第28話
宇津木ケイの美しさに一瞬目を奪われていた雄多郎にカガミの言葉が現実に引き戻した。
「奴が本体だ。奴がフェイズⅡに間違いない」
「う、宇津木ケイがフェイズⅡ・・・?」
雄多郎は放心した。響木がフェイズⅡであれば納得できた。響木のあの顔、あの声、あの体。だからこそ、人類獣人化計画などという恐ろしい計画を実行できる。とても宇津木ケイがフェイズⅡであるとは考えられなかった。雄多郎は言葉にならない声をカガミに発していた。
「早見、勘違いするなよ。奴は人間では無い、怪物だ。頭の中身もな。響木という人間を前に出して操り動かす。当然その方が信者も集めやすいし、計画もスムーズに進む。自分は最後の最後まで姿を現す事はない」
尻餅を着いたままの雄多郎は今だに信じる事ができずにいた。
「カガミ。何かの間違いじゃないのか」
「くどいぞ早見!さがってろ!」
カガミは電流の弾丸の発射準備に入った。ケイに全く動じる気配は無く、雄多郎は先程からケイの全身を包み込むオーラの様な白っぽい光を見ていた。それが何なのかはわからなかったがオーラは少しづつ動いている様に見えた。カガミは電圧を最大限に上げた光の弾丸をケイ目掛けて連射したが、全弾がケイにたどり着く事はなかった。雄多郎が見ていた光のオーラは動き始めカガミと同じ弾光を作り出し、カガミの放った弾丸を全て弾き返した。弾かれた弾丸はあちこちの壁に突き刺さり、危うく雄多郎も流れ弾にあたりそうになり慌ててよけた。カガミがベルトのバックルに手を伸ばそうとした時、光のオーラは帯び状になり瞬速に伸びてカガミの腕を掴んだ。激しい光がカガミの全身を包み込む。
「うわぁぁぁぁぁぁー!」
カガミの全身に相当量の電流が流れ込んだ。カガミは苦しみながら銃を棒に戻してから触手の様な光の帯びを棒で断ち切った。全身を包んでいた光は消えたがカガミの息づかいは荒い。ケイは無表情のまま、今度は光の触手を何本もオーラから飛ばしカガミに向わせた。カガミも白いオーラを発散し、光の触手は今度は簡単に掴む事はできずに弾かれていく。雄多郎はそれが自分を守るバリア、もしくは超能力者が持っている思念波というものであろうかと考えていた。そしてそのケイの能力を目の当たりにして、ケイがフェイズⅡである事が疑い様のない事実であると思わざる得なかった。光の触手を次から次へと長めに変えた棒で叩き切って行くカガミは少しづつケイとの間合いを詰めていく。触手はカガミに伸びては、カガミが粉砕していく。いよいよケイとの距離が2メートルを切った時、カガミはバックルに手を伸ばした。その時初めてケイに動きがあった。両手を前方に突き出して両の手の平を開いた。それは響木の動きと同じである。しかし、その美しき表情に変化はない。瞬間、カガミは後方へ弾き飛ばされた。カガミの体は宙に浮いてから猛スピードで後ろ向きに飛び、白い壁に激突したのだった。体が突き刺さった様にカガミの形を作り出し体ごと陥没した。カガミは瞬時、動きを止めていたがすぐに我に返り体を動かし始めた。が、ケイの念動力の為か体は金縛りに掛かったがごとく思いどうりには動かない。なおもケイは両手をカガミに向ける事を止めず、体はぐいぐいと壁に押し付けられた。カガミが低くうめいた。足元に白い破片と粉がカガミに押されて砕け落ちていく。みしみしと音をたてて落ち続け、白い粉に混ざってカガミの足元から赤い血が滴り落ち始めた。それは間違いなくカガミの肩口から噴出し、又も傷口が開いたのである。血流は勢いを増し足の下に血溜まりを作っていく。カガミの低い唸り声はやがて長い唸り声に変り始め、仮面の上からでも、その苦痛の表情は雄多郎にもわかった。そしてカガミの仮面が一瞬にして消え去り、素顔のカガミを曝け出した。体はスーツのままだが顔はカガミに戻り、雄多郎はただならぬ事態が起こったと感じた。カガミが大量の血を吐き出した。雄多郎は思った。ケイの念動力はカガミの全身を強く圧迫し続けている。それも内臓をも潰す勢いで。仮面は血を吐き出す為に自ら消え去った、仮面を着けたまま血を吐けば窒息の恐れがあったからだ。 「ごほっ・・・・」
カガミは口から血を滴らせ、肩口からも血を流し全身が血の色に染まり出す。雄多郎はカガミを呼んだ。
「カガミ・・・、カガミ・・・、おい、しっかりしろ、大丈夫か・・・?」
カガミは反応を示さない、頭を垂らし、死んでいるかの様に。雄多郎はありったけの力を込めて叫んだ。
「カガミィィィィィィー!」
カガミは声のした方向に顔を向けてから力無く微笑んで頭を垂らした。雄多郎はケイを見てから力の限り叫んだ。
「やめろぉぉぉぉー!もう、やめてくれ!」
雄多郎の叫びに反応したのか、ケイは両手を下げ同時にカガミを圧迫する力も消滅した。雄多郎はカガミを見てから息を一つ吐いてケイの方を見た時、「ギョッ!」として息が止まりそうになった。数秒前には雄多郎とは正反対の場所、数メートルも離れていたはずの宇津木ケイが雄多郎の真正面、目と鼻の先にいたのだ。尻餅を突いたまま思わずのけぞったが、ケイの仕業なのか雄多郎の恐怖心がさせるのか体はそれ以上動かなかった。目の前のケイは無表情のまま雄多郎を見つめ続けた。今度はケイの美しさに心を奪われている余裕等ない、確実に殺される。声一つ出せず冷や汗が頬を伝ってこぼれ落ちていく。やがてケイの瞳が静かにとじられていった。




