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第三章 父と従姉と兄の事

(父、ルクエール、そして俺……とくれば、次はラーだろう)


 ラーはこのハインシュベルク最強の力の持ち主で、悔しいが自分やルクエールとは格が違う。おそらく父をも凌ぐだろうとソウルは思っている。

なのでソウルやルクエールの襲撃に失敗してなお、ラーに手を出して成功するはずが無いのだが。


(そんな情報を得ている訳もない)


 性格上、ラーが力を振るう事は稀だ。例えどこかでその強大な力を伝え聞いたとしても、魔王を襲ったぐらいだ、来ない訳が無い。


(だから――)


 襲撃者――ユイリを捕えるには、ラーの側にいた方がいい。


(とにかく目的が何か聞きださんと話にならん。それから人間が魔族を襲うなど無意味である事を判らせなければ)


 いや正確には理解などされなくても構わないのだが。襲ってこなくなりさえすれば。

 ――という訳で、ソウルは早速ラーの部屋に入り浸っていた。

正確にはラーの側に、だが。


「……ソウル」

「何だ」

「今度は何だ? ルクエールから逃げて来た感じじゃないが」

「気にするな」


 人の部屋に居座って気にするなも何もないものだ。普通、他人が四六時中隣にいればいやでも気になる。

もっともラーがその限りにない事も確かだが。


「護衛のつもりか? まさか」

「お前にんなもん必要無かろう」

「そうだな。じゃ、お前は何でここにいる?」

「この舐めた真似をしてくれている奴に用があるだけだ」


 ユイリを捕えたいのも勿論だし、ラーにユイリを殺させたくないというのもあった。

ソウル自身でなくてもソウルの血族が殺してしまってもやはり結果は同じだろう。

そしてラーなら、襲われた瞬間相手を瞬殺出来るし、する。


(もう一回ルクエールの方に行くかもしれんが……)


 そちらに居座るのは自分が嫌なので。


「馬鹿な事をするもんだ」

「何?」

「人間に魔族が殺せるはずもない。馬鹿げた方法を取るもんだ」


 魔物や、魔力の低い魔族までならばとにかく、ソウルも全く同感である――が。


「らしくないな」


 ラーがそんな事を口にするのが、らしくないと思った。


「そうか?」

「ああ」

「俺の中ではそうでもないんだがな」


 ラーは基本、感情の起伏が少なく、無感動だ。だが好きな事も嫌いな事も少ない分思い入れが深い。

もしそれに引っ掛かったとラーが感じているのだとすれば確かに『そうでもない』のだろう。


「っつーかお前今『方法を取る』っつったか?」

「ああ、言ったな」


 ユイリの襲撃だけに当てはめるには少々おかしい文法だ。それではまるで――


「後ろに何かいるって事か?」

「そう言ったな」


 そして今の言い様からするならば。


「――魔族か?」

「そうだな、多分」

「誰だっ!? つーかお前が判ってるって事は知ってる奴なのかっ!?」


 勢い込んで身を乗り出しそう訊いて来たソウルにラーはつまらなさそうに鼻で笑った。


「自分で調べろ。俺にお前に教えてやる理由は無いだろ?」

「……そ、それはそうだが」


 それぐらい――と思わなくはない。


(どこまでも怠惰な奴め!)

「お前は判ってて放置しておくつもりなのか? 鬱陶しくは無いのか」

「不快ではあるが、鬱陶しいって程じゃない。どう転ぼうが俺の知った事でもない」

「……そうか」


 ラーは本気だ。自分も命を狙われているであろう一件にも何にもする気がないらしい。


(まあ、ラーの力を持ってすれば人間の刺客など物の数ではないという事か)


 ソウルとてマナと知り合った後でなければ、彼女に好意さえ持っていなければ、襲ってきたら見つければ良いで済ませていただろう。

それを考えればあながちラーが無気力だとは言えないのかもしれない。


「ソウル」

「何だ」

「襲撃者を待ってるならルクエールか親父の所、もしくは一人でいた方がいい。俺の所にゃ来ないぞ」

「何?」


 確信的な物言い。ソウルを追い出したいがため――という訳ではなさそうだ。

元々ラーはソウルが部屋にいる事を気にしないのだから、おそらく本当だろうが。


「……訳判らんぞお前」


 教えてやる理由は無い、とか言いながら。


「俺の中では普通だがな」


 本人が言うのだからそうなのだろうが。……理解不能だ。


「まあ、いい。確かに俺も狙われているようだから一人になるという選択肢はアリだと思うしな。……ラー」


 ラーの心配はしていないから、別に一人にしても問題ない。だがラーに関して心配な事はある。


「何だ」

「もしお前の元に刺客が来ても、殺さんでいてくれるか」


 ラーの実力があれば十分に叶う事。だがそうしてやる理由は無い事。


「ああ、構わないぜ」


 手加減など面倒なだけだろう。だがあっさりとラーはそう頷いた。


「……頼んだ」


 安請け合いだが信用する事にした。何よりラーの確信が正しければ彼の元には襲撃者は来ないとの事だし。

案外、そう思っているからあっさり頷いただけかもしれないが。


(しかし、魔族が人間を使ってか)


 何故わざわざそんな事を?


(発覚を恐れて、かもしれんな)


 人間を使えばその背後に魔族がいるなどとは思われない。ラーに言われなければソウルとてそんな事など思いもしなかったし、ラーでなければ鼻で笑っていた。


(親父や俺達を殺して得をする者……。魔王の座を狙う誰かか、他国のどこかか。だがそれにしても腑に落ちん)


 もし自国内で魔王の座を狙う誰かなら最有力候補のラーを放っておいては意味が無い。いかに自堕落なラーとはいえ、己の一族を殺して成り上がる魔王など認めまい。それぐらいなら自分が王の座につくだろう。

それにそれだと、そもそもソウルを狙う理由が無い。


(単純に気に食わんからか? それだとルクエールが襲われたのが判らんしな……)


 魔王は人間の女を娶ったから、という理由でソウル共々対象になるかもしれないが、ルクエールは純血だ。

女性の魔王就任も歴史の中で少なくないので、その辺の反発というのも無しだ。


(……判らん)


 ソウルも頭の出来は悪くないつもりだが、いやむしろ良いが、ラーの出来はやはり違うのだろう。

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