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第30話

いよいよクライマックスでございます。

どうぞ、おたのしみくださいませ。

 雄多郎は今ようやく理解した。

「宇津木ケイ・・・。君はユウカだったのか。この過去の風景も全て君が見せているもの・・・」

今までの事を思い出し雄多郎は震えた。ケイはフェイズⅡである。ユウカがケイでケイがフェイズⅡ。このあまりにも悲しすぎる現実に体の震えが止まらなかった。

「ユウちゃん、いやケイ。なぜ俺にこんなものを見せる必要があったんだ。教えてくれ」

ケイは悲しげな表情を雄多郎に向けた。夕陽がケイの美しさを際立たせ、美しく成長したユウカがフェイズⅡであることを今だに信じられずにいた。ユウカがただの人間のケイに成長したのであれば、本当はこの場で強く抱きしめたかった。思えば雄多郎が女性とのつきあいを苦手とした訳には、ユウカの存在があったからなのかもしれない。ケイは初めて口を開いた。歌声以外ケイの声を聴いた者はいなかった。

「雄ちゃん・・・ごめんなさい。あなたには私の事を思い出してほしかった。あの時、あなたは私の全てだった。私はあなたがいなければ生きていけないと思っていたのよ。私は父の転勤で東京へ行った。平凡だったけど父は私を男手ひとつで一生懸命に育ててくれた。私は歌が好きでよく父に歌って聞かせた。父は私を歌手にしようと勉強もさせてくれた。裕福ではなかったけれどそれなりに楽しかった。そして雄ちゃん、いつかまた会える事を信じていたわ。こんな形で再会はしたくなかったけれど・・・・」

雄多郎はケイの言う事に驚きを隠せなかった。ケイの話は人間の生い立ちそのものではないか。ケイが本当にフェイズⅡなのか。納得がいかない思いでいっぱいだった。しかしカガミに対して使った信じられない力、そして今ここにある現実ではない世界を雄多郎に見せている。そして一番の難題が人類獣人化計画。あのユウカが計画を、目の前にいるケイがあのような恐ろしい計画を考えるであろうか。雄多郎は思い切って切り出した。

「ケイ。君は・・君は本当にフェイズⅡなのか?」

ケイは少しうつむいたが、雄多郎に今度は少し強い表情を向けた。

「その言われ方は好きじゃない。でも彼らはそう呼んでいた。確かに私の事を・・・」

「でもケイ、君はお父さんと幸せに暮らしていたんじゃないのか!フェイズⅡなどとは関係のない世界で!」

「そう、父が死ぬまでは・・・」

「お父さんが死んだ・・・?」

「私は父の事が好きだった。雄ちゃん、あなたと離れてからの私には父しかいなかった。私は父を愛していたのよ。私は父と暮らす事が何よりも幸せだった。だけど・・・父が3年前に突然交通事故で死んだの。即死だった。父はあまりにもあっけなく逝ってしまったの・・・・」

「3年前に死んだ・・・・」

ケイは少しだけ感情を高ぶらせた。3年前とは、いろいろと符合する事が多かった。ユニバーサルエナジーの設立とカガミ達創造者が一瞬思念波を感じ取った時期である。

「その時の私は普通じゃなかった。私にとって全てだった父が死んで、私は生きる意味や価値を失った。もうこの世にいる必要はないと思った。私は死のうとした・・・・遠のく意識の中で私は・・・思い出した。私が父や雄ちゃんと出会う以前の事を・・・」

雄多郎は思った。3年前までケイは自分自身がフェイズⅡであることなどに気がつく事はなかった。忘れていたのか、自ら封印していたのかはわからない。しかし、父親の死をきっかけに自暴自棄になり自殺を計った。が、それが引き金となりフェイズⅡである事を思いだしてしまったのだ。雄多郎は悲しくなった。起こった事は仕方がしかたがないし、これから起こる事もわからないがケイの父の死がケイをフェイズⅡに戻してしまった。父親さえ死ななければこのような事には・・・いや、人間はいつかは死ぬ、まぬがれない事である。ケイの父親は当然ケイよりも先に逝くだろう、この現実もまぬがれないのだ。雄多郎はケイの父親に対するあまりにも偏った愛情が悲しくて仕方なかったのだ。雄多郎は優しくケイに語り掛けた。

