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第24話

しばらくして雄多郎は開放された。もっと長く掛かると思っていたが突然の解放に雄多郎は拍子抜けする思いだった。しかし、その理由は後になってわかった。県警の玄関を出た所で柳田兄妹と、雄多郎が今一番会いたかった顔がそこに待っていた。

「マリちゃん!どうして?」

マリ子は雄多郎を強く抱きしめた。横で見ていた明日香の頬が突然の事に赤くなった。

「雄多郎、心配させやがって・・・」

マリ子の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。

「ごめん、マリちゃん。心配掛けて」

「どっかけがしなかった?大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ・・・」

雄多郎は柳田兄妹のあっけにとられた顔に気がついた。

「ちょっと、マリちゃん」

「えっ?」マリ子も柳田兄妹の顔を見てから照れながら雄多郎から離れた。明日香は顔を紅くして下を向いたままである。マリ子はフランクな性格で人目をはばからずにこういった事を平気でする事がよくあるが、雄多郎の無事生還に感動しているだけで深い意味や恋愛感情が無い事を雄多郎はよく知っていた。初めて見る者にはいつも勘違いを誘う。明日香には彼女と思われたに違いないと雄多郎は思ったがいちいち否定する気もなかった。

「早見さん。柳田広二です。話は明日香から聞きました。本当にありがとうございました。何てお礼を言っていいやら」

「別にお礼だなんて、本当に無事でよかったね、明日香さん」

明日香はまたも涙腺をゆるませてから

「本当にありがとうございました。早見さんがいなかったら今頃私は・・・」

明日香は広二に寄りかかり泣いた。

「私もう怖くて、怖くて、今思い出すだけでまだ怖いです。本当に・・・」

「明日香さん、怖かったろう。もう大丈夫だよ。お兄さんも無事で本当によかった」

普通の二十歳ぐらいの娘が体験できる事ではなかった。明日香が見た事は映画では起こっても現実には起こりえない事なのだ。本当に恐ろしかったに違いない。無事に帰れた事が雄多郎には心から嬉しかった。

「明日香、ごめんな。俺があんな所にいたせいでこんな目に遭わせてしまって。本当にごめん。新井まであんな事に・・・」

新井の事を言ってから広二は遠くを見詰めた。雄多郎も新井の事を思い出し、胸が痛くなった。

「柳田君、詳しく聞かせてくれないか」

マリ子が言った。

「雄多郎、場所を換えましょう。私も話しがあるのよ」

「ところでマリちゃん、どうしてここに?」

「それも含めてね」

四人は熊本市内にあるマリ子の宿泊するホテルの部屋に入った。落ち着いた部屋のソファーに四人は腰を下ろした。マリ子の話によると雄多郎が早々に開放された訳は長塚が裏で手を廻してくれたおかげだとわかった。大沢の事故があって間もなくして獣人の被害が相次いで報告され、その件については雄多郎も長塚から聞いていた。警官に射殺された者も数名いるらしく、獣人として射殺された者もすぐに人間体に戻ってしまう為、警官による民間人への発砲という簡単に正当防衛や公務執行妨害ではかたずけられないデリケートな問題を含んでおり公にできずにいた。なんせ相手は武器を持っていないのだから。しかしほっておけば被害者は増えるばかりであり、長塚は未確認ながらこれまでの雄多郎の話を警察上層部に報告しユニバーサルエナジーの事件関与を強く主張した。丁度そのころ阿蘇の研究所が火事で全焼し数十人の被害者を出した為、長塚はこれ幸いに社長の響木の逮捕状を取ったのだった。そして熊本県警に連絡を入れて雄多郎を解放させた、長塚の一声がなければ雄太郎の取り調べはまだまだ続いていただろう。雄多郎は確信していた。東京に現れた獣人は大沢と同じく宇津木ケイのプロモーションビデオを観た者達、特にマスコミ関係者に間違いないと。そして広二に聞きたい事があった、それは当然において。

