第27話
機動隊の特殊班が到着してからシャッターの取り壊し作業が開始された。テレビ、新聞等で事件が公表されている為、沢山の報道カメラや野次馬が、何十人という焼死者をだした事件の犯人逮捕劇を無責任な面持ちで見守っていた。玄関前の道路にも車が見物がてら徐行していく為交通が混雑し一時、通行禁止の規制をかけていたが人の足を止めるのは不可能だった。長塚の班と機動隊特殊班数名が電気ドリルを使いシャッターの数ヶ所にある鍵穴を破壊していく。ドリルの高音が近辺に響き渡った。最後の鍵穴を破壊してから長塚の号令で幅数メートルあるシャッターを全員で持ち上げていく。中の硝子戸が姿を現し始め、半分持ち上げた所に自動ロックの装置があった。機動隊員が特殊な棒を使い装置を壊した。硝子扉が一枚内側に開いていく。中野刑事が飛び込んだ個所である。1階ロビーは暗く、半分開いたシャッターから差す外の光だけである。長塚は部下二名と機動隊二名を選んでから、拳銃を携行させた。五人は腰を落としてから半分だけ開いたシャッターをくぐり中に入った。機動隊員が携行ライトを照らした。中央にエレベーター、左奥に非常階段があり、ドアが開いていて階段がかすかに見える。長塚はエレベーター横の壁掛け電話に手を伸ばした。
「もしもし・・・・」
機能しておらず反応はない。それから部下の刑事の声がした。
「警部、何かいます。非常階段です」
“グルグルグルグル・・・”
長塚はそれが動物の唸り声そのものだと感じた。階段の2階部分から確かに聞こえて来ている。姿は見えないがそれが降りて来ているのがわかる。機動隊員が明かりを階段に向けたがその姿はまだ無い。機動隊員が階段へ向って歩き出した時、長塚は声を殺して叫んだ。
「バカ野郎、勝手に動くんじゃねぇ」
機動隊員が長塚の声に振り返った時、ライトの明かりもロビーに戻った。その瞬間、唸り声がすぐ側でした為全員がその場で凍りついた。何かが機動隊員に上から飛びついた。機動隊員の声と大きな唸り声が重なり、激しく倒れこんだ。携行ライトが音をたてて転がり長塚の足元で止まった。長塚は急いで携行ライトを拾い上げてからその物を照らした。明かりの中にうつ伏せに倒れている機動隊員の肩口に何者かが顔をうずめている。そして明かりの方向に顔を上げた。長塚達は驚愕した。その顔はやはり狼と呼ばれる犬科の動物に間違いないと長塚は思った。犬に似ているが、犬ではなく白っぽい毛が明かりに反射した。鋭い犬歯から真っ赤な血を滴らせながら「ヌウッ」と立ち上がった。狼が二足歩行で立ち上がり、上半身は狼、下半身はズボンを履いている。正に古典的映画に出てくる、狼男の様に見えた。しかし顔は特殊メイクではなく妙にリアルで、体も作り物には思えない体毛で覆われている。長塚は今初めて雄多郎の言っていた事を全て信じていた。ここ数日の間に起きた惨殺事件も目の前にいる者達の犯行であれば納得がいくのである。狼男の足元に倒れて、首から血を流す機動隊員を見て長塚は犠牲者を出してしまった事を強く後悔した。狼男は立ったまま雄叫びを上げた。長塚は拳銃を構え、立て続けに三発、狼男の胸と腹に銃弾を打ち込んだ。銃声は外の刑事達や野次馬にも届き、辺りは騒然とした。狼男はもんどりうって倒れ込み、最初は痙攣を繰り返していたがすぐに動かなくなった。狼男は体から大量の赤い血を噴出させてから死んだ。周りは血の海と化した。
「急いで担架を持ってくるんだ。救急車も急がせろ。だがな、必要以上の人間をこの中入れちゃならねぇ。急げよ」
何が起こったのか理解できず呆然とたたずむ部下に対して長塚は指示を与え、部下は急いでその場をはなれた。別の機動隊員が応急処置を行っているが、喉元を噛み切られ出血は止まらない。すでに息絶えているのがわかった。長塚は落胆した。自分のして来た事が正しかったのか、間違っていたのかわからなくなっていた。雄多郎の話にあまりにも証拠を求め過ぎていたのかもしれない。自分の動きによってはこれまでの犠牲者も最小限にくい止める事ができたのかもしれないと。長塚は携行ライトを狼男に向けた。その時自分の判断が全て間違っていたと思った。倒れている狼男はすでに狼男ではなかった。
「中野ぉぉぉぉ・・・」
上半身裸の中野刑事は胸から止めどもなく赤い血を流し続けている。長塚は死んでいる中野の側に膝まずいた。長塚のスーツのズボンが中野の血を吸い上げていく。長塚は両手を握り締め自分の額に持っていき、祈る様に頭を垂らした。体は小刻みに震えていた。