「ケイ。いやユウちゃん、よくわかった。ありがとう話をしてくれて。ユウちゃん、君にとって僕は昔の雄多郎だし、僕にとっても君は昔のユウカそのままなんだよ。もうこんな事はやめないか、人類を獣人に変えて殺しあいをさせるなんてよくないよ。僕だって死んでしまう。お願いだ、もうやめよう。話せばカガミだってわかってくれる。僕だって君を一人の女性として考えてる、本当だ嘘じゃない。それに君の歌はどうだ、なんて素敵なんだ。君の歌を聴いて感動しない者はこの世界にはいやしないんだ。みんなが感動してる。わかってくれるよね、ユウちゃん」

夕陽は完全に落ちて辺りは暗くなった。時折列車が警笛を鳴らして二人の側を通り過ぎて行く。夜の風がケイの長い髪を横に流して、ケイは片手で流れる髪を押さえた。白いドレスがあの時の白のワンピースを思い出させる。顔や目鼻立ちが間違い様もなくユウカの面影を残していた。雄多郎はなぜ自分が思い出す事ができなかったのか、残念で悲しかった。ユウカもそれを望んでいたのである、早くに自分が気付いてやればと思うと後悔でいっぱいだった。ただ、ケイがユウカであればわかってくれると思ったし、彼女がユウカであればこんな恐ろしい事はできないと信じたかった。話をすればわかってくれると本気でそう思っていた。雄多郎はケイの側まで行き、そっとケイを抱きしめた。暖かな温もりがあった。ケイは人間、フェイズⅡでもケイは人間であり、人間として生きてきたのだ。ケイの温もりに雄多郎は安堵感を憶えた。二人はしばらくの間そのままでいたがケイが耳元でそっと囁いた。

「雄ちゃん・・・ごめんなさい。そうもいかないのよ・・・・」

その言葉に雄多郎は耳を疑った。ケイの肩を掴んだ。

「なぜだ?ユウちゃん、なぜ?」

見詰め合ってからすぐにケイが顔を伏せた。その顔がひどく悲しげに映った。雄多郎が次の言葉を探そうとした時、幻覚から覚めるように一瞬めまいを感じた。目の前にはケイの姿はなく、瓦礫が散乱する白い部屋に戻っていた。長い夢を見ていたのか、瞬時の出来事だったのか、どの位の時間が経過したのかもわからず雄多郎は現実の空間に引き戻された。足元にマリ子が倒れていた。まだ目を覚ます気配はなく、カガミも壁に打ち付けられたまま動かずに頭を垂らしていた。ケイの姿は雄多郎の目の前に現れる以前の場所にあった。

「ユウちゃん。なぜやめられないんだ?ユウちゃんならやめられる。やめられるよ!」

ケイは悲しげな表情で雄多郎に言った。

「雄ちゃん・・・私はあの時のユウカではないのよ。私が全てを思い出した時、私がやらなくてはならない事も思い出した。私は何があってもそれを行なわなくてはならない」

「それはわかってるよ!カガミから聞いた。君はこの地球を再生させ環境を変える為にやってるんだろう!やり方が良くないよ。他にもっといい方法があるはずだよ!」

「雄ちゃん。これが一番いい方法なの。ごめんなさい・・・あなたにも止める事はできない。私はその為に生まれてきたのよ」

「そうじゃない。君は20年以上も前から人間として生きてきたじゃないか。君はそんなに簡単に人間を捨てられるのか。大勢の人間を殺すなんて事が君にできるのか。ユウちゃん、僕は君を知っている。君にそんな事ができるわけがない。そうだろう!」

「雄ちゃん。あなたの気持ちはわかるは、でももう遅いのよ。私は目覚めてしまった。私の目的は地球の再生、私はそうプログラムされているの。この世界が変われば、もう一つの世界も救われる」

