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 3―3

「ラ――、ラーに言わせると糸を引いているのは魔族らしい」

「何ですって?」


 もう別に、あらゆる部分でルクエールに意地を張る、という事はしなくていい。譲れない所は勿論譲れないが、共有した方が良い情報は共有するべきだ。

ソウル同様ルクエールにとっても考えの外の事だったか、とにかく話を変える事には成功して、ほっとした。――かなり。


「魔族が人間を使っているというの? そんなプライドの無い真似を?」

「ラーが言ったのでなければな」

「……そうね」


 何を馬鹿な事を、と切り捨てられないのはルクエールも同じ。


「知っている相手、かしらね」

「だろうな」


 辿り着く発想もやはりソウルと同じ。


「心当たりはあるか?」

「いいえ。考えてもなかった事だから。それに向こうが知っているからと言って私達が知っているとも限らないし」

「……それはそうか」


 何しろ狙われているのは王族である。国民は勿論、他国の者だって知っている者は知っている。


「何しても、次に来た奴は必ず捕まえてやる」

「ええ。そうそう逃げられるのも面白くないものね」


 襲撃しても軽々と逃げられるとか、そんな話が流れては沽券に関わる。それは勿論だが、ルクエールに関しては、心配事がもう一つ。


(こいつは、殺すな?)


 自分を襲ってきた相手は躊躇いなく殺すだろう。それを咎めるつもりはない。ソウルとてそうする。普段ならば。

しかし今回に限っては、それは困る。


(つってもこいつは理由を言っても頷きゃしないだろうし)


 理由を知ったら尚更だろう。ソウルがマナと会う事そのものが、ルクエールにとって面白くないのだから。

そこまで思い至った訳ではないが、ルクエールの性格上人間に手加減するとは思えなかったので。


「……ルクエール」

「何?」

「この件が片付くまで俺と共にいろ」

「――え?」


 思ってもいなかったソウルからの提案にルクエールは呆けたような返事を返す。


「そ……それは、私は構わないけれど、お前、どうして?」

「う、煩いッ! いいからお前は俺といろッ!」

「――はい」


 頬を染め、こくんとルクエールは頷いた。

理由など言えるはずも無いので怒鳴っただけだったのにと、ルクエールの素直さに違和感を覚える――が、都合は良いのでスルーした。


(後は親父か)


 シュツィルオーレは事実上の王妃であり、若干狙いに掛かる気がしなくないが、彼女を抑える術はないのでユイリが彼女の元に行かない事を祈るばかりだ。ラーが彼女の名前を出してこなかったのにも彼女を避ける事の後押しとなっている。


「ルクエール、お前先に俺の部屋に行ってろ」

「部屋、に?」

「その方が色々都合もいいからな。俺は少しやる事があるから後で行く」

「……ええ、判ったわ」


 薄く微笑しルクエールは頷いた。仄かに顔が赤い。

そのルクエールと別れてソウルはそのまま魔王の私室へと向かう。


(シュツィルオーレがいなきゃいいんだが)


 現在の魔王の妻の中で、一番位が高いのがシュツィルオーレなのだからいてもおかしくはないが、あの女がいると話どころではないのでそう願っておく。


「親父、入るぞ」


 扉を叩いて中に入ると、運のいい事に魔王がいた。そして更にシュツィルオーレはいない。


(良し!)

