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 2―4

 意外に嫌いでもないんじゃない? とか口には出さずに表情でだけ言ってマナはソウルの後について歩き出し――はっと頭上を振り仰ぐ。


「ソウル!」

「っ!」


 魔力で気配を悟るよりも早く、マナはその殺気を感じ取った。剣を抜き魔力で作られた氷の飛礫(つぶて)を薙ぎ払う。


「逃がすか!」


 ルクエールが襲撃された時とは違い、継承権は無くとも王家の血を引いている事は引いているので今回ソウルは警戒を緩めてはいなかった。すぐさま襲撃者の後を追う。

当然の様にマナもソウルについて走る。――人混みが邪魔だ。


「見失っちゃわない?」

「一度捉えた魔力の感じを取違えるものか! 舐めるな!」


 ソウルが言い切った通り、人の壁に少々邪魔されはしたが視覚に見えなくなった相手も見失う事はなかった。

しかし追いながら、ソウルの胸に妙な既視感が生まれる。

知っている気がする魔力なのだが、判らない。


(ここまで出かかってるのに思い出せん!)


 物凄くもやもやする。だがそれも捕まえてしまえば全てが解決する事――

確実に差を詰めて来る相手を何とか撒こうとしたのか、細い路地に入った所で逆に人の壁が無くなって追い付いた。


「ふん。下らんミスをしたな。さあ、貴様の目的を吐いてもらおうか」

「ソウル!」


 単純な追いかけっことなれば身体能力の差がまともに出る。途中で置いていかれたマナが合流して一瞬だけちらりとソウルがそちらへ視線をやると、狙って襲撃者が斬りかかって来た。


「ハッ!」


 それで隙でも突いたつもりかとソウルは鼻で笑って手の平で刃を受け止めた。無論魔力でガードしているが。


「大丈夫?」

「当然だ。俺様が人間如きに後れを取るか」


 そう、やはり襲撃者は人間だった。人と魔族では魔力の波長が違うので間違いない。

ちなみにそのカテゴリーで分けるとソウルは完璧に魔族になる。


「さて――」


 改めて襲撃者を尋問しようとソウルが呼び掛けると、じりと一歩身を引いて――唐突にその後ろに扉が出現し、その戸を開いた。


「何っ!」


 まさか一瞬で扉を作り出せるわけはない。それなりの大掛かりな準備のいる召喚術の一種なのだ。時間で出現を設定されていたのか、隠されているのに気が付かなかったか、とにかく襲撃者は身を翻して扉へと駆け込もうとする。


「逃がすか!」


 人間界に逃げられたら追えなくなる。追い駆ける事は出来るが、ソウルが人間界に現れたら無用な刺激を与える事になってしまうだろうから。

振った大剣が微かに襲撃者の纏ったマントを引っかけ、フードが外れた。


「あ……っ!?」

「女ッ!?」


 またかっ、と言うソウルの声と被せるように響いたマナの声は驚きに満ちていた。思わすソウルがそちらを見てしまうぐらい。

襲撃して来た方の少女も忌々しそうに顔を歪めてから扉の中へと消え去った。


(……逃がした)


 あれだけ近くで接触したのに逃がしてしまったのは屈辱ではある。だが。


「マナ」

「あ」

「今の、知り合いか」

「……うん」


 とぼけられようとしてもあの態度で知り合いじゃない筈はないだろうと突っ込んでやる所だったが、マナは素直に頷いた。


「ユイリだった。……妹」

「何っ!?」


 言われてようやくソウルは先程の既視感の正体に気が付いた。そうだ、マナに似ていたのだ。マナの方があんまりな魔力なので気が付くのが遅れたが。

言われてみれば、似ていた。


「どういう事だ。お前の一族は暗殺家業でもやっているのか?」

「そんな事してないけど……」


 けれど間違いなく、ユイリはソウルを狙ってきた。


「あいつの魔力はルクエールを襲ってきた奴とも同じだった。偶然というにはあんまりだぞ」

「うん……」


 偶然だ、などと往生際悪く認めないという事はしなかった。沈んだ声で頷いてから。


「……私、アルバトラズの一族なの」

「何っ!?」


 ソウルの世代では直接的な関わりはないが、その名前には聞き覚えがある。アルバトラズといえばかつての魔王討伐最盛期時代、勇者のパーティーに一人はいた魔術師の一族。


「私アルバトラズの当主の娘なの」

「……そうだったのか」


 魔力が尊ばれる一族だと、マナは言った。確かにアルバトラズであればそうだろう。

まして当主の娘ともなれば当然強い魔力を期待されるはず。その一族の中で魔力を持たないマナの居辛さなど想像に難くない。


「うん。でも……どうしてアルバトラズが魔王を……」

「というより、どうやら魔王の血を引く者を、だな」


 魔王関連だというのなら魔王本人とルクエール、そしてラーで事が済むはず。もっとも事情を知らなければ曲がりなりにも王の血を引いているソウル自身も可能性があると思われても無理ないだろうが。

 しかしそれでも、理由が判らない。かつて敵対していた時ならまだしももう魔王を狙うような理由は無いではないか。


「それはとっ捕まえて吐かせればいいだけだ。また来れば、の話だがな」

「あの、ソウル」

「……判っている。殺しはせん。俺はな」


 ――他の誰かに見付かった時は流石に保証はできないが。


「ありがとう」

「別にいい。それよりお前はさっさと帰れ」

「そうだね」


 先程までとは少し事情が違う。マナには急いで帰る理由ができてしまった。





「ねえ、ソウル」

「何だ」


 人間界へと通じる門を開き、マナは最後に、というようにソウルを振り返った。


「私、向こうで何でユイリが魔王を狙ってるのか調べてみる」

「余計な事はしない方が良いんじゃないのか」


 ただでさえマナは一族の中で立場が無いのだ。これ以上望んで煙たがられる様な事をする必要もないだろうと忠告する。


「うん、でも――」


 納得できない、というのとは違う。正直マナにとっては魔王など他人よりもさらに遠い存在だ。伝え聞いただけならばどうでもいい部類に入る。

しかし魔王は、ソウルの父だ。


「もし、ソウルの家族が殺される前に止められたら……また会ってもいい?」

「ふん。人間などに殺されるわけがなかろう。大体お前に咎はない。いつでも来るがいい」

「私が会えないよ」


 会えなくなるのは寂しいと、マナは少し悲しそうに笑った。少しだけ自分と同じ苦みを知っている、初めて出来た――友人。


「じゃあね、ソウル」

「あぁ」


 手を振り、門の奥へと入って――マナは帰った。しばらくすると門も消え、おそらく向こう側に無事辿り着いたのだと思われる。


「……さて」


 自分も帰るか、とソウルはくるりと門のあった場所に背を向け歩き出す。


(しかし――……)


 ユイリが襲ってきた時に殺してしまうと、マナに会えないのか。

それは少し嫌だなと、マナの泣き顔を想像してしくりと胸が痛んだ。

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