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第18話

「走れー!早く、この建物からでるんだ!」

カガミの叫び声を聞き、雄多郎は明日香をうながして通路を進んだ。

「明日香さん、早くここからでよう」

うつむいて寄り添う明日香にささやいたが、雄多郎の腕を掴む明日香の指に力が入った。

「だめです。早見さん、兄を・・・兄を・・約束ですよ・・・」

消え入りそうな明日香の言葉に雄多郎は胸を打たれた。

(何ていう娘だ、自分の命が危険だというのに、兄さんの事を・・・わかったよ、明日香さん、兄さんを絶対に連れて帰ろう)

雄多郎は先程出て来たドアに向かって叫んだ。

「カガミー!この娘の兄さんを探す」

ドアの奥からカガミの声が返ってきた。

「バカヤロー!、命がいらないのかー!」

「俺は約束したんだよー、この娘の兄さんを必ず連れて帰るってー!」

雄多郎の大声で明日香は顔を上げ、雄多郎を見詰めた。涙で乾いた瞳から、再度涙がこぼれた。通路の前方の受付にいた白衣の男達が数人倒れていた。侵入したカガミにやられたのだろう、かすかにうめき声を発している。

明日香をそこに残して雄多郎は仰向けに倒れている白衣の男の側に行き、男の胸倉を両手で掴んで揺すった。

「おい、聞こえるか、俺の声が。聞け俺の声を、おい!」

何度か縦や横に揺すり、ようやく男は目を開けたが、状況が理解できずに左右をみわたしている。

「いいか、よく聞けよ、ちゃんと答えろよ、答えないと今度は殺す」

男は驚いた様に頭を上下に振った。雄多郎は襲ったカガミの仲間であるという印象を「今度は殺す」と言う言葉に込めて男に恐怖を与え、胸倉を掴んだまま言った。

「柳田広二を知ってるな、ここの技術部にいた人だ。今何処にいる、言え!」

男の目は左右に動き、しらを切るつもりなのか考える素振りをした。雄多郎は男の襟元を掴んで締め上げた。男は息ができずにもがいた。

「死にたいんだな。わかったよ、殺してやるよ」

雄多郎は襟を締め続けたが、男は苦しそうに顔を紅潮させながら震える右手を一方の方向へ向けて指差した。男の指先は一つのドアを指した。“地下倉庫”とドアにプレートが貼ってあり、雄多郎は力を緩めながら聞いた。

「地下倉庫か、地下倉庫に柳田広二がいるんだな、そうだな」

男は少しづつ空気を吸い込みながら、むせかえって頷いた。雄多郎は男から手を放して、

「ありがとう、助かったよ。でも、もう一回眠っててくれ」

そう言ってから男の腹に一発、力まかせに蹴りを入れた。男は動かなくなった。雄多郎は自分自身に驚いていた。正か自分が無防備な相手にここまでするとは、危険は人間を変えるのか、恐怖が人間を変えるのか、それとも怒りの感情なのか、以前とは違う自分を感じていた。雄多郎は大声で明日香を呼んだ。

「明日香さん、こっちだ!お兄さんはここにいる」

獣人は次から次にカガミの前に踊り出ては飛び掛り、まるでゾンビ映画の様である。飛び掛る獣人を稲妻の光弾は撃ち抜いていき、左右から襲う獣人にも矢継ぎ早に対処しては撃ち殺していく。さすがに40体近くの獣人はキリがなく、半分は駆逐したと思われた時、それは来るべくして来た。棒の中央部分から、「ピィィィィィィ」と言う発信音が鳴り始め、稲妻の量が少なく、光弾が作りづらくなってきていた。エネルギー切れ、もしくは充填の警告音が鳴っているのだ。電気の流れはパチパチと小さな音を経てて消えた。カガミの武器は完全に沈黙した。獣人達は標的を完全にカガミ一人と決めて襲い掛かってきた。カガミは武器を棒状に戻し、飛び掛るハイエナの顔面に棒を叩き込んだ。鈍い音がしてハイエナの頭が潰れた。棒の打撃力も相当である。

カガミは次々に襲い来る獣人のいたるところに棒を叩き込み、棒を叩き込まれた獣人はもんどりうって倒れていく。カガミは会場から獣人を一歩も出さぬつもりで出入り口の前に身構えた。次の瞬間、肩に激痛が走った。あまりにも目の前の獣人に集中していた為、頭上からの獣人の攻撃に遅れを取った。蝙蝠人間の両足がカガミの両肩をがっしりと鋭い足爪で掴んだ。カガミはあまりの激痛に一瞬気が遠くなりかけ棒を床に落とした。昨日ユニバーサルエナジー本社でライオン男に噛みつかれた左肩がまだ治りきっておらず、蝙蝠人間の足爪は傷口にまたしても深い傷を入れた。両肩から赤い血が流れだし、カガミの動きが止まった。蝙蝠人間は翼を広げて飛び上がる体制を取った為再度両足に力を込めた。

