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第22話

雨は上がっていたが、夕闇が辺りを包み始めていた。阿蘇の山々には冷気が忍び込み、天候と相まって10月とは思えない程に温度を下げていた。空はどんよりとした雲で覆われ陽の光を遮断している。川は静かに流れ、白川水源へと続く。カガミは大きな岩に背をもたれて目を閉じていた。側で雄多郎も膝を抱えて黙っていた。どれくらいの時が経ったのか、最初に口を開いたのはカガミの方だったが、いつもの棘棘しさは無かった。

「早見、お前は俺の事を宇宙人か化け物か何かだと、思っているのかもしれないな」

雄多郎は黙ったままで、先程の事がまだ重くのしかかっていた。死んでいる男の顔と上半身に自分のジャケットを掛けていた。それを見て心は痛んだが、カガミが自分に対して気を使ってくれているのもわかった。カガミの方から声を掛けて来る事等今まで一度も無かったし、態度も変ってきている。最初は偶然の出会いとはいえ、二人は行く所、行く所で出会い若干は助け合った。カガミも自分の命を救ってくれた雄多郎に対して今までとは違う信頼を寄せているのかもしれない。カガミは続けた。

「この宇宙にはまだ人間が理解できていない事が沢山ある。多重世界もその一つだ」

多重世界、雄多郎には聞き慣れない言葉であったが、カガミが事のあらましを語り始めた事はわかった。雄多郎に取って今まで起こった出来事は何一つ取っても理解の限界を超えた事であり、知りたい事は山の様にあったが今はカガミの話に耳を傾けた。

「異なる次元に全く同じ地球が存在している」

カガミの言葉に雄多郎は顔を上げた。カガミは雄多郎を見るでもなく話続けた。

「我々の地球ではすでに百年も前からその事に気付いていた。地球の何ヶ所かに二つ地球を結ぶ穴があって、その穴から行き来ができた。先人が初めて穴を通って観た世界は、我々の世界との百年以上の文明のずれだった。そしてこちらの世界が限りなく我々の世界に近い、過去そのものではないか、とも考えられた。二つの地球は別の次元で同時進行していた、百年というずれの中で・・・・」

雄多郎は我慢できずに口を出した。

「そんな、タイムマシンやタイムトラベルはSFの中の御伽噺じゃないのか!」

「我々の世界でもタイムトラベルについては今もなを解明されていない。しかし、祖先から繋がる人間は存在していたし、我々と同じ歴史を歩んでいる事も間違いなかった。ただ時間を逆行するという証明が科学的に実証されない為、我々は別の次元空間の地球であると判断した。タイムトラベルという疑問を残したままな・・・、時の政府や科学省が恐れたのはこちらの世界に関与する事によって生ずるであろう我々の世界への影響だった。もしも、過去の歴史が変れば、未来も大きく変る、当然、現在存在しない人間もでてくる。我々が関与する事で我々の世界が変わってしまう危険性があるということだ。政府はこの穴については封印を決めた。別次元であろうが、過去の世界であろうが関与は一切しない、世間にも公表しない事を決めて厳重に管理体制を敷いた」

雄多郎はカガミのいう事が自分の想像をはるかに越えている事に驚いたまま聴き入っていたが、カガミの持つテクノロジーの数々が百年先に生み出される物であれば、それはそれで納得ができた。しかし、まだ雄多郎には聞かなければならない事が山ほどあり、これが一番の核だった。

「カガミ、フェイズⅡとは何だ」

“フェイズⅡ”その言葉を耳にしたカガミの表情が少し変ったが、苦笑いとなった。昨日雄多郎に思わず口走った事を思い出したからだった。

「我々の世界では古くから超能力の研究が進められた。人間の持つ能力を遥かに超えた超能力、わかるか?」

「スプーン曲げや、透視したり、あんたがやった考えられない瞬間移動・・・・」

「そんな所だ。まあその事は置いておこう。・・・我々の地球は病んでいた、オゾン層は消滅されかけ温暖化の進行は激しく、このままでは人が生きていく事のできない星になってしまう事が確定的になった」