「柳田君、獣人を人間に戻す方法はないのか?研究所にいた君なら何かわかるんじゃないか?」

「わかりません。残念ですけど・・・。それができるのは響木社長、ただ一人です」

雄多郎は予想どうりの答えに肩を落とした。

「君は大学を出てからすぐに研究所に入ったのかい?」

「そうです。今から3年程前になります。当初から人材育成と自己啓発のプログラムを研究製造する所でした。僕はまだ大学を出たてで簡単な雑用しかまかされていませんでしたし、教材についても実を言うと何もわからず聴いた事もなかったんです。ただ噂によると東京本社には沢山の注文が入っていて、それなりの効果が出ているという事でした。研究所には二十人程の研究員がいましたが、先日本社から安河内という広報課長が研究所へやって来たんです」

雄多郎は安河内の名を聞いて又も恐怖が蘇った。カガミがいなければ自分自身も獣人に変化していたのかもしれないのだ。

「社長から教材のコピーを預かって来たので実験を行うと言いました。研究所とは実は名ばかりで響木社長の指示に従って動くだけ、実際、教材を聴いたり社内事情を我々が耳にするのも禁止され、上の方は闇に包まれていました。課長は今度の教材は究極の物であり、これ以上の物は無いだろうと言っていました。今までも数回の実験が行われましたが、実験に参加した者達は皆なぜか体調を崩したり、実験後人が変った様になりました。普段冗談を言っていた仲間も研究所を辞めたり、入院した者もいたみたいでした。実験グループは必ず安河内課長が人選し、今回も四、五名が選ばれ地下の実験室に入って行きました。僕はグループに選ばれるのが怖かった。ただ実験に参加した者は高額な特別手当が支給されていたので断る者もいませんでした。それから数時間して安河内課長と本社の人間が実験室から出てきました。最初は入る時に最高の教材と言って満面に笑みを浮かべていた課長でしたが、出て来た時の顔は明らかに違っていました。誰が見ても実験が上手くいかなかった事がわかり、銀縁メガネの奥の目が険しく尖っていました」

雄多郎は安河内の鋭い目を思い出した。

「それから実験に参加した者達は実験室から出てこなくなったんです。」

「それが地下室にいた、あの・・・」

「そうです・・・彼らが研究員達です」

明日香が地下室で見た半獣人の事を思い出したのか、体を震わせている。

「明日香さん、大丈夫かい。向こうの部屋で休んでいてもいいんだよ。マリちゃん、明日香さんをたのむ」

「大丈夫です・・話を聞きます」

いつもの頑固な面をだしている。雄多郎はそれ以上言わなかった。広二も体を震わせ、顔色は青ざめていた。

「彼らはみんな・・焼け死んでしまった」

しばし、重たい空気の中沈黙が訪れたが再度広二は声を振り絞った。

「実験室から仲間がいつまでたっても出てくる気配がないので、みんなが騒ぎ出しました。ところが不思議な事に数日もすると、誰も仲間の事を口にしなくなって来たのです。そして人が変った様に無駄口を叩かず、与えられた仕事を黙々とこなす様になりました。僕が何を聞いても全く無視です。まるで誰かに操られているみたいで・・・そうです、催眠術に掛かっているかの様でした」

雄多郎は理解していた。安河内の持ってきた教材は人間を完全に獣人に変えるまでには至らず、不信感を抱く者は記憶を消すか洗脳の様な事をされたのだ。たが今回は違う。獣人への変化は完全に成功した。あのCDは進化した、そして今では宇津木ケイの歌を聴くだけで獣人へ変化し、人間を襲う様に仕向ける事もできる。フェイズⅡは地球を汚す事なく支配できるプロセスを完成させたのである。

「僕は自分もそのうち、みんなと同じ様におかしくされてしまうと思いました。だったらその前に実験室で何がおこっているのか確かめてやろうと思ったんです。夜まで待って地下に入りました。夜は夜警も付けずに無用心である事を知っていましたから、鍵束を盗むのも簡単なんです。実験室には誰もいませんでした。実験室を出た時かすかに呻き声が聞こえました。倉庫だとすぐにわかりました。倉庫に入ってみたらあの有様です。僕はいったい何がおこったのかわからず彼らを観て呆然としていました。それから段々怖くなって、大変な事が起こっていると思いました。何だかわからないけど信じられない様な人体実験が行われていると・・・」