「どうした、ソウル」

「……一つ親父に頼みがある」

「珍しいな。何だ」

「――……お、親父はどう考えている」


 いざ言おうとすると中々に言い辛くて、用意していたはずの物ではない言葉が口を突いた。ラーやルクエールとは気安さが違う。


「何をだ?」


 しかし寸前ですり替えられ、核心から逸れたソウルの言葉にも魔王は気にせず先を促した。


「今回の事についてだ。親父も実は犯人に当たりが付いているんじゃないのか」

「も、という事は、ラーか」

「そうだ」

「あれは出来が違うからな」


 くつくつと楽しそうに笑って魔王はそんな答えを返した。


「……判らんのか」

「残念ながらな。王はただの国の頂点。その他は何らお前等と変わりないのだよ、ソウル」


 長く生きている分、様々な事が出来るようになる。経験も増え、突発的な出来事にも強くなっていく。

だが――それだけだ。


「……何で母さんを、その、アレしたんだ。シュツィルオーレがいたのに」

「いかがわしいな」

「やかましいわっ!」


 ソウルの言い様に吹き出し、肩を震わせる魔王を怒鳴りつける。怒鳴りながらも顔が赤いのは流石にソウルも恥ずかしかったからだ。


「惚れたからだ。それ以外に理由は無い。愛した女との子供だ、お前も可愛く思っている。残念ながらあまりあいつには似ていないが――いや、そうでもないのか」

「嘘こけ」


 子供の頃から魔王に可愛がられた記憶は無かった。いや、勿論可愛がって欲しかったなどと、そんな女々しい事は言わないが!


「そうだな」


 可愛く思っている、などと言いながらあっさり魔王はそう肯定した。その態度に腹の中がムカムカする。

判りやすいソウルのその感情にふっと魔王は薄く笑う。


「俺はお前の安らぎの場とはならなかった」

「別にそんなもん期待しちゃない」

「そうだ」


 だからこそ、今ソウルはラーと良好でいられるのだ。


「俺はもうそう長くない」

「……何?」

「魔力が衰えていくのが自分で判る。老いも進んで来た」


 今の魔王の外見は四十の半ばぐらいだろうか。言われてみれば確かに随分年を取った。


「ソウル、ルクエールの力になれ」

「なっ、何だとッ」


 まさか魔王からそんな事を言われるとは思わなかった。狼狽するソウルに魔王は至極真剣な様子で言葉を続けた。


「ルクエールなら最後までお前を守ってくれるだろう」

「ふ――、ふざけるなッ! 俺は誰に守ってもらう必要も無いわッ!」

「いいや。お前には必要だ」


 確信した物言いにソウルの心臓はどくりと鳴る。当り前だ。こうきっぱりと言われて不安にならない者がいるものか。

ましてソウルは――自分に対して、自信の基盤となる物が欠如しているのだから。


「俺が……俺が弱いとでも言いたいのかッ!」

「そうだ。お前は脆い」

「ふざけんなッ!」


 ばんッ、と机を叩いて立ち上がり、息荒く魔王を睨みつける。全く揺らがない瞳が静かに見返して来るだけでソウルは舌打ちをして席に着く。

そうだ、別にこんな事をしに来た訳じゃない。


「頼みがあると言っていたな」


 ソウルがその話にもう聞く耳を持たないであろう事を察して魔王の方から話を戻した。


「……ああ」

「何だ」


 気まずい。しかし言っておかないで手遅れになるもは嫌だ。


「今後も襲撃は続くだろう」

「そうだな」

「襲撃して来た人間を殺さずにおいて欲しい」

「何故だ」


 馬鹿な事をと一蹴される事は無かったが、代わりに当然の疑問を問い返された。


「頼む」

「自分を襲う相手を見逃せと言われているのだ。理由ぐらいは話すのが筋だろう」

「……」

「ソウル」


 促され、ソウルは嘘をつくべきか正直に言うべきか諦めるべきかを迷った。

嘘をついても魔王はそれぐらい見抜いて来るだろう。そもそもそんな都合の良い嘘など思い付かないし、用意もしてこなかった。

大体、好きではない。


(構うか)


 ソウルがマナに何を想おうと、魔王にだけは咎められるいわれは無いのだ。


「そいつは俺の友人の家族だ。だから殺してやりたくない」

「人間か」

「……そうだ」

「全く……いつの間に」


 ふうと溜め息をついて苦笑いをする魔王には、やはり怒りや何かといった感情は見えなかった。黙ってその先の答えを待つ。


「周りに知られたら、何を言われるか判っているのか?」

「煩い」

「賛成はせん……が、まあいいだろう。無闇に他人に知られるなよ」

「……あぁ」


 忠告は付いてきたが、思ったより渋い顔もされずにあっさり頷かれた。

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