?)


 絶対の自信を持つ自分の感覚をも信じたくなくて、もう一度慎重に探ってみて、やはり間違いがないのを確認した。


(何故だ? ――ユイリか?)


 ユイリの態度を見るにとても心配する・されるの関係になりそうにないが、それでも妹は可愛くて心配して来たのだろうか。


(全く!)


 マナが来た所で何が出来る訳もない。人間であるというだけでマナ自身だって危ないのだというのに!


立ち上がって急いで身支度を整えると、その間にもマナは動いて城へと向かってきていた。扉の場所はおそらく以前と同じだ。


(ユイリの行き先が城だと――まあ判るか。他に魔界に来る理由なんか無いんだろうしな)


 ルクエールに見付かるとまた煩そうだが、扉が開いても何の反応も無しという事はおそらくまだ寝ているのだろう。案外朝に弱いのかもしれない。

だがそうであれば彼女はマナの魔力など気にもしないだろうから、それは今ソウルにとって幸いだ。


(今起きていたらいつもは気にも留めんマナの魔力でも探るだろうからな)


 いつもより二割は早いスピードで身なりを整えると、ソウルは部屋を抜け出し町へと向かった。マナもこちらに向かってきている分だけ早く合流できるだろう。

幸い今は朝も早くて町にも人の姿は疎らである。


(いた)

「マナ!」

「――あ。ソウル!」


 名前を呼ばれ気が付いて、マナは明らかにほっとした表情をした。


「っ」


 友人だと、認めたからこその気易さだ。判っている。判っているのに一瞬鼓動が跳ねあがった。


(ななな、何だコレはッ!)


 結構動揺が表にも出てしまっていたがマナはそれにも気が付かない。


「良かった! ソウルに会おうと思ってたの! ユイリが――私の妹がこっちに来たまま帰ってこないみたいで。多分お城に行ったんだと思うんだけど」

(やっぱり妹か)


 あんな妹でも可愛いのかと、マナの肉親への愛情を感心すると同時に少し呆れた。


「ソウル?」

「いや、何でもない。心配するな。俺が預かってる」

「そうなの? 無事?」

「あぁ」

「そっか、良かった」


 安堵の息をついてマナは微笑った。それを見てやはりアルバトラズの一族を傷付けてはならないと思った自分は正しかったのだと、面倒でもそうしておいて良かったとほっとする。


「お前、アルバトラズに依頼したのが誰かは聞いたか?」

「ううん。今回の事を受けたのってユイリだったみたいで。父さんも母さんも知らなかった。びっくりしてたわ」

「そうか。……まあ、そうだろうな」


 むしろ納得した。今時魔族にケンカを売ろうなどまともな人間ならやらないだろう。何と言っても事は王の暗殺だ。


(そーいや今の今まで親父が殺されるとか考えてなかったがもし本当に親父が殺されたらこっちも黙ってられないんだな)


 ……ユイリはそれを判っていて受けたのだろうか。


(つーか依頼した方も方だぞ。万一成功したら人間と戦争でもする気なのか?)


 そんな事をして何の得があるというのか。


(やはり他国の……いやそれは無い。ラーの見解だ。ほぼ間違いない)

「――まあいい。それなら何としてでもユイリに聞くだけだ。マナ、お前も来い」

「うん」


 下手な事はしないと思うが、今ルクエールと二人きりだというのも少し心配だ。

マナを連れ――やや急ぎ足で城へと戻った。

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