雄多郎は思った。やはり我々の地球なのかもしれないと。地球の温暖化は今大きな問題になっており100年後の地球の状況は危機的なのかもしれなかった。同時に安河内の話を思い出す。オゾン層の破壊や環境問題は昨日、安河内が言っていた事である。昨日と今日、同じ話題を二人の人間から聞いた事になる。

「我々人類は今から約50年前、現在の危機を乗り切る為、人類の進化形態を作るフェイズプロジェクトを立ち上げた。それは知力、体力、精神力と人智を越えた超能力を持つ知的生命体の想像。人類の科学力と超能力者達が作り上げた人工人類、それがフェイズだった。フェイズは万能で自らの細胞組織の組み替えを自在に行ない、あらゆるものに変化し物体であろうが液体であろうがあらゆる環境変化に順応して行く為、今後の地球の変動に体を対応させて行く事ができるわけだ。フェイズの遺伝子を人類に組み込むことができれば、地球環境が変っても人類は生き残る事ができる最高のプロジェクトだった。だが最初のフェイズは生命体であっても知的生命体ではなかった・・・・」

「それはどういうことだ」

「遺伝子組み替えの際に高いIQを持たなければ自らの細胞の組み替えができない事がわかった。簡単に言えば相当頭を使わなければ、自分の体を変化する事ができないということだ」

「なるほど、その生命体自体に高い意識がなければ変化できないというわけか」

「そういうことだ。そこで科学者達はフェイズに当時最高のIQを組み込んだフェイズⅡを完成させた。フェイズⅡの完成に人類は大いに沸いた。計画開始から20年という月日を費やしていたからだ」

「信じられない。やはりカガミ達の人類とは違うのかもしれない・・・・」

「最初は液状のフェイズⅡに人類の歴史、学問、医学、ありとあらゆるデータを入力していった。するとフェイズⅡは自らの細胞を増殖と繁殖を繰り返させ人間の細胞を作り上げた。それからは急速に成長し一人の成人になるのに3ヶ月も掛からなかった」

雄多郎はいくら100年先とはいえ、我々の人類がそこまで科学的進歩を遂げるとは考え難かった。

「フェイズⅡが人間の形態を形作ったのは、人類に関する全てのデータを入れた為だ。人類が動物であるという嘘のデータを入れればフェイズⅡは人間にはならなかったのかもしれない。しかし、科学者は人類の生出たちから現在までを克明にデータ化してフェイズⅡに与えた・・・・やりすぎたんだ」

カガミは遠くを見詰めたまま黙り込んだ。雄多郎は先を促す様に聞いた。

「やりすぎた?」

「フェイズⅡはその卓越した頭脳で気付いてしまった・・・・」

「気付いた?何を気付いたんだ」

カガミはまた黙り込み、石を拾い上げ川へ放り投げ、明らかににその先を話すのをためらった。雄多郎はその先を聞かない訳にはいかなかった。

「たのむカガミ教えてくれ、フェイズⅡは一体何を気付いたんだ」

「人類の未来さ。それも人類が住むことのできなくなる絶望的な地球になってしまうことを・・・奴は気が付いてしまったのさ」

雄多郎は頭の中が混乱していた。

「なぁ、カガミ。一つ質問させてくれ。フェイズⅡはその人類の未来を変える為に創られたんだよなぁ。それに環境問題もデータに入っていたろうし、人類の未来の問題に気付くのは当然で、最終的には未来の問題を打開する為に自分が生まれた事をフェイズⅡにも伝えるだろうし、て言うか気付くよなぁ」

「早見、お前は以外に頭がいい」

カガミはニヤついて言ったが、雄多郎は冗談に付きあう気はなかった。

「奴は頭が良すぎた。我々の計画も全てお見通し、全てを超越した所にいたって訳だ。科学者は情報をやり過ぎた。フェイズⅡは怪物になってしまったんだ」

カガミの「やりすぎた」とは情報のことだった。まだ雄多郎には理解できてはいない。

「フェイズⅡは自分自身が未来人類の種になる事を良しとしなかった。それ所かフェイズⅡの頭脳はある計画を練り上げた」

計画と聞いて雄多郎は安河内をまたも思い出し、体が少し震えた。

「奴はこの地球の危機を作り出したのが人間である事に当然において気が付き、この地球から人間を消滅させれば問題は解決すると考えたのさ。今考えればフェイズⅡであればそれくらいの事は考えて当たり前だった」