「ぐうわぁぁぁぁぁぁ!」

カガミはその痛みで正気に返り、叫び声を上げた。蝙蝠人間はカガミを掴んだまま上昇を始め、肩から滴り落ちる赤い血が獣人達を濡らし、肉食獣人たちは血の臭いと味に歓喜の叫び声を上げた。カガミを掴んだ蝙蝠人間は会場の中央まで来てからカガミを離した。カガミは落下してテーブルで背中を強く打ちつけて床に落ちた。肩の激痛と背中の痛みで、息が止まり掛けた、意識は朦朧としていたが椅子とテーブルを跳ね除けながら獣人達がカガミに向かって来ている事はわかった。激しい音を立てながらカガミに突進し、ある物全てなぎ払い、カガミの周りに空間を作り、獣人達はカガミを包囲した。その光景はまるで何かの儀式の様に、これから生け贄を捧げるかの如く異様な光景である。カガミをどう料理しょうか?全ての獣人が喜びに湧き、歓喜の雄叫びを上げ、カガミに一斉に飛び掛った。雄多郎は座り込んだままの明日香の側に来て

「明日香さん、兄さんはそこの地下倉庫にいる。俺が行って助け出してくるから、ここで待ってるんだ、いいね」

そう言ってから、行きかける雄多郎の袖を明日香は掴んだ。

「待って下さい、早見さん、私、もう大丈夫です。一緒に行きます」

雄多郎は躊躇したが、今までの事で明日香は頑固で、言い出したら聞かないと言う事もよくわかっていた。ここで議論をしても時間の無駄、見た所先程よりも意識ははっきりとしている様である。

「大丈夫かい」

「大丈夫です。もう何が起こっても、驚いたりしません。大丈夫です。兄の所へ連れて行って下さい」

明日香はそう言って力強く立ち上がった。雄多郎はあらためて明日香の強さをしった。

「よし、行こう」

カガミの事も心配だった、一人に対して獣人は30体以上、いくらカガミでもあの獣人の数に太刀打ちできるのか?しかし、考える猶予はなく、雄多郎は自分自身の恐怖に打ち勝つ為に、また気合を入れる為に地下倉庫のドアを激しく蹴り開けた。開いたドアの正面には階段があり、薄暗く、それはまるで奈落の底に続いているかの様であった。雄多郎は明日香を見詰め、明日香も雄多郎を見詰め返し、コクリとうなずいた。雄多郎もうなずき返してから、二人は薄暗い階段を降りて行った。

カガミは獣人が一斉に飛び掛らんとする直前にベルトのバックルに手を伸ばした。バックルの横についたスイッチを入れるとバックルが開き、バックルの中は沢山のプラグや端子が剥き出しになっている。獣人はカガミの両手両足、いたる所にその爪を伸ばし、牙を剥き、ずたずたに引き裂こうとした。一瞬早くカガミはバックルの横にある別のスイッチを入れた。バックルからまばゆい閃光が迸る。

まるでベルトのバックルから雷の稲妻が下から上へと伸びて行くような光景が拡がり、辺りを明るくした。数秒してカガミの周りにいた獣人達に変化が起き始めた。獣人の体が赤く発光し始め、次々に体から火を噴出し始めた。獣人達は火だるまになり、のたうち回る。空中の鳥類達も次々に体を発光させ、火を吹き出し落下し始めた。数十体の獣人達は炎の熱さにに苦しみ悶えながら、狂ったように場内を転げ回った。やがて火はテーブルや椅子、会場の備品に引火して会場中を火の海に変えていく。先程まで狂った様に叫びながらのたうつ獣人達も次々に絶命してその動きを止めた。しかし、今度は火が勢いをましてセミナールームを炎の地獄と化して行く。その中をカガミはむっくりと立ち上がった。スーツに火が移る事もなく、これほどの炎の中に平気で立っていられるところを見ると、相当の耐火能力が備わっている。ベルトのバックルはおそらく、電気の充電池のような物であり、棒はそこから電気を充電するようになっている。その充電池に貯められた電気を一気に放出させた為、何万ボルトという電流が獣人達に流れ、その体を焼き、火を吹き出させたのだ。カガミは炎の中で手を前に突き出した。

燃えさかる炎の中から先程取り落とした棒が飛び上がり空中に浮かんだかと思うと、カガミの方へ勢い良く飛び、向かってくる棒をカガミは掴んだ。出入り口の辺りで数匹の獣人が叫び声をあげながら逃げていくのをカガミは見逃さなかった。両肩から血をしたたらせながら、カガミは炎の中、獣人を追って駆け出した。


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