「それで君は教材のCDを持ち出した」

「そうです。すぐに社長室に忍び込み適当にCDを選んで取りました。警察に届け様と思ってすぐに研究所を出たんです。だけど甘かった。僕の車の前には同僚達がいました。僕はすでに見張られてたんです。殺されると思いました。同僚達の目は普通じゃなかった。僕は逃げるしかなかったんです」

「兄さん、せめて電話くらい・・・」

「ごめん、明日香。携帯を忘れてただろう。奴らは熊本で僕が行きそうな所は全部先回りしていた。当然自宅の前にもね、奴らは家族にも何かしかねないと思った。僕は頭がパニックになっていたんだ。警察に届けても信じて貰えそうも無いし、証拠を消される可能性もあった。僕はもう新井に頼るしか無いと思ったんです。新井とは大学が同期で今でも電話のやり取りはしてたんです」

「携帯を忘れていたのは怪我の功名だったね。手がかりはそれしか無かったし、君を救う事ができた。明日香さんのおかげだ」

雄多郎がさみしく言うと広二は沈痛の面持ちで続けた。

「新井は僕に電話をして来ては、いつも何かネタは無いかと言っていました。新井を巻き込む事になるとは思いながらも、僕は東京に向かいました。昼夜と注意をしながらわざと幾つもの電車を乗り継ぎ、その為に東京に入るのに相当の日数が掛かりました。新井に会った僕は一緒に警察に行ってくれる様に頼んだんですが、新井は聞き入れず、それが事実なら大スクープだと言い自分自身で試すと言い出したんです。僕は耳を疑いました。みすみす友達を獣人に変える訳にはいきません。その内口論になり殴り合いになりました。僕は数日間ろくな物を口にしていなかったので新井に殴られて気を失ってしまったんです。その間にCDを奪い取り、僕が目を覚ました時見たのはCDをヘッドホンで聴いている新井の後姿でした。力を振り絞ってCDを取り返そうと立ち上がった時、後ろから後頭部に激しい衝撃を受け再び目の前が真っ暗になりました。奴らです。僕の後を熊本からずっとつけてたんです。気が付いたら檻の中で研究所に逆戻りです。早見さん、新井の事は明日香に聞きましたが、本当は・・・・」

雄多郎は新井のおぞましい姿を思い出した。明日香は新井の変身した姿を見ていない。不幸中の幸いだったのだ。雄多郎は広二に黙ったままうなずいた。広二はうなだれ、新井を獣人に変え命をも奪ってしまった事に責任を感じているのだ。広二だけの責任ではない、スクープに目がくらみ後先を考えずに獣人になった新井は自業自得とも言えたが広二にかけてやる言葉の余裕は雄多郎にはなかった。広二の話は大よそ、雄太郎の推測と一致していたが一つだけ気になる点もあった。

「柳田君、君は社長室からランダムにCDを取って来たんだよね」

下を向いたままの広二は小さく頷いた。雄多郎が疑問に思ったのは、広二が社長室から盗み出したCDである。あの時点ではまだ完成していなかったはずである。しかし、新井は半獣人ではなく完全に獣人化してた。それも凶暴なワニの姿である。なぜ不完全な教材で新井は獣人化したのか、雄多郎は広二に疑問を話した。広二は少し考えてから言った。

「なぜだか、わかりません。しかし効果にも個人差があるのかもしれません」

それを聞いて雄多郎は安河内を思い出した。

(若者は気付いています。自分が変らなければならない事に。で、なければこの時代の存在理由を見つけられないからです。存在の理由が無いという事は死んでいると同じなのです。何事も本気で取り組まねばなりなせん。そうしなければ何も変らない。変るはずもないのです)

そして研究所でのセミナー受講者による集団獣人化。獣人化したのは全員ではなかった。雄多郎と明日香以外にも獣人化しない者がいたのだ。考えられるのは向上心や変身して今よりも変りたいという欲求が特に強い者。社会で言えば出世欲。もっと悪く言えば他の者を蹴散らしても上へ上がろうとする強欲、妬み、嫉み、猜疑心等全てを含んだ変身欲が獣人化を促しているのかもしれなかった。ただこういう思いは人間誰もが持ち合わせているもので、思いを簡単に捨てろと言えるものでもない。雄多郎の推測であったが、人間に欲を捨てさせるにはどうするべきか。雄多郎は出るはずのない答えを探して黙り込んだ。

