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私が親友の妹JCと、いつか一緒に住むまでの話  作者: シキ


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閑話 姉と妹_2


 香奈は中学生になり、その外見はますます大人びていった。私だって高校三年の中じゃ背が高い方だったけど、香奈と並んでもほとんど差なんてなかった。香奈の顔立ちが大人っぽいのもあって、どちらが姉か妹かわからない。

 香奈もさすがに中学に上がってからは前より甘えてくれなくなったけど、それでも私にとっては可愛い妹だった。

 それから変わったことをいえば、香奈が家事を覚え始めたこと。

 香奈が中学進学をきっかけにお母さんはフルタイムで仕事をするようになった。そして家のことは主に私と香奈で担当。

 私は前から家のことを手伝ってはいたけど、性格が大雑把なせいで掃除も料理もどちらかというと苦手。対して香奈の性格はとっても几帳面、しかも容量がいいから、家の中のことはあっという間に私から役割を奪っていった。

 私にとっては、香奈が家事を引き受けてくれるのは都合がよかった。高校で私が入ったグループは結構派手な方で、遊び歩くのが当たり前で家にいるほうが少ない。だから家のことは必要最低限で、その代わりに買い物とか外に出る用事を担当するようになった。

 香奈の交友関係はみゆりちゃんと出会う前に戻ってしまったようで、あんまり外出しない日々が続いていた。気にはしていたけど香奈はそれが普通かのように振る舞っていたし、私に悩みを相談することもない。どこか自分の中で割り切ってしまっているように思えたから、特に何も言わなかった。


 そして、その事件は何の前触れもなく起きた。

 寒くなり陽が落ちるの早くなってきたとある日、ちょうど友達を別れて家に帰る途中に、私は1つの電話を受ける。

 

「~警察署ですが」

「……へ?」

 

 知らない番号から聞こえたのはそんなセリフで、一番最初に思いついたのは香奈がテレビを見ていて特殊詐欺の事例を話していたことだった。電話の向こうでは男の人がなにかを話していたようだけど、その内容はうまく頭に入らない。でもその後すぐに香奈の声がしてその電話に現実味が押し寄せた。

 ちょっとテンパってしまった私を、香奈はゆっくり話して落ち着かせる。そして警察にいる経緯を説明してくれた。

 その日、文房具を買うためにショッピングモールを訪れた香奈は、一人の男性から声を掛けられた。

 男性はどこかの芸能事務所のスカウトで、()()()()()()()香奈は聞こえないふりをして通り過ぎた。けどそのスカウトはしつこくて、香奈の後ろについて回っては話しかけてくる。それでも香奈が無視をしていると、そのスカウトは急に態度が悪くなり、香奈の腕をつかんできたらしい。

 瞬間、香奈は大声を上げて、スカウトは周りから注目されてしまったことで逃げようとした。けれどたまたま近くにいた警備員に取り押さえられ、誰かが通報をして警察沙汰になった、というのが今回の経緯らしい。

 スカウトは厳重注意で帰されたけど、香奈は一人で帰る気にはならなかったようで、まず私に電話をくれた。

 電話で警察署の住所を聞いて、その場でタクシーを捕まえて飛び乗る。最寄りの警察署へ駆けつけると、香奈は珍しく私を見るなり抱き着いてきた。その体は少し震えていて、電話では淡々とした様子だったけど、相当強がっていたことが分かった。

 お母さんにも連絡はついているみたいで、車で迎えに来てもらう間に詳しい話を聞くと、実はこういったことは何回かあったらしい。

 

「なんですぐに言わないの!」

「ここまでしつこい人、いなかったから」

 

 普段はとりあえず無視しておくか、名刺を受け取ればいなくなる。だけど今日の人はタチが悪く、怒らせてしまった。それを話す香奈はどちらかというと、自分の危険よりも私とかお母さんに迷惑をかけたことに落ち込んでいるように思えた。

 すっかり落ち込んでいる香奈に怒る気分にはなれず、かわりに頭を撫でてあげる。最近は香奈のことをぜんぜん気にしなくなっていたことを、私も反省した。あんなにお父さんに見ていてあげて、と言われていたはずなのに。

 すぐにお母さんが迎えに来てくれて、警察の人に頭を下げて三人で家に帰る。

 ともかく、沈んでいても仕方ない。香奈の外見がこれから注目されることは容易に予想がついたから、その対策を3人で話し合った。

 そして決まったのは香奈のGPS所有と、出かける時は私かお母さんのどちらかと一緒に行くこと。どうしても一人で出かけなきゃいけない場合は必ず定時連絡を入れること。一人で遊び歩いている私には少し窮屈な気もしたけど、今日みたいなことがまた起こるかもしれないと思うと反対意見もいえず、香奈もそれを受け入れた。

