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私が親友の妹JCと、いつか一緒に住むまでの話  作者: シキ


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29話 高校最後の文化祭_4_side香奈 あゆみ

 side 香奈


「疑似的な結婚式をしたいな、と思っていて」


 この計画を進めるために、茉莉さんには最低限私とあゆみさんの関係を話しておく必要があった。理解してもらおうとは最初から思っていなかったけど、なぜその衣装を作るのかの根本になる材料で、それは外せないような気がしたから。

 私とあゆみさんの細かいことまでは話さないけど、今回の文化祭で何をしたいのかを説明する。


「噂であったかいちょーの心に決めた人っていうのが、あゆみさんってこと?」

「そう。いつか本当の結婚式を挙げようと思ってるけど、最後の学生生活だから、茉莉さんの言っていたとおり忘れられない思い出を作りたいの」

「なるほどねー」


 シャーと、図面に線を引く。茉莉さんは型をとっている最中で、その表情はよく見えない。


「つまり私は、最高のドレスを作ればいいってことだ」

「……それはもちろんお願いしたいのけど、もっと他に聞くことなかった?」

「いやー気になるよー。気になるけど……今はどんなドレスを作るかの方が大事かなー」


 線を引き始めてから茉莉さんは一度もこちらを振り向かなかった。目の前の紙に夢中で、その姿はいつか見たかさねさんを思いださせる。それは趣味に全力な人の背中だった。


「詳しい話は学園祭が終わってから聞かせてよ。私が覚えてたらだけどー」

「分かった。今はお互い、学園祭の成功を考えよう」

「かいちょーの出演は私がお願いしたけど、正直ダメもとだったんだよ。こういうことにあんまり興味ないと思ってたからさー。でもかいちょーが私の衣装を着て歩いてくれるなら、私は全力をださないと失礼だから」

「……よろしくね、茉莉さん。私も絶対に成功させるから」




 学園祭当日、あゆみさんを控室に送って、ゆらさんのフォローをした後、見回りもかねて学園祭開始前の校内を見回る。ついつい会長業をしてしまうのは、みんながいまだに会長と呼ぶからだろう。

 学内を歩いていろんな人に話しかけられながら、これが最後の学校祭なんだなという実感が急にこみあげてきた。高校入学時は、中学と同じように一人で過ごすことになるのかなという不安が大きかったけど、今となっては背の高さでも容姿でも目立つことはとても少なくなった。みんな分け隔てなく話しかけてくれるし、夕さんのおかげもあって、入学してから孤独感は全くない。

 そして高校生活の集大成ともいえるこの学園祭。これが終わればあとは受験まっしぐらだ。だからこそ、この今日という日を最高の日にしたかった。

 だいたい見回って最後に自分のクラスへ入ると、何人かがすでに準備をしていた。


「あ、香奈ー早いね」

「生徒会の仕事があって」

「そっかそっか、始まるまではこっちいれる?」

「大丈夫、なにか手伝おうか」

「じゃあこれお願い」


 手作りの看板は、クラスの出し物であるステージ発表のものだ。今回私は服飾部のステージと毎年恒例になった生徒会の出し物があるから、自分のクラスは裏方だけど、クラスにとっても最後の文化祭だから、手は抜けない。

 クラスメイトとお話しながら、私達は文化祭が始まるまで手を動かした。




 時間通りにステージ横の準備室に行くと、そこには服飾部の女子生徒が二人、すでに待機していた。

「ゴメンなさい、遅くなりました」

「会長、お待ちしてました。とりあえず先に準備を済ませましょう、この衣装を着たらあまり身動きできないですけど、これから始めて大丈夫ですか?」

「大丈夫です。今日はよろしくお願いします」


 そこは、私のためだけに用意された待機場所だった。そしてその中心には真っ白でフリル満載のウェディングドレスが準備室の淡い光を反射させている。


「私達がお手伝いしますので、会長は立ったままで」

「わかりました。今はランウェイのセッティング中でしょうか」

「そうですね。反対側の準備室では茉莉先輩が仕切っているはずです。ゲストも到着しているみたいですよ」

「プログラム通りに進められそうですね。あっ、下着も着替えないと……」

「専用のインナーがあるのでここで着替えを。一応目隠ししていますけど、わからなかったら呼んでください。その後は先にお化粧と髪を結いますね」


 簡易的な目隠しの中で、一度着ているものをほとんど脱いでしまう。ウェディングドレスの着方は茉莉さんと勉強したけど、とにかくパーツが多いし普段着るようなものじゃないから時間がかかる。そして服飾部の人も言っていたけど、服自体が結構な重さだし、足の動かせる範囲も狭いから、ゆっくり歩かないと簡単に躓いてしまう。