雄多郎はやっと理解できた。フェイズⅡが気付いた事とは地球を危機的状況にしたのは人間であるという隠しようのない事実だった。

「フェイズⅡの考えた計画とは・・・・」

「戦争さ、戦争を起こし人間同士を殺し合わせて地球上の人類を消滅させる」

雄多郎は昨日の安河内の言葉をまじまじと思い返していた。

「計画を実行に移してから奴は姿を消した。奴の能力を持ってすれば人間を操る事等は簡単だった。多くの人間が殺し合いを始めるのにそう時間は掛からなかった。奴は人間を洗脳に掛け人間の猜疑心、欲望、妬み、嫉み、あらゆるマイナス感情を利用した。人間は武器を持ち、殺し合い、多くの人間が死んだ。奴の超能力は相当で最高能力者の力を全てコピーされていた。もうすでに人間の力で太刀打ちできなくなっていた。ただ奴は核だけは使わなかった、核使用による地球のダメージを十分理解していたからだ。フェイズⅡを創造した科学者チームと超能力者のチームはフェイズⅡ抹殺を決めた。超能力者は己の能力を最大に使い奴の居場所を探り当てた。もともとフェイズⅡには弱点と呼べるものが無かったが、創造者たちはあらゆる兵器と能力を使い攻撃を仕掛けた。しかし沢山の創造者達も死んでいった。創造者達はやっとの事で優位に立ち、いよいよフェイズⅡを、自らが創り出した怪物を抹殺できると確信したその時、フェイズⅡは消えた。そして再び姿を現す事は無かった」

「消えた!一体何処へ消えたんだ」

「多重世界・・・つまり、ここだ」

雄多郎は心にあった多くの謎が解けていくのを感じていた。(フェイズⅡは穴を通ってこちらの世界に逃げてきた。そして同じ事を繰り返そうとしてる。それが人類獣人化計画なのだ)ここ3ヶ月の間におこり雄多郎が数日間に体験した事はフェイズⅡが絶対的な超能力を使い行動を開始した証拠なのだと。 カガミは続けた。

「奴は用意周到だった。ちゃんと呼んでいたんだろう、次の段階を・・・。こっちへ来る事は予定どうりだったのかもしれない。だから創造者達は恐怖した。この多重世界は過去の我々の世界かもしれないからだ。フェイズⅡがこちらの世界に干渉すれば我々の人類は全て消滅してしまうかもしれない、いくら科学的根拠が不足していようと、可能性は拭えないのだから、ほっておく事はできない。フェイズⅡにとってこちらの世界の制圧はたやすい。そして奴は最も恐れていた行動を開始した。それには創造者達も大いに慌て、自分達が創り出した怪物の強大な力に驚き恐怖した」

「フェイズⅡは一体何を始めたんだ?」

「こちらの世界に入った奴は世界各地にある穴を塞ぎ始めた」

「そんな力まで持たせたのか!」

雄多郎はフェイズⅡのあまりの能力に驚き、カガミを責めるように言った。

「フェイズⅡの能力は常に進化していた。もうすでに創造者達にも計り知れない能力が備わっていたんだ」

そんな完全生命体を相手にしようとしていた自分自身が逆に恐ろしくも有り滑稽だった。

「奴は各地にある穴を次々に消し去った。当然創造者達も黙って見ていた訳ではない。全力をあげて穴が塞がれていく事を阻止する努力をしたが、奴の能力に対抗できず穴は次々に塞がれていった。しかし、一方ではこちらの世界に入り込み奴との最終決着を付ける計画も取られた。それは持っている能力を最大限に引き出し、フェイズⅡと同等かあるいはそれ以上の能力を使い、奴を倒す事のできるスーツの開発だった」

雄多郎はすぐにピンときた。

「そうか、それが君が使っているスーツ」

「そうだ、あのスーツは俺の能力を何倍にも引き出す事ができる。当時は時間との戦いで開発は急ピッチで進められた。奴は穴を消しつづけ、いよいよ最後の一つの穴になった。その穴は奴が通り抜けて来た穴であり、一番大きな穴。この穴は水の中にあった為に消滅させる事は奴の能力をしても時間が掛かっていた。その穴があれだ・・・」

