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第20話

ハイエナは少しづつ、距離を縮めて来ていた。雄多郎も少しづつ後退するしかなく、いたづらに角材を振り回した。四匹が同時に叫び声をあげ雄多郎への一斉攻撃に移る合図をした時、カガミの声が聞こえた。

「早見!地面に伏せろ!」

数m離れた場所で傷の痛みと貧血状態にフラフラのカガミが片膝をつき、ライフル形態の棒を構えていた。棒の先に電流が集まり、パチパチと音をたて、一発の光弾が撃ち出された。一匹のハイエナの腹に命中して大きな穴を空け、ハイエナを吹き飛ばした。雄多郎は慌てて地面に伏せた。光弾は次々と発射されたが、残った三匹のハイエナは素早くその場から四散し、雄多郎の側から姿を消した。三匹のハイエナは四つん這いになり、駐車場を森に向かって疾走を始めた。カガミは光弾を連続して撃ち続け、後方から狙ったがハイエナを仕留めることができなかった。やはり傷の影響で狙いが定まらず、カガミは意を決して立ち上がったが、またも片膝をついた。下を向いて肩を押さえたカガミが顔を上げた時に異変は起こり、その場からカガミは姿を消した。そして、はるか前方の森を背にして姿を現したのだ。それは正に三匹のハイエナが逃げ込もうとする森の前、走るハイエナの真正面に現れた。突然、目の前に現れたカガミにハイエナは驚き、一斉に回避しようとしたが、すでに遅く、失速したハイエナに光弾は一匹、二匹とハイエナを貫いた。が、最後の一匹は踵を返すと巧みに光弾をかわし逆方向の森へと転がり込んでいった。雄多郎はその光景を観て、昨日の事を思い出した。

「テレポーテーション、瞬間移動だ」

昨日、ユニバーサルエナジー本社の屋上から一気に数キロ先の川辺まで移動した、カガミと雄多郎である。カガミの超能力に雄多郎はただ、驚くしかなかった。

(何て奴だ。本当に人間なのか・・・・)

カガミは地面に倒れこみ、雄多郎は慌てて駆け寄りカガミを抱き起こした。

「カガミ!大丈夫か、しっかりしろ」

「だ・・大丈夫だ・・・」

カガミはベルトの横に付いているケースから震える手で止血シールを取り出し、肩に貼ろうとした。

「貸せよ、俺が貼ってやる」

スーツの上からも赤い血は止めどもなく流れていたが、シールを貼るとすぐに血の流れは止まった。

「カガミ、病院へ行こう。血がですぎだよ、ショック死するかもしれないぞ」

「大丈夫だ。このシールはな、止血効果に合わせて、鎮痛効果、治療効果もある・・・」

「そんな事言ったってお前、苦しがってるじゃないか」

「バカ・・・お前、仮面の上からでも俺の表情がわかるのか・・・」

「強情張るなよ、息も絶え絶えのくせに」

「・・・いいから、俺の事はほっておけ、早くお前も町に下りろ、俺は取り逃がした奴を・・・」

立ち上がりながら言いかけたカガミはまたも倒れた。

「ほらみろ、やっぱり無理じゃないか、かなりの重症だぞ」

それでも立ち上がるカガミに雄多郎は肩を貸した。

「カガミ・・・すまない。俺のせいで・・」

「お前のせいじゃない。俺の仕事だ・・・」

二人はハイエナの消えた森に進んだ。カガミは苦しげに言った。

「獣人を一匹たりとも町へ出してはだめだ、又死人がでるぞ・・・」

「そうだな・・・・」

雄多郎はカガミに肩を貸しながら後ろを振り返った。先程までハイエナ人間だった者が人間の姿に戻り、素っ裸のままで腹に大きな穴を空けて倒れている。血はほとんど流れていない、一瞬の高熱ですべてを焼かれた為だ。雄多郎達と一緒にセミナールームにいた人間なのだ。

研究所にいた獣人は焼け死に、炎は建物全部を包み込み、轟音をあげて崩れ落ちた。中にいた、半獣人や研究所員も巻き込んで。しかし、雄多郎にはカガミに対して反論する気はすでになく、確かに今こうして生きているのはカガミのおかげであり、カガミがいなければ明日香と一緒に死んでいた。そしてこの惨事が雄多郎の安いヒロイズムでは何一つ解決できない事も今は理解していた。ただもう一度だけカガミに聞かずにはいられなかった。

「なぁ、カガミ。獣人になった人間を元に戻す方法はないのか・・・」

「ない・・・・フェイズⅡを倒すしかない。これ以上、獣人を作らせ無い様にするしか方法はない・・・」

カガミの口からまたしてもフェイズⅡという言葉が漏れた。

「フェイズⅡとは一体何なんだ」

カガミは言葉を発せず、仮面の上からではその表情は読み取れない。ハイエナが逃げ込んだ森まで来た時、「ガサッ」、何かが動く気配を感じて二人は立ち止まり、雄多郎は辺りを気にしながらカガミに小声で話かけた。

「奴は人間を襲うように命令を受けている、俺達を殺さなければいけないんだ。それが奴の全てだから、それ以上、それ以下でもない、町へ降りるのは俺達を殺してからだ。奴は俺達を見てる。カガミ、あんたはこのまま真っ直ぐ入ってくれ」

「おい!バカ。俺から離れるな。殺されるぞ」

カガミは強く小声で言ったが、雄多郎は右方向を指差して前屈みで進み、別の方角からカガミに微笑んで森に入っていった。

「あのバカ、命が惜しくないのか」

10m程先から森に入って行くのを見ていたカガミは雄多郎の作戦がわかった。二人で挟み撃ちにしようというわけである。なぜ、雄多郎がここまでやるのかカガミにはわからなかった。新聞記者の仕事からは逸脱しているし、デメリットの方が多い、命が掛かっているのだから。雄多郎が特別なのか、ここの人間の特徴なのか理解はできなかったし、痛みが集中力を欠いていた。しかし、傷を負ったカガミと人間の雄多郎ではハイエナの方に分があるとカガミは思っていた。

「わかったよ・・・早見、お前はつくづく変った奴だ・・・」

カガミはふらつきながら森に入った。


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