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第9話

次の日、小雨の降りしきる中、新井の葬儀が行われた。参列者は決して多くはなかった。会社からも大沢を入れて数名である。やり手ではあったが、敵も多く今更ながら新井がいかに孤独であったのかが伺えた。大学の友人もあまり来ていないようで、雄多郎は自分が死んだ時はどうなのだろうかと考えた。ただ悲しかったのは新井の両親の事である。警察からの説明で、精神に異常をきたした新井が明日香を襲い、止めに入った雄多郎と争いになり、心臓発作で亡くなったという事になっている。両親は涙ながらに、明日香と雄多郎に対して何度も頭を下げた。雄多郎も当然事実を話せるはずもなく、頭を下げる両親に何も言ってあげられなかった。ただ、亡くなった時は安らかで眠っているようだったと、告げるしかなかった。新井に兄弟はいないと聞いていた。一人息子をなくした両親の悲しみは、雄多郎にもよく理解出来たし、自分が生まれた時に母親を亡くし、また父親さえも早くに亡くしていた雄多郎には、新井の両親が自分の両親とだぶって見えた。思わず雄多郎の目からも涙がこぼれた。雄多郎は思った。(新井の馬鹿野郎!親より先に逝きやがって・・この親不孝者)葬儀場を出ながら、新井の両親を振り返り、再び見た。両親の背中はものすごく小さく見えた。雄多郎は涙を拭い歩き出した。行き先はユニバーサルエナジー東京本社である。昨日の午後、雄多郎はユニバーサルエナジー社に、取材の要望の電話を入れていた。相手には、事件関係ではなく、東都新聞の特集記事として、自己啓発についての記事を組むので取材をさせて欲しいと告げた。連続殺傷事件絡みであれば、向こうも警戒するはずであろうからである。それに早くしなければ長塚が動き出すはずだ。警察が介入してくれば動きづらくなってくる。ユニバーサルエナジー東京本社は、S地区のビル街の一角に5階建ての自社ビルとしてある。東京本社といっても、あとは熊本の研究所だけであるが、研究所で製造されたCDなどが東京本社へ送られ、そこから全国の希望者へ送られるらしい。ユニバーサルエナジー社、本当に多くは謎に包まれている。3年前に突如として現れた会社で、設立者の名前は、響木元一郎(ひびきげんいちろう)なる人物。年齢、学歴、職歴、出身地など全てが不明である。分かっている事は、3年前に個人でサイトを作り、自己啓発CDの販売を始め、それが口込みで爆発的に売れ、短い間に急成長したという事だけである。自社ホームページを見ても詳しい事は書かれていない。注文受付のみである。雄多郎はビルの前に立った。中では一体何が行われているのか、少し恐ろしくなって躊躇したが、逆に明日香や新井、新井の両親の顔が浮かんできて闘志が湧いてきた。雄多郎は意を決してガラス張りの玄関を押し、中へと入っていった。その光景を近くの建物の影から見ている者がいた。刑事の中野である。中野はビルに入っていく雄多郎を見ながら思った。(さすが、長塚警部。本当に早見はここに来た、警部の言う通りだ。) 中野は道路を挟んだビルの陰からユニバーサルエナジー本社ビルを見上げた。本社ビルの前には歩道があり、その前には四車線の道路がある。環状道路ではないので、交通量はそう多くない。本社ビルは5階建だが、かなり高く見える。1階部分がロビーになっているようだが、マジックミラーになっていて中の様子は分からない。見た目には銀行のような建物である。観音開きの入り口の上には、ユニバーサルエナジー東京本社と大きく看板が掲げてある。中野は、刑事になって一年である。交番勤務を経て、子供の頃から見ていた刑事ドラマに憧れて、晴れて昨年刑事になれた。その時は天にも昇る気持ちだったが、いざ刑事になってみたら全くドラマとは違い、本庁のキャリア幹部によって警察機構が運営されており、本庁にとって我々は兵隊でしかないという事が分かった。幹部候補でも何でもない中野は、上に昇る望みはないという事も分かっていたし、ただ疲れるだけの刑事の仕事に半ば嫌気がさしていた。(本当に吉田京子といい、早見といい、一体何を考えているんだか・・狼男にワニ男、頭がおかしいんじゃないか。警部もよくあんな話を信じるよなぁ。早見の奴は何か隠しているに違いない。吉田京子の話しを利用して、ユニバーサルエナジーを強請る気かもしれない。必ず尻尾を掴んでやる)

刑事に対する情熱は既になくしていたが、子供の頃から憧れていた刑事ドラマの主人公の様に、刑事=(イコール)正義という考えは未だ残っていて、不正は許さないと思っている中野であった。


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