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第19話

薄暗い階段を降りきった雄多郎と明日香の前には倉庫とは呼べない空間が拡がっており薄暗いその場所には、いくつもの箱がある。

箱の正面には鉄の格子がついていて、それは檻だった。檻の大きさは人間一人が座って入るのにちょうどいいくらいの大きさである。その倉庫の光景はなんとなくサーカスの動物小屋であり、何頭もの動物を入れておく檻が部屋の左右、向かい合わせに並んで設置されているといった状況だった。あまり広い部屋ではなく、換気もよくない為、異臭が立ち込めていた。部屋の中央に通り道があり、左右に5個づつの檻があった。雄多郎と明日香はハンカチで鼻と口を押さえたまま、静かに檻に向かった。雄多郎は柳田広二がいるとしたら、この折の一つであると思っていた。早く明日香を安心させてやりたいと思い、すぐ左の檻に顔を近づけた。「ガシャァ―ン!」という音に雄多郎は驚いて尻餅をついた。薄暗い檻の中から何かが咆哮を上げて、鉄格子を掴んだのだ。鉄格子を掴んだその顔が格子と格子の間から出てきて雄多郎を威嚇した。その顔と手を見て雄多郎は恐怖に震えた。顔は人間ではあるが、耳は尖り、多くの毛に覆われ鼻と口が先に突き出し、鼻の下から口までパックリ割れ、突き出た口からは牙がのぞき、涎を滴らせている。目は鋭く赤く光ってはいるが、目の廻りにはまだ人間の皮膚を残していた。手の甲にも沢山の毛が覆い、指先からは図太く長い詰めを伸ばしていた。雄多郎は声にならない声を上げた。

「何なんだ・・・半獣人・・・?」

今まで見てきた獣人とは明らかに違っていた。先程の獣人も顔や体は完全に動物に変化していたし、それが2足歩行をして人間のシルェットを維持していたのだが、今、目の前にいる獣人は多くの人間の部分を残していた。雄多郎の言う半獣人と呼べるべき者だった。今までここで何度と無く人体実験を行ない、失敗を繰り返しながら、獣人を作り上げた。今ここにいる半獣人達は実験のなれの果て、あまりに無残で残酷な半獣人達を雄多郎は憐れに思った。「キャァァァァー!」

すぐ後ろで明日香が悲鳴を上げて倒れた。

明日香の後ろの檻にいた半獣人が明日香の足首を掴んで引っ張り倒したのだ。足を檻の中へ引きずり込もうとしている。明日香は足をばたつかせたが、半獣人の手は足首をがっしり掴んで離さなかった。

「早見さん、た、助けて・・・」

「明日香さん!」

雄多郎は固くて太い半獣人の腕を兎に角、力任せに踏みつけ、蹴りまくった。執拗なまでの雄多郎の攻撃に半獣人は耐えられずその手を放した。雄多郎は明日香を抱き起こした。

「明日香さん、大丈夫かい」

「すいません、迷惑ばかり掛けてしまって、大丈夫です」

両側の檻から半獣人達の両腕が伸びて、低い呻き声が倉庫内に響き渡った。何と言う光景か、彼らも元は人間である。しかし、今や人間にもどるべき方法はなく、方法があるとしたら、それは響木元一郎のみが知っているのか。雄多郎は不安にかられた。正かこの中に柳田広二がいるのではないか、すでに半獣人にされてしまっているのではないか。明日香も同じ事を考えているのか、涙を流しながら叫んだ。