カガミは川の上流を指した。雄多郎は驚いた。この川の上流にある所、それはまぎれもない場所だった。

「まさか、白川水源か・・・・」

カガミは黙ってうなずいた。雄多郎には信じ難かった。自分の故郷に未来と過去を結んでいるのかもしれない穴があった事に。

「もともとこの穴が一番最初に発見されている。たまたま川に落ちた者が上がってきたら別世界だったと言う訳だ。水の中にある為、他の場所と比べて強い電磁波の影響を受けずとも通過することができた。多くの人間が行き来して研究を重ねた。ただし世界に影響を与えない様に注意をしながら」

雄多郎は事の経緯はだいたい理解できたが、一番大事な事を聞いておきたかった。

「それで、フェイズⅡは倒せるのか・・?」

「創造者達はフェイズⅡの分解再生能力を奪う装置を開発した。奴の再生能力を奪えば再生途中でただの肉の塊となり再生不能で奴は死ぬ。その装置はスーツに組み込まれたが、実験する時間がなく未完成のままで仕込まれた。穴が閉じればこちらの世界に入る事が困難になる。そして誰がフェイズⅡとの最終決戦に穴を通って挑むのか、スーツは一着しかなく、穴も閉じ掛けている。挑めるのは一人。当然片道切符、戻る事はできない」

「それでカガミ、君が来たのか・・・」

「いや、違う。俺はその時はまだ生まれていなかった」

「はっ?一体君はいつの話をしているんだ?」

雄多郎は頭の生理がつかず困惑していた。

「フェイズⅡが反乱を起こしたのは正確には28年前の事だ」

「28年前!君の話は今ではなく、28年前の話だったのか」

カガミは黙ってうなずいた。

「という事は28年前に一度ここでフェイズⅡとの最終決着が付けられたのか、誰かが決死の覚悟でこちらの世界へ来た・・・」

雄多郎は何となく胸が熱くなる思いだった。

「ゼロだ・・・・」

「ゼロ?」

「そうゼロ。コードネームをゼロと言った。最初に発見されたこの水源の穴はゼロポイントと呼ばれ、全てを0(ゼロ)、無に戻す意味を込めて彼はゼロと呼ばれた。彼は創造者の一人であり、超能力はずば抜けていた。フェイズⅡの能力の基本となったのは彼の能力だった。だから彼は自分がいく事を決めたらしい。自らが創り出した怪物を葬るのは自分しかいないと・・・誰も彼を止める理由を持っていなかった。ゼロは死を覚悟して閉じかけた穴へと飛び込んだ。正に間一髪だったらしい、彼が入った後穴はすぐに消滅した」

雄多郎は困惑の表情をカガミに向け、そして首を傾げながら聞いた。

「ゼロは勝ったのか・・・?」

「勝ったはずだった。いや、わからない。穴が閉じた後は調べる術はなかった。ただ超能力者達はお互いの思念波を感じ取る事ができる。あれだけ強力な思念波を発していたフェイズⅡの思念波は完全に消えてしまったらしい。ただし、穴が完全に閉じられた為に思念波も遮断されたのかも知れなかった。次元の壁の構造はまだまだ我々の理解を超えているからな。創造者達はこれ以上は神の領域であるとして警戒態勢を敷きながらもフェイズⅡの探査を打ち切った。ゼロの犠牲の上に全てを終わらせたつもりだった」

「確かに28年間今の今まで何かが起こった事は無かった・・・。じゃあどうして今頃になってフェイズⅡは動き出したんだ、ゼロに倒されたんじゃなかったのか?」

「わからない。今から3年前に突然、創造者達は一斉にフェイズⅡの思念波を全員感じ取った。俺も感じた。もすごく嫌な感じだったがすぐに消えた。なぜ突然フェイズⅡの思念波を感じ取ったのかわからなかったけれど、創造者達はフェイズⅡがこちらの世界で存在していると確信した。死んでいたのに蘇ったのか、又は深い眠りから覚めたのか。緊急事態だった。特に思念波がすぐに消えた後、いくらその思念波を追っても無駄だった。それはいかにも自らが思念波を制御したかの様だった。この俺さえも感じた。奴は行動を起こそうとしている・・・必ず」