「雄多郎。一体何が起こっているの?」

マリ子は獣人を見ていない。掴みきれない情報に混乱しているのだ。マリ子の問い掛けに雄多郎は答える事ができなかった。フェイズⅡ、という未来又は別世界から来た物がこの人類を一掃しようとしている事を話すべきなのか。マリ子や明日香、広二は信じてくれるだろう。しかし、雄多郎はカガミを信じ、できれば誰にも知られずに終わらせたいとも思っていた。これ以上人を巻き込めばカガミも動きずらくなる。フェイズⅡは万能の上に無敵であり、いくら警察や軍隊が相手でもかなう訳がない。カガミの生まれた世界の様に人間同士の殺し合いをフェイズⅡが仕掛ければ人類の滅亡を早めるだけである。雄多郎はマリ子を見た。マリ子を守りたいと思った。雄多郎は作り笑顔をマリ子に向けた。

「ところでマリちゃん。話って何?」

マリ子はバックからノートパソコンを取り出して、キーボードを押してから雄多郎に見せた。それは東都新聞が開設しているホームページの読者登校欄だった。マリ子はページをクリックして雄多郎に渡した。

「雄多郎。これを見て」

雄多郎はページに写された数行の文章を見て息が止まりそうになった。

(東都新聞早見雄多郎様へ私は現在世間で大きな注目を集めているユニバーサルエナジー社の響木元一郎です。この度はあなたに対して多大な御迷惑を御かけしたことを心より御詫び申し上げます。つきまして私はあなたへ対しての御詫びの気持ちとして、あなたへの独占取材を御用意しております。以下の住所へ同行者を一名同伴の上御越し下さい。心より御待ち申し上げます。 響木元一郎)

「マ、マリちゃん。これは・・・」

「雄多郎。これは今朝届いたのよ。本物だと思うんだけど、どう思う?」

響木社長かどうかはともかくとして、ユニバーサルエナジーからのメールである事は間違いないと思った。東京本社からの脱出劇。研究所での出来事。知っているのはカガミと柳田兄妹だけである。安河内を通じて雄多郎の事は響木社長に伝わっているはずであり、本物に間違いなかった。こんなにも人目につく手段で接触してくるとは雄多郎には奴らの真意がわからなかった。自分を使って計画を世間に公表するつもりなのか。自らの正体をさらすつもりなのか。世界に宣戦布告するつもりなのか。しかし、フェイズⅡの能力を考えれば自分をわざわざ使う必要もない、とも思えたが考えれば考える程にわからなくなった。

「雄多郎。局は今この話題で持ちきりなのよ。早見がついに独占スクープをものにしたとか、無責任に本物か偽者かで盛り上がってるわ。私はデスクから一緒に行く様に言われて来たの。でもね、柳田さんの話を聞いて、行くのはすごく危険じゃないかと思ってるの」

危険は当然危険である。ただ雄多郎が思ったのは、事件はすでに世間にも知れ渡っているし、警察もすでに東京本社に張り付いている。であれば、今更雄多郎一人の命を奪っても何の意味もないのだと。フェイズⅡは自分に対してスポークスマンの役目をさせようとしているのではないか。代弁者として自分をたてようとしているのではないか。その方が納得の行く思いがしていた。しかし、御迷惑を掛けたから御詫び等とはあまりにも空ぞらしい。人を獣人に変えようとしたり、殺そうとした訳だから雄多郎には何の冗談にもなっていなかった。一般読者や新聞社からすればただの御詫びにしか見えないが一種の暗号文と言えるだろう。

「マリちゃん。デスクはこの件を警察には届けたのかなぁ」

「伝えるとは言ってたけど、警察にじゃまされたくはないはずだわ。私達の取材の後だと思う。だから一刻も早く行けって。でも警察が信じるかどうかはわからないわね。愉快犯は多いから信じてたらキリがないわ」

