18話 ナンパな赤ちゃんと私の仁義なき戦い
『ん? どうしたリン?』
「……ぽこちゃん、うるしゃい」
『ああ、また始まったのか。はぁ、行ってくるか。このままだとリンの世話の邪魔になるし、周りの赤ん坊と卵にも迷惑だからな』
「だいじょぶ、あたちがいっちぇくる」
『だが』
「おはなちできる、あたちのほがいい。じぇったいとめる!」
『そうか? じゃあとりあえずリンに任せるが、ダメそうならすぐに俺を呼べよ。強制的に向こうへ連れて行って、俺が1対1で世話をしてやるからな』
「うん、ありがちょ!! いっちぇきましゅ!!」
気合を入れて、問題の方へ歩いていく私。その間にも、
『あちがきりぇいおにぇしゃ~ん! あっ!! はにぇがかわいおにぇしゃ~ん、おいりゃここだじょ! こっちきちぇ!! いっちょにおやちゅたべよだじょ!!』
とか、
『ふりふりおちりにょ、おにぇしゃ~ん、おいりゃとみじゅあびちないじょ?』
なんて続くナンパ。私は後ろから近づき、声をかけた。
「ぽこちゃ」
『!?』
原因が振り返り、こいつ、また来た! みたいなジト目で私を見てくきたよ。
『うりゅしゃいおにぇちゃ、きちゃじょ!』
「きたぞ、じゃなくて、きたなだよ」
『なにちにきちゃじょ!!』
「いまは、みんなおしぇわで、いしょがち。しゃしょうのだめよ」
『よんでりゅだけにゃんだじょ』
「ぽこちゃんのは、よぶじゃなく、しゃしょう」
『いっちょに、いちゃいだけだじょ!!』
「しょれでも、いまはだめ。いまだけじゃない、いしょがちいときは、じゅっとだめ」
『しょれが、だめにゃんだじょ!! うりゅしゃいおにぇちゃが、だめなんだじょ!! あっ! きれいおにぇしゃん、たしゅけちぇだじょ!! うりゅしゃいおにぇちゃ、あっちいかしゅじょ!』
「だれもこない!!」
『……』
「……」
睨み合う私たち。
数秒後、しっぽを膨らませて、私を攻撃してきたよ。ペシッ!! とね。そのしっぽをこれまたペシッと叩く私。ペシッ! ペシッ! ペシッ! ペシッ!
『あら、また始まったわ。あの子ったら、さっきまでうるさく鳴いていたと思ったら、リンの様子を見ると、やっぱりあのことで鳴いていたみたいね』
『おお、完璧に叩けるようになったな』
『というか、どちらもスピードが上がっているように見えるわ』
『まぁ、ほぼ毎日のことだからな。お互いがお互いを高めあっているって感じか』
『あんな理由で、高め合ってどうするのよ』
『だが2人には、動くための練習にちょうどいいだろう?』
『確かにぽこは、他の赤ん坊よりも、ぜんぜん動けるし。リンもここへ来た頃よりも、動きがヨタヨタじゃなくしっかりしてきたからな』
なんて声が、周りから聞こえてくる。違うよ、お世話で動き回っているから、ちびっ子のヨタヨタじゃじゃなくて、少しは動きが良くなったんだよ。断じてこれのせいじゃない! それに高めあってもない!!
「しゃしょうのを、やめる!」
『やめりゅにょを、やめりゅじょ!』
誘うのをやめろって言うのをやめろってか、赤ちゃんのくせにああ言えばこう言うったら。パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! そうして続く叩き合い。
一体私は何をしているのか? これはあの時から始まっていたんだ。さっきの話にもちょっとだしたけど、最初に育み場へ来た時、ナンパな赤ちゃんに邪魔されたやつね。今、私と叩き合いを繰り広げているのは、あのナンパな赤ちゃんなんだ。
種族名はタヌーン。外見はたぬきそっくり。でも赤ちゃんの時は、子犬よりも小さくて、毛並みももふもふのふわふわ、月の光を浴びると銀色に煌めくんだ。
でも大人になるにつれて、毛の色が濃くなっていって、最終的にはもっと綺麗になるんだよ。それに大人は、ツキノワグマよりも大きくて、目の色が月色になるの。
たぬきに似ているからね、丸っこい愛嬌のある姿をしているけれど結構俊敏でね。お兄ちゃんお姉ちゃんタヌーンたちが他の子魔獣たちとかけっこをしていると、毎回1位2位を競っているよ。
戦闘能力も結構高いみたいで。森で何かあった場合は、グリフォンたちと一緒に前線で戦うんだって。物理的攻撃に魔法による攻撃、どっちも強いみたい。
でも他の魔獣同様、小さい頃は大人みたいに強いわけじゃないからね。しっかりとみんなで守ってあげないといけないんだ。
ただ、このぽこちゃんはね……。お姉さん魔獣大好き、ちょっとませてる? 恋多き? いや、ただの女好き? そんな赤ちゃん魔獣だったんだよ。親が認めるほどのね。
ぽこちゃんは今まで……まぁ、今もだけど。オス魔獣がお世話すると元気がなく、メス魔獣がお世話をすると、とっても元気がよくなって、しかもめちゃくちゃメス魔獣に話しかけていたんだって。
でもみんな、私がここへ来る前は、赤ちゃんが何を言っているか分からなかったでしょう? だから分からないまま、女好きなんじゃ? なんて冗談で言っていたみたい。
だけどぽこちゃんの両親曰く、この子は絶対に女好きだから、その辺しっかり見ていてほしい、とみんなに話していたらしく。だからみんな、まさかと思いながらも、一応様子は見ていたんだ。
でも私がぽこちゃんの話しを聞いて、両親が言っていたことや、自分たちがまさかと思っていたことが本当だったと分かり、真実が分かった日は、育み場に衝撃が走ったらしいよ。赤ちゃんなのに、今からそれか! ってね。
まぁ、赤ちゃんの頃からナンパするなんて思わないよね。その辺は魔獣も人も認識は変わらないらしい。両親が分かったのは、さすがの親だからって感じかな。
と、いうことで、真実が分かったから、ぽこちゃんを暴走させないために、私はぽこちゃんのお世話係にも任命されたんだ。ただ……ね。
すぐにナンパを止められるわけもなく、最初は私が注意すると、言い合いになって、その後睨み合うだけだったんだけど。今ではぽこちゃんが私になれたのか、しっぽで私を叩いてくるようになったんだ。
それに対してしっぽで叩かれないように、そのしっぽを叩き返す私。最初はお互い威力が弱く、狙いがよく外れ、叩き合いっていうにはあれだったんだけど。今では完璧な叩き合いをしているよ。
『きりぇいにゃおにぇしゃん、いいじょ。かわいおにぇしゃん、いいじょ』
「きょは、あたちだよ」
『おにぇいしゃだじょ!』
「あたちだよ!」
パシッ! パシッ! パシッ! パシッ! 続く叩き合い。負けてたまるか! パシッ! パシッ! パシッ! パシッ!
と、叩き合いの最中だった。
『来るぞ!!』
そう、周りを監視していた魔獣が叫んだんだ。