雄多郎はケイが自分の誕生したカガミのいた世界の事を言っているのだと思った。ケイはこの世界が過去の世界だと認め、それがフェイズⅡが出した答えなのかと自問した。

「ここはやはり過去で、君が生まれたのが未来なのか・・・?」

「雄ちゃん。人間は愚かな生き物なの。これ以上、この世界には必要ないのよ。今が変れば未来も変わる・・・戦争や自然破壊の無い素晴らしい世界に変わる・・・」

「ユウちゃん、たのむ。考え直してくれ。君にこんな事ができるはずがない。たのむ・・・」

雄多郎の目から涙が溢れてきた。こんな恐ろしい事がユウカにできるのか。悲しかったのだ。そしてユウカを説得できない自分の無力さが惨めで悲しくて涙が溢れ出てきたのだ。雄多郎は泣き叫んでいた。

「ユウカのバカ野郎―・・・何でわからないんだ!ユウカ―バカ野郎―・・・!」

泣きながら叫んだが、涙で言葉にならなかった。

「だったら、まず俺を殺せー・・・俺を殺してからにしてくれー!」

雄多郎は両膝を床について、だだっ子の様に両腕を振り回し叫んだ。ひとしきり叫んだ後大声で叫んだ為に疲れて座り込んだ。嗚咽する雄多郎の前に突然ケイが現れ、両手で雄多郎の頬を包み込んだ。両手からは暖かな温もりを感じ、全身が熱くなった。

「雄ちゃん。ごめんなさい・・・仕方の無いことなのよ・・・」

あまりの暖かさに夢見ごこちで目を閉じた。ケイの声が聞こえる。

「雄ちゃん。あなたは私が父以外に好きだった、唯一の人。今も私が大好きな人。だけど・・・あなたはここで死ななければいけない人。それがあなたの運命・・・あなたは何も知らないままここで死んでいく。それが幸せ」

ケイの言葉の終わりと同時に温かさは消え去り、急な息苦しさを感じ、目蓋を開いた時、雄多郎は驚いて目を見開いた。

「マ、マリちゃん、どうして・・・!」

目にの前にいたはずのケイは、マリ子になっていた。マリ子の瞳の中に黒は無く白のみの瞳は明らかに操られ、雄太郎の首を締め上げる。力まかせに締め上げる。

「雄ちゃん。私にあなたを傷つけることはできない。雄ちゃん・・・せめてあなたが今、愛する人の手の中で死んで・・・さようなら、雄ちゃん・・・」

ケイは元いた場所で雄多郎を見つめながら言った。マリ子は雄多郎の首を締め続ける。普段のマリ子の力ではない。マリ子の両手首を取り引き離そうとしたが、雄多郎の力では引き離すことができない。必死にもがき、カガミを見たが彼に動きはなかった。マリ子は雄多郎の首を黙々と締め続ける。マリ子の両手首を掴む力はすでに失われ、掴んでいた両手を離した。雄多郎の意識は朦朧としていた。目の前のマリ子の顔さえまともに見えなくなってきていた。今度こそ終わりだと思った。遠のく意識の中でマリ子に殺される事を本望だとさえ思えてきていた。雄多郎は生まれて生きてきた27年間をVTRの逆回転のように見ていた。

(人は死ぬ時に一瞬にして自分の過去を走馬灯のように見ると聞いたけど、それがこれなんだ。ついこの間までの事や、東都新聞に入社した俺、なんんだか希望に燃えてるなぁ。大学時代の俺、高校生の俺、中学生の俺、小学生の俺。なんだかこのころが一番かわいいなぁ。父さんと俺がいる、ユウカもいる。あっ、母さんだ。病室のベットに母さん。ベットの横に生まれたばかりの俺を抱いている父さん。この後、母さんは死んだ。そして俺は生まれた・・・何だ、この暗い通路は・・・奥に光が見える・・・そうか、あれが死後の世界・・・俺は死ぬ・・・)

その時、まばゆいばかりの閃光が雄多郎から発散された。マリ子が弾かれる様に後ろに飛ばされた。閃光はやがて大きくなり部屋中を包み込んだ。傷ついたカガミはその閃光をじっと見つめていた。閃光が少しづつ収縮していき、雄多郎へと帰っていく。雄多郎だけが光輝いた。閃光が消えていく。そして雄多郎は変っていった


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