明日香はいつもの心配顔をしている。

「早見さん、行くのはやめて下さい。あの人達は秘密を知ってる早見さんを殺すつもりです。殺されます・・・」

「大丈夫だよ、明日香さん。心配いらないよ。局のみんなだって知ってる事だし、逆に奴らも簡単には手をだせないんじゃないかなぁ。社長の話を聞いてくるよ」

明日香はまたもや涙を浮かべて強い口調になって言った。

「早見さん!研究所での事を忘れたんですか。あんなのにかなうわけない。殺されちゃいます」

雄多郎は今でも思い出しただけで心臓が縮み上がる思いがしていた。ただカガミの話を聞いた以上、引き下がる訳にもいかなかった。我々の世界がフェイズⅡによって蹂躙されようとしているのだ。ほってはおけなかった。その上、雄多郎を名指しで呼んでいる。何が何でも行かなければと雄多郎は思った。

「早見さん。僕も連れて行って下さい。こうなったのは僕にも責任があります」

「柳田君。君には何の責任も無いよ。君は何も知らなかったんだから。奴らは俺を呼んでいる、俺一人で行くよ」

「ちょっと待って雄多郎!」

マリ子が怖い顔をして雄多郎に詰め寄った。

「私はデスク命令で雄多郎と同行する様に言われて来たのよ。これ以上あなた一人を危険な目には遭わせないわ。私もプロのカメラマンとして同行します。向こうも同行者を出せといってるわ。一人で行くなんてとんでもない!文句ある?」

「いや、ちょっとマリちゃん。危ないよ。俺一人でいいんだけどなぁ」

「さっきは大丈夫って言ったじゃない」

「いや、そうなんだけど・・・」

マリ子も言い出したら聞かないたちである。

危険な場所で言えば、雄多郎よりも場数を踏んでいる。マリ子や二人にはまだ何もフェイズⅡやカガミの話はしていない。知った所でマリ子は引き下がらずにもっと興味を持つだろう。来るなと言って「はい。そうですか」と納得するマリ子ではない。マリ子の優しさと強さは弱い者を守りたいと思う気持ちから来ているのだ。雄多郎にはマリ子を止める事ができない事が十分すぎるほどわかっていた。

「雄多郎。いざとなったら私が雄多郎を守るから。安心して」

案の定、マリ子は雄多郎の保護者的立場にいた。雄多郎はあきらめて大きなため息をついてから言った。

「わかったよ、マリちゃん。一緒に行こう」

「当たり前じゃない。明日香さん、大丈夫よ私にまかせて、雄多郎を危険な目には絶対遭わせないからね」

明日香は今だに不安を隠せない表情でいた。当然あの恐怖を体験したからだ。広二も心配そうな表情を浮かべて言った。

「早見さん。くれぐれも気を付けて下さい。ところであの仮面を付けた人は誰ですか?」

広二の問いに明日香も雄多郎を見た。雄多郎はカガミの事を話すべきか迷っていたが、話せばすべてを話さなければならなくなる。まだすべてを知る必要はないと思っていた。知ってもどうする事もできないのだ。雄多郎はカガミを思った。傷は癒えたのだろうか。今度もカガミは現れるのかもしれない。今の人類を救えるのはカガミだけであり、雄多郎はカガミに協力する事を決めていた。カガミにフェイズⅡを倒してもらうしか道は無いのだから。

「雄多郎。誰の事?」

「う、うん。そうだなぁ。救世主ってところかな。俺も良く知らないんだよね」

「吉田京子さんが見たって言う仮面ヒーローの事?」

「う、うん。多分そうだね・・・」

「雄多郎。これはすごい事になるわね」

マリ子は雄多郎の耳元で囁いた。

「すごいスクープだわ。これ以上のスクープは無いわよ。局長賞どころじゃないわ。年間MVPも夢じゃない。頑張りましょう。運が廻って来てるわ。頑張ろう」

雄多郎はマリ子に作り笑顔を浮かべた。スクープどころではない。運と言っても大凶運である。雄多郎は自分の運の悪さを呪った。


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