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 3―4

(ともあれこれで、襲われそうな所は回った訳だな)


 後はユイリを待って捕え、黒幕を吐かせればいい。ラーの言う通り同じ魔族であるのなら報復は当然で遠慮もいらない。

ルクエールを待たせている自室へ戻るべく、ソウルが席を立つ――と同時に扉が開いてシュツィルオーレが入って来た。


(げッ)

「……汚らわしい」


 眉をひそめて吐き捨てるシュツィルオーレの横を、無視してさっさと通り過ぎた。最後に会ってしまったのは不快だが、まあ運は良かった。用件は全て済んでいる。

不快な物はさっさと忘れる事にして部屋へと急ぐ。この間にもルクエールが襲われ返り討ちにしていたらと思うと気が急いて仕方ない。

それでも騒ぎは起こっていないから、今のところは何も無いのだろう。ルクエールが手加減する訳が無いから、彼女が魔術を使えば相当の騒ぎになる。


「――入るぞ」


 自分の部屋に入るのに声を掛けるのも不思議な感じだが、中には一応女がいるので。


「お帰りなさい、ソウル」

「ああ」

「何の用だったの?」

「つまらん用だ。何でもない」

「……そう」


 当然気にはなっているようだが顔に出しただけで問い質すのは諦めた。


「……まあ、いいわ。それより――私、何もしないで時間を潰せるほど暇ではないのだけれど」

「黙ってついてきといて何を言うか。この件が終わるまでだ」

「……それが判らないのよね」


 誘われた時点で気が付くべきだったが、正直舞い上がっていて気にもしなかったのだ。しかしルクエールからしてみればやはり色々おかしい事だらけで。


「……私が人間如きに後れを取ると思っている訳ではないわよね?」


 想われているとしたら大層屈辱だ。


「あぁ」

「何故一緒に居ろなどと言ったの?」

「……っ」


 どう答えたものか、言葉を詰まらせうろたえたソウルをきつく見詰めていた目をふっとルクエールは緩めた。

その表情を保つのに耐えられなくなったかのように、代わりに浮かんだのはどこか諦めたような悲しげな表情。


「どうせ心配してくれたわけではないんでしょう?」

「っ」


 言われてようやくソウルは彼女に酷い事をしたのだと気が付いた。好きだと言ってくる彼女に対して無駄に期待させるような真似を。


(いやでも! どう言えっつーんだッ!)

「ソウ……っ!」

「っ!」


 更に問い詰めようとしたルクエールだが、ヴ、とすぐ近くに発生した魔力の歪みに二人揃ってはっとする。人間界と魔界を繋ぐ門の出現だ。


「来たわね……っ!」

「待て、ルクエール!」


 ニィと凶悪な笑みを浮かべて駆けるルクエールを追って、慌ててソウルも走り出す。まずは黒幕を吐かせるのが目的だからいきなり殺しはしないだろうが、障害が残るような傷もまずい。


(だが何故城の中で門が……ッ?)


 厳重に張られた結界を破って門を開くとは、人間業ではない。いや、正直魔族でも――ソウルであっても難しい。黒幕である魔族が噛んでいるとしても、結界を熟知した者でなければどうにもなるまい。

だがつまりはそういう事で、それだけの実力者が糸を引いているという事だ。

ソウルとルクエールが歪みの中心に辿り着いた時、丁度扉を抜けて一人の少女が現れた所だった。そしてその少女の姿は。


「――マナッ?」


 思わず口を突いて出たソウルの言葉に少女は振り返った。その顔を正面から見て違う、と気が付いた。ユイリの方だ。


「気に喰わない顔だこと!」


 すでに帰っているとはいえ、ルクエールにとってマナの存在は面白くないものだ。昨日一日ゆっくり休み、今は魔力も万全だ。


「待て!」

「判っているわ、殺しはしない!」

「違っ……違わんが、ちょっと待て――ッ!」


 もうソウルの言葉には耳を貸さず、ルクエールは槍を作り出しはるか間合いの外から一薙ぎした。

その薙いだ風圧が空を切り、衝撃波という形になってユイリへと向かう。

氷の魔力の乗ったその衝撃波に掠った木々が一瞬で凍りつき、内側から四散する。とても『殺す気が無い』威力とは思えない。


「フレイシール!」


 持っていた杖を構えユイリは自分の周りに結界を張る。ルクエールの魔力と拮抗し、刹那の攻防の後衝撃波を散らす――が、その時にはもうルクエールの間合いの中。何をする時間もありはしない。


「っ!」


 息を飲み、何も出来ないままただ杖を抱えて身を引いたユイリの前にソウルが立ち塞がり、ルクエールの槍を受け止めた。


「ソウル!」


 叫んだルクエールの声には戸惑いと、何より非難が色濃く出ていた。


「……っ?」


 驚いたのはユイリも同じだ。訳が判らず、自分がどう動くべきかを迷ってソウルの背中の後ろで固まっている。


「どういうつもり?」

「お前が斬ったら一撃で死ぬだろうが! つか殺す気だったろ貴様!」

「気に入らない顔だったからね」


 あっさりそう認めてルクエールは槍を肩に担ぐ。危なかった。


「おい、貴様」


 ルクエールがとりあえず矛を納めたので、ソウルは改めてユイリへと向き直る。するとはっとして杖を強く握り締めて一歩下がる――が、攻撃はしてこなかった。


「正直に答えればこのまま帰してやる。貴様に俺達の暗殺を頼んだのは誰だ」

「……っ……」

「素直に喋る訳が無いでしょう。お前は何だかんだ言って女に甘いものね。私に渡しなさい。一日で吐かせてやるわ」

「待たんか!」


 物騒な事を言うルクエールを慌てて止める。そんな事をさせたら一緒に居た意味が無い。


「何故?」

「……寝覚めが悪い」

「報復を言い出したのは元々お前でしょう? 何を言ってるの」


 ソウルは確かに女性に甘い所があるが、戦いとなれば全く別である。『敵』である者に男だ女だなど関係無く、敵には容赦など無い。だとすれば。


「……。お前、こういうのが好みだったの?」


 あと手加減をしそうな理由といえば、それぐらいかと思って言ったセリフ。


「馬っ、馬鹿者! そんな訳あるかッ!」

「じゃあ何だというのっ! あの小娘にしてもこの小娘にしても、色々足りない事この上ないでしょう!」


 ぐっと反らして強調されたルクエールの胸が弾んで揺れる。うっと顔を強張らせソウルはじりと身を引いた。


「だ、だから違うといっとろーが! 大体俺はな、女らしい女が好きなのだ! その点で言えばお前もマナも俺の好みからは程遠いわ!」

「失礼な! 私のどこが女としての魅力が無いとっ? 見せてやりましょうか?」

「そーゆー所がだアァァァ!」


 服に手を掛けたルクエールに顔を赤くして思い切り首を左右に振りソウルは後ずさる。体の話などしていないというのだ。

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