「倒されたと思っていたフェイズⅡは生きていた。ゼロはどうしたんだ。ゼロの思念波は感じる事はできなかったのか?」

「28年前からゼロの思念波は記録されていない。死んでいると思う」

雄多郎はかカガミの言葉にうな垂れた。そしてカガミを睨んでから言った。

「3年前にフェイズⅡの思念波に気付いたのなら、何故早くこっちにこなかったんだ。すでに何人もの犠牲者がでてるんだぞ」

今度はカガミが睨み返した。

「当然すぐに行動を起こしたさ!こっちで何かがあれば我々もただでは済まないからな。しかし、問題は穴だった。穴は突然偶発的にできあがった物であり、人類の意思でこの穴を作るのは簡単な事ではない。急遽封印していた研究を進め、超能力と科学とを融合させ、やっとの事で人間一人が一度だけ通る事のできる穴を開ける事に成功した。入れるのは一人、戻れる見込みは無い。そこで又人選さ」

「それで今度こそ、君が・・・」

「俺は子供の頃から超能力に秀でていた。能力は誰にも負けなかったし、学生の頃から創造者達のチームに入り研究を重ねてきた。この暗い未来を乗り切る為の研究さ、フェイズシステムとは全く違う別の角度からの研究だったがな。そして俺は志願した。フェイズⅡを倒す為に・・・」

「なぜ君は自ら志願してこんな事を・・・」

「誰かが行かないといけないのさ。しいて言えばこの地球が好きだった・・・悪い、冗談だ。まぁ幸い俺には家族はいなかった。それだけだ」

雄多郎は黙り込んだ。いくら自分達が創り出したフェイズⅡとはいえ、カガミに直接関係はない。そのカガミが自分の命を犠牲にしてまでこちらの世界に来ているのだ。雄多郎はカガミに頭の下がる思いがしていた。これ以上カガミを責める事はできない。

「カガミ、君はこっちへ来る時、不安は無かったのか?俺には真似できない事だ」

「不安のかたまりだったさ。実際この穴が前回同様の平行世界にあるのかどうかさえわからなかったからな。何100年も過去に飛ばされていればこの計画は失敗に終わっていた。幸いにもこっちの28年後の世界だったがな」

カガミと雄多郎は初めて笑顔になった。カガミの心境も複雑だったに違いない。こちらの人間に正か真実を語る事になろうとは思ってもいなかったはずである。

「俺は1年も前にこっちに来ていたが、フェイズⅡの思念波を全く感じ取る事ができなかった。最初はフェイズⅡ等存在しない全くの別の次元へ来てしまったのではないかと思う時もあった。俺は毎日フェイズⅡを探し、当ても無く思念波が自分の頭の網に掛かるのを待った。それからここ数ヶ月の間に起こった不可解な事件、そして早見、お前と偶然初めてあった夜、狼に変化した人間を見て確信した。フェイズⅡは完全に自分の思念波をコントロールしながら着々と行動を開始していたのだと。そしてユニバーサルエナジーの響木という男が最もフェイズⅡに近い存在だと知った。調べるうちにユニバーサルエナジーの研究所がゼロポイントにあることもわかった。ゼロポイントには何か計り知れない(パワー)の存在があるのかもしれない」

言ってからカガミは肩を押さえてから少しうめいた。

「カガミ、傷は深いぞ。病院へ行こう」

「大丈夫だ。俺はフェイズⅡを追う」

「その体では無理だ。俺は何もできないが協力させてくれ」

「奴はすでに俺の存在に気付いている。そしてもうここにはいない。奴が俺の存在を認めた時に微弱だが奴の思念波を感じ取る事ができた。これで奴の居場所もわかる」

日はとっぷりと暮れ掛けていた。先程までの小雨も今は止み、川のせせらぎが突然音を立て始めた気がした。2人の会話を静かに聞いていたせせらぎが会話の終わりを告げるかの様に耳に鳴り響いた。それに共鳴して遠くから沢山のサイレンの音が近づき暗い森にいくつもの赤い光点が反射した。

「明日香さんと柳田君が連絡したんだ!助かったぞ、カガミ、病院へ・・・・・」

雄多郎が振り向きざまに言った時、すでにカガミの姿は闇に消えていた。


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