「兄さん!いるのー、明日香です。兄さん!いたら返事してー・・・」

明日香の声は涙でかすれた。

「柳田君いるか!いたら返事をしてくれー」

返事がなければ半獣人にされている可能性は高い、二人は広二を呼んだが、半獣人の呻きしか聞こえず、絶望感の中、明日香は声の限り叫んだ。

「兄さん!お願い!返事して!」

しばらくして半獣人達の呻き声の中にかすかに人の声を聞いた。

「明日香か?」

「兄さん?」

「明日香なのか」

確かにはっきりとその声を聴く事ができた。

「兄さん、どこなの、明日香です」

「明日香―!、ここだ!」

それは一番奥の右側の檻だった。檻からは間違いなく人間の腕が伸びている。二人は急いでその檻へと駆け寄った。

「兄さん!」

明日香は広二の手を掴み、泣き崩れた。

「兄さん、よかった、無事で・・・」

明日香の声は言葉にならなかった。広二はかなり憔悴し、髭は伸び放題、目の下には黒い隈を作っていたが、見た目には外傷はなかった。

「明日香、なぜお前がここにいるんだ」

「柳田君、君は大丈夫なのか?」

「僕は大丈夫です、あなたは誰ですか?」

「東都新聞の早見と言う者です」

「東都新聞?それじゃ、新井から」

「話は後だ、兎に角、早くここを出よう」

檻には鉄製の錠がついており、案外、アナログな物がついていた。部屋の端に監視用と思われる、テーブルと折りたたみ椅子があり、

雄多郎は椅子を持って来ると錠目掛けて椅子を振り落とした。最初はびくともしなかったが、何度も叩きつけるうちに錠は壊れて弾け飛んだ。檻から出た広二は明日香と手を取り合い抱き合った。明日香は顔に満面の笑みを浮かべた。雄多郎は広二が無事であった事を心から喜んだ。彼は正に生きた証人であり、今まで雄多郎が見て来た事を実証してくれる。証拠のビデオも壊され、小型のボイスレコーダーもすでに紛失していた。今になって思うと明日香がいてくれてよかったのだ、明日香がいなければ、広二を救出するという頭は回っていなかっただろう。雄多郎は異臭とは違う臭いを感じた。それは何かが焦げる臭い。(火事!)

「急ごう、火事だ!」

(カガミに違いない、カガミがやったんだ)

三人は階段を駆け上がった。階段の途中、先頭の雄多郎は立ち止まった。階段上の出入り口のドアが静かに開き、通路の光が三人を照らした。大量の煙が地下になだれ込み三人は煙でむせた。その煙の中から人影が、煙の中から狼人間が姿を現した。

「うわあぁぁぁぁぁー!」

三人は一斉に声を上げた。狼人間は牙を剥いて吠える。雄多郎と狼人間との距離はすでに1mを切っていた。狼人間が飛びかかった時、雄多郎は動く事ができなかった。

「わあぁぁぁぁー!」

次の瞬間、雄多郎の顔と体に大量の血液が飛び散り、目に入った血が視界を真っ赤に染めた。目の前には首を無くした狼人間が立ち尽くし、首根っこか大量の血を噴出させている。狼人間の首は音をたてながら、三人の足元を転がり落ちて行った。

「うわあぁぁぁぁぁぁー!」

三人はまたしても一斉に声をあげた。首なし狼人間は背中から倒れ、その後ろには棒を手にしたカガミが立っており、棒の先からパチパチと電流が迸る音をさせた。

「カガミ!」

「早く出ないと、焼け死ぬぞ!」

肩を押さえたカガミは叫び、荒い息を吐き出した。かなり消耗し肩を上下させ、肩から血を滴らせていた。四人は煙の立ち込めた通路を研究所出入り口まで進み、やっとの事で飛び出した四人は外の空気をおもいっきり吸い込んだ。研究所のいたる所から黒煙が吹き上がり、中は炎の地獄と化していた。セミナールームから燃え移った炎は全ての物を焼き尽くしていく。雄多郎はその光景をしばし見詰めて立ち尽くした。黒煙は灰色の雲に吸い込まれ、今にも雨を呼びそうな暗い夕暮に差し掛かり冷たい冷気が体に染み渡る。

「きやあぁぁぁぁぁー!」

今日、何回聞いたであろう、明日香の悲鳴で雄多郎は我に返った。逃げ延びた獣人数匹が明日香と広二を取り囲んでいた。人間を殺せという命令は今でも獣人達に有効に作用していた。ケイの歌声の呪縛を解く事は不可能なのか、明日香と広二は抱き合ったまま動けず数匹のハイエナ達はじりじりと二人にせまっていた。