 一応ファッションショーというイベントとして行っているから、転ぶなんてことは許されない。あんまり無理な動きは禁物だ。

 私が立ったまませかせかと服飾部の人たちが準備してくれる間に、大きな音楽が流れてきた。


「始まったみたいですね」

「もう少しですのでそのままで」

「大丈夫です。心配はしていませんから」


 もう身体はかなり動きづらいのがわかる。手伝ってくれている人たちのためにも、なるべくじっとしていた。

 細かい部分をなおして、最後に小物をつけていって。


「……できました。鏡で確認してください」

「いえ、いいです。……あなた達から見て、綺麗に見えますか?」


 姿見を持ってこようとするその子を止めて問いかける。音楽はすでに終盤になっていて、ステージの熱気もここまで伝わるようだった。


「……えっと、信じられないくらいに……」

「では十分です。あまり時間もないですよね? 誘導してくれますか?」


 私が手を差し出すと、部員の一人が手を持ってくれる。


「ひぇぇ、私が最初にこの手を持ってもよかったのかな……」


 一仕事終えたせいで緊張感がなくなっていたその部員は、そんなことを言いながらも私の手を握ってくれた。


「ありがとうございます、あとは私の仕事ですね」


 ステージ袖まで移動すると、ランウェイを歩き始めたあゆみさんが見えた。その立ち姿はモデルとしてのオーラをまとっているようで、観客の視線も奪い去っていく。その強引な力強さは、茉莉さんが作った服よりもどうしようもなく目立ってしまっていた。


「会長、そろそろ」


 その囁きに、あゆみさんがすでにランウェイの先まで歩いていたことに気づく。私は1つ深呼吸をして、ステージに一歩踏み出だした。





 side あゆみ


 言葉にならないとはこういうことだろう。ウェディングドレスを着た香奈は、ゆっくりとランウェイを進み始めた。

 その姿はファンタジーの中にいるプリンセスのようだった。頭の上にはティアラ、腰から下はボリュームのあるAラインでフリルが満載。肩までは出さないけどレースの透け感が可愛い。

 なによりそのドレスの可愛さに香奈が負けていない。

 ドレスを使いこなすように、ランウェイを進む香奈。きっと歩くのも難しいはずなのに、一切バランスが崩れない。

 そんな香奈の視線が観客ではなく私に向いていて、私は足を止めていたことに気づく。周りの声はすでに香奈を呼ぶものばかりで、すでに主役は切り替わっていた。私も早く戻らないと。


「ダメ、ですよ」


 すれ違う瞬間、腕をつかまれて私にしか聞こえない声量で囁く。


「これは、私達の結婚式なんです。ほら、みんな祝福してくれますよ」


 その言葉に、香奈の考えが伝わった。なぜ私がタキシード風の衣装になったのか、そして香奈がなんで私をオファーしたのか、その全ての意味が。


「これが私の高校最後の文化祭です。ステージの上で、その光景を一緒に見ましょう」

「ほんっと、香奈は信じられないくらい凄いよ」


 戻ろうとした足を止め香奈の隣に並ぶ。香奈は自然に私の腕に手を回してきた。

 ステージの中心まで二人並んで歩くと、右からも左からもカメラを向けられていた。手を振ったり香奈と一緒に軽くポーズをしたりして、見せつけるように進む。

 そこからは正直ファッションショーじゃなかった。ただ、私と香奈が二人並んで歩くだけ。まわりの人は私達を祝福してくれているわけじゃない。きっとこれもただの演出だろうと思っている人しかいないだろう。

 けれどその中にいる私達はその瞬間、世界で一番幸せだと思った。




「せ、先輩。今日はもう帰る?」


 ファッションショーが終わって、私は控室でかさねが買ってきた出店の食べ物を机の上に広げていた。主に食べているのはかさねで私はまだ夢の中にいるような感じがしていた。


「え、いやまだ仕事終わってないから」

「……でも先輩、ずいぶんぼーっとしてる」

「まぁ、理由はわかるでしょ」

「凄かった、もっとちゃんとしたカメラ持ってくればよかった」


 かさねのスマートフォンには、楽しそうに歩く二人が写っていた。何枚も撮影されたそれは、どの写真も幸せそうに見える。


「なんか今でも信じられないな」

「か、香奈ちゃんと学校祭回ったりしないの?」

「後片付けで忙しいってさ。終わったら来てくれると思うけど、いつになるやら」


 適当に学校を見て周っていてもいいですよ、とは言われているけど、二人で歩いた時の余韻が凄くて、なかなかそんな気になれない。


「ねぇ、あれって結婚式だったのかな?」

「え、えーと……どうだろ。でも香奈ちゃんがそういったなら、そうなんだと思う」

「そーかー、そうだよね」

「……先輩、にやけてる」

「嘘っ」


 香奈の最後の学校祭はまだ続いている。それが終わったら私はどんな顔で香奈と会えばいいのか、今はにやけてしまう顔を押さえて悩むしかなかった。


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