 もともと中学に上がってから、出かけるのは図書館くらいだったから、香奈としてもあんまり気にならなかったんだと思う。

 お母さんもほとんど家にいない私と違って香奈は大抵家にいるから、私よりも香奈の方を心配しているようだった。もちろん私も香奈のことは心配だったけど、それよりもそのルールが決まってから、ますますこもりきりになる香奈に、なんだか危機感を覚えていた。



 

 私がなんとか近くの大学に合格し、香奈はほとんど生活を変えないまま中学生になった。

 大学は高校の時よりもさらに自由度が高くて、アルバイトでお金の余裕も出た私は、授業を休んで遊び歩いていた。私が「近いから」という理由だけで入った大学は、全体的に空気が緩く、そこまで勉強しなくても単位はとれたから、私みたいな人にとってはちょうどいい大学だった。

 そしてその大学では、私と同じようにさぼり癖のある友人ができた。それがあゆみだ。

 出会ってまず感じたのはやっぱり背の高さ、私も女性の中では高い方だけど、それよりも高い。本人にとってはコンプレックスで、背をごまかすためにいつも猫背気だけど、それだけではスタイルの良さは隠せていなかった。顔立ちもどっちかというと女にもてそうなタイプ。

 あゆみは一緒にいて楽だった。お互いあんまり真面目じゃないし、背の高さで苦労したことも共感できた。どっちかに遊びに行く予定ができれば、片方が講義に出てノートをとったりと協力できる。

 一年生の時はほとんどあゆみと一緒にいたかもしれない。長期の休みには旅行へ行ったし、お互いの家に泊まることもあった。

 そうやってあゆみと遊び惚けている内に一年はあっという間に過ぎ、私は大学二年になった。香奈の日々は変わらなくて、律儀にお母さんとのルールを守って、学校以外で出かけることはほとんどなくなっていた。

 香奈にも、私にとってのあゆみのような存在がいればいいのに。なんでも話せて、誘えばいつでも一緒に遊んでくれて、オマケに守ってくれるような、そんな友達が。

 みゆりちゃんがいれば、きっとそうなったんだろうけど……なんとかできないかな、と休日でもほとんど家から出ない香奈を見てそんなことを考えていた。


「おねーちゃん、今日参考書買いに行く約束してたよね」

「……んー」

 

 その日は起きた瞬間から調子が悪かった。ベッドからなかなか起き上がれないでいると、すでに服を着た香奈がドアの隙間から顔を覗かせる。

 

「ごめん、風邪引いたかも……」

「風邪? 体温計もってくるね」

 

 少しして香奈が戻ってくる。体温計を渡され、ビタミンゼリーと市販の薬、お水がテーブル脇に置かれた。

 

「ありがと……」

 

 ぴぴ、と体温計のに表示された体温は37.8℃。ちょっと熱は高めだった。

 

「薬飲んで寝てて、食欲はある?」

「うん、大丈夫ー」

「おねーちゃんが熱出すなんて珍しいね。そういえば、午後はお友達と出かけるっていってなかったっけ?」

「あー、そうだったかも」

 

 午前中のうちに香奈の用事に付き合って、午後はあゆみと遊ぶ約束してたんだっけ。とりあえずあゆみには連絡しとかないと……。

 

「お母さんは?」

「急に休日出勤になったから、もういないよ」

 

 タイミングが悪い、それじゃ香奈の用事が済ませられないじゃん。

 

「香奈、もうやる参考書なくなったって言ってたよねぇ」

「うん、そうだけど……でも今日じゃなくてもいいよ」

「それ、私の友達と行ってきなよ」

「……なんで?」

 

 うん、私もそう思う。でも思いついて口に出てしまったから仕方ない。

 

「おねーちゃんとの用事がなくなったら、その人も違う用事作るんじゃない?」

「いや、それはない。絶対にあゆみは一日寝てる。だから私がたまに散歩につれてかなきゃいけないんだ」

「そんな犬みたいな」

 

 それでも私が強く言えば、香奈は頷いてくれる。あゆみの家の住所を教えて、風邪を移さないためにもさっさと出かけてもらおうとしたけど。

 

「ダメ、食欲あるならおかゆ作るから、出かけるのはその後にする」

 

 それだけは譲れないみたいで、しっかりと私におかゆを食べさせ、洗い物と家事をあらかた済ませてから出て行った。

 

「もしあゆみさんがいなかったらすぐ帰ってくるからね」

 

 私が書いたメモを持って、香奈はそう言い残して出ていった。まぁでもあゆみは絶対家にいる、賭けてもいい。

 静かになった部屋でベッドの上に倒れ込む。さっきより熱は上がっているみたいで、なんだかクラクラしてきた。

 

「なんであんなこと言ったんだろ」

 

 それは完全に思いつきで、熱を出していなかったらそんなこと言わなかった。

 あゆみもいきなり友人の妹が来ても困るだろうに。それでも、私が知っているあゆみは香奈のことを無下にしないし、一日くらいなら付き合ってくれるはずだ。

 

「頼むぞー、あゆみ」

 

 そんな無責任なことを呟いて、私はベッドに倒れこんだ。


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