「カガミィィィー!」

雄多郎はカガミの方を見たが、肩を押さえたカガミは片膝を付き、荒い息遣いを繰り返している。

「カガミ・・・・」

雄多郎はカガミの体が限界に来ていると感じた。これ以上無理はさせられず、これ以上は彼の生死にかかわることであると。彼がユニバーサルエナジーとどうかかわりがあるのかわからないが、カガミが危険であると思った。雄多郎は腹を決めた。もうどうにでもなれと言った心境だった。雄多郎は火事で焼け落ちた、焦げた角材を手にすると、後ろからハイエナに近づき、力を込めてハイエナの頭に角材を振り下ろした。ハイエナは叫び声を上げて地面を転がった。

「おい!、ハイエナ共、お前らの相手はこの俺だ、こっちだ!こい!」

一斉にハイエナ達は雄多郎に振り返った。雄多郎はポケットから鍵を取り出しながら、

「柳田君、車の鍵だ。そこの3台目だ、明日香さんを連れて逃げてくれ!」

広二に向かって鍵を投げ、広二は鍵を受け取った。

「早見さん、一緒に!」

涙声の明日香が叫んだ。

「だめだ、このままではみんな殺られる。二人で逃げてくれ!」

「早見さん!」

「柳田君、隙をついて車に乗り込め、いいな」広二は無言でうなずいた。

「ハイエナ野郎共、こっちだ。獲物は俺だ、その二人じゃない。さぁこい!」

雄多郎は角材を構えたまま、後ずさりを始めた。普段は他の動物の食べ残しをあさると言われているハイエナも雄多郎を獲物と決めて泣き声を発した。それは人間の笑い声に似ていて不気味に響いた。元は人間なのだ。立ち上がって二足歩行するハイエナ等、この世には存在しないのだ。雄多郎の後づさりに合わせて、ハイエナも雄多郎に向かって少しずつ近づいて来る。明日香が雄多郎を見詰め、その瞳から涙を落とした。雄多郎は今がチャンスと思い、広二に向かって頷いた。広二は明日香の肩を抱き、車に向かった。車の側まで来て、鍵についているドアロック解除のスイッチを入れた時、ロックが解除される機械音が鳴った。その音に反応した一匹のハイエナが踵を返して、二人に向かって走り出した。

「待て、お前の相手はこの俺だ!」

雄多郎が叫んだ時には、すでにハイエナはその跳躍力で二人が乗ろうとする車の屋根に飛び乗っていた。屋根の上から威嚇するハイエナに二人は動けぬまま、下からハイエナを見詰め返すしかなかった。

(くそぅ、何てことだ。もう少しで逃げられたのに、せっかくここまで来たのに、くそったれ)雄多郎は心の中で毒気づいた。  しかし、その時「ドン!」という音と共に車の屋根にいたハイエナが背中から花火を散らしながら明日香と広二の側に落ち、数回の痙攣を繰り返しながらハイエナは息絶えた。雄多郎はカガミを見た。大きく肩で息をするカガミが充電を終えた棒をライフルに変えて打ち込んだ弾丸がハイエナを貫いたのだ。

「今だ、急ぐんだ!」

雄多郎の声に、立ち尽くしていた広二は焦って車の助手席のドアを開けた。

「明日香、早く乗るんだ」

「でも、早見さんが・・・」

明日香は車に乗り込もうとせず、雄多郎は懇願する様に叫んだ。

「明日香さん、僕は大丈夫だ!早く行って助けを呼んで来てくれ、この辺は携帯が入らないんだ!カガミもいる、大丈夫だから、急いで。たのむ、明日香さん!」

明日香は雄多郎を見詰めたまま動かない。

「柳田君、早く!」

広二は強引に明日香を助手席に押し込み、自身も運転席に乗り込み、車を急発進させた。

助手席から顔を出し雄多郎の名を呼ぶ明日香と広二の車は坂道を下って視界から消えた。

状況がよい訳ではないが、雄多郎は息を吐き明日香をここから出す事ができて本当に良かったと思った。自分はそれ相応の覚悟を決めてここへ来ていたが、何も知らなかった明日香だけは生きてここから返さなければと雄多郎は思っていた。このままここで死ぬことになればあまりにもかわいそうで、明日香には未来があり、こんなところで終わらせてはいけなかった。幸い広二にも会え、二人が真実を伝えてくれれば、ここへ来た事が無駄ではなかったことになる。雄多郎は腹を決めてハイエナに向き合った。数は四匹、いや四人と言うべきなのか。ハイエナは直立に前屈みまま雄多郎に向かって来た。


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