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第8話

「新井さん、亡くなったんですか?」

明日香は病院のベッドで目に涙を溜めていた。痛々しく頭には、真新しい白い包帯を巻いている。数時間前まで目の前で話をしていた相手が、もうこの世に存在しないと言う事がショックだろうし、また兄の行方不明に関する情報が絶たれてしまった事への悲しみも入り混じっているのであろう。涙が頬を伝って落ちた。

「気を落とすな、明日香さん。手掛かりはまた見つかる。警察も再度、ユニバーサルエナジーを調査すると言ってるから」

明日香は新井の変身を見ていない。見ていてくれなかった事が残念でもあるが、明日香が新井の姿を見ていれば、今以上のショックを受けていただろう。雄多郎はそれが逆に良かったのかもしれないと思った。今、本当の話をしても、彼女自身もやはり信じられる事ではないだろうし、知らない方が明日香の為でもあると思った。

「少ししたら、熊本へ帰ろうと思います。父や母の側にいてあげたいし。私が動き回っていたら父も母も心配するでしょうから」

「うん、そうだね。きっとお兄さんは見つかるよ、大丈夫だよ」

雄多郎には、少しでも明日香を励ます事しかなかった。自分自身、あのワニの姿になった新井の姿を見てから、柳田広二の安否がどうなっているのか全く見当がつかないという状態だった。それでも今は明日香を励ますしかなかった。明日香はまだ落ち込んでいたが、熊本に帰る時には連絡をくれる様に告げて、雄多郎は病院を後にした。雄多郎はその足で新聞社に戻った。当然、新井の死は社内で噂になっていた。大沢へは長塚との打ち合わせ通りの事を伝えた。大沢は残念な素振りを見せ、新井の死を悼んではいるが本心からではないだろう。社の厄介者がいなくなった事に多少の安堵感もあるのではないか、そういう嫌な事も思わせる男である。逆にそれ位ではないと上には上がっていけないのかもしれない。マリ子が側に来て、雄多郎の肩に手を置いて言った。

「雄多郎、気を落とすなよ」

同僚の死に際に直面した雄多郎のショックを考えてのマリ子の気遣い、嬉しかったが雄多郎は力なく微笑み返した。

「柳田さんの手掛かりは何か掴めたの?」

雄多郎はマリ子に事の次第をすべて伝えたかったが、マリ子が信じてくれる自信も無かった。話があまりにも突拍子もない物である。しかしマリ子の顔を見ていたら、話したくて話したくて仕方が無くなってきた。けれども雄多郎はグッと堪えた。

「いや、なにも・・」

「そう・・残念ね。でも、何かあったら相談して」

マリ子は感のいい女である。雄多郎が何かを隠していることに、少なからず気付いているのかもしれない。しかし、本人が望まない限り聞かないのがマリ子である。良く出来た優しい女性である。だからこそ社内でも人望が厚いのであろう。その日の夕刊は小さく新井の死を報じた。目立たない記事である。他社では扱っていない程の記事である。一日何万人という人が死んでいく。いちいち取り扱っていては、紙面が何枚あっても足りない。しかし、この記事から色々な物が見えてきて大きな記事に発展するであろう事を、雄多郎は確信していた。今はまだ闇の中の小さな氷山の一角である。


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