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私が親友の妹JCと、いつか一緒に住むまでの話  作者: シキ


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閑話 東谷香奈の忙しい一日

 学校の制服が冬服になって、通学路を歩く人も分厚いコートを着るようになったとある日。


(ゆう)、おはよう」

「おはよう、遅かったわね」

「いろいろと準備してたら、ちょっと家出るの遅くなって」


 朝、私は同じクラスの夕と待ち合わせをして学校へ向かう。夕の家は反対方向のはずなんだけど、一年生の時にテストで対決してからなにかと付きまとわれるようになって、いつの間にか学校のちょうど間くらいで私を待ち構えるようになった。

 今だに勝負を時々挑まれるけど、私と同じく二年生になって生徒会入りした夕は、今では冗談を言い合えるような友人となっていた。

 

「今日って結構忙しかったよね」

 

 私がそう尋ねると、夕は生徒会共有の予定表アプリを開いて確認してくれる。

 

「冬休み中の体育館使用の日程と、次期役員の選定するくらいね」

「時間かかんなければいいけど」

「なにか予定あった?」

「あるにはあるけど、大した事じゃないから大丈夫」

 

 大した事じゃないけど、あゆみさんが初めて雑誌デビューする『メルティーユ』を買いに行きたいくらい、かな。

 一冊分はインターネットで予約しているから、待てば明後日くらいには届くと思う。だけどそれとは別にどうしても発売日に読みたくて、今日買いに行こうと思っていた。

 本当は朝一番に行こうかと思ったけど、メルティーユはコスプレ専門ということもあって、コンビニとかで売っているようなメジャーな雑誌じゃない。大型書店にぎりぎりあるかどうかといったラインだから、街まで出ないといけないし、確実に買うならアニメショップに行くのが一番だ。そのために今日の朝仮病を使うか悩んだのは人生初めてのことだった。

 

「日程は作りかけているし、次期役員の目途もついてるから、そんなに遅くならないと思うわよ」

「そっか、それなら頑張って済まそう」

 

 そんな夕の言葉に私は少しだけほっとして、早く終わったらアニメショップまで行ってみようと計画した。



 

 授業はなにごともなく順調に進み、放課後。

 生徒会室へ向かう私の足は、メルティーユという目的もあって自然といつもより早くなった。

 職員室で鍵を貰って、一番初めに生徒会室へ入った私は、共有のパソコンをつけて冬休み期間中の体育館使用日程を確認する。誠英高校はスポーツでも優秀な成績を納めている部活が多く、休み期間であっても毎日なにかしらの部活が活動している。特に体育館は常に取り合いの状態だった。

 画面上の日程は、まだいくつかの部活が入っていない状態だ。それをパズルのように希望日程を参考に当てはめていく。……ここに入れるとバレー部の希望が通らないし、まだバスケ部の時間も足りてない……と全部の部活でバランスを取るのはなかなか難しい。

 

「……」

「あの、会長」

「どうしました?」

 

 考え込んでいるといつの間に入ってきたのか、夕と同じ会計の安城さんが話しかけてきた。安城さんは一年生だけど数字に強くて、収支計算とかで重宝している。少し気が弱いから、もう少し自信を持ってもいいのにな、と思っている後輩だった。

 

「えっと、あの……私のクラスのバドミントン部の男子に、体育館使用を融通してほしいと言われまして」

「そう、なんて答えました?」

 

 こういうことはよくある。クラスに決定権に近い人がいるなら、話の合間にそんなお願いをすることもあるだろう。私だって、友達との会話のなかでそれとなく言われたことがあるし。

 

「他の部活もあるから、バランスを見て決めてるって言ったら」


 安城さんのそれは模範的な回答だった。現に提出された希望日程に対して、どの部活も同じ活動時間になるよう配置している。時間配分はちょっと難しいから一年生には頼まず、二年生中心でやっているし、実質安生さんに決定権はない。

 

「……脅されてしまって」

「その会話を覚えている限りでいいので書き出してください。あとその人の部活名と名前を」

 

 その言葉に、私は頭を切り替えて安城さんに内容を求める。

 安城さんは確かにお願いしやすそうな性格だけど、それを力で押し付けて要求を通そうとする行為は卑劣極まりない行為。安城さんのためにも早めに解決する必要がある。

 安城さんが書きだしてくれた内容は、確かに圧が強めの言葉を使っていた。安生さんとその人も、普段話すような関係じゃないようで、明らかにその用事のために話しかけられたとも安城さんは話している。

 私達が話している間にすでに生徒会員は集まっていたので、各自やることを確認して私は安城さんと一緒にバトミントン部室へ向かう。夕も来たがっていたけど、夕はちょっと血気盛んで交渉ごとに向いていないから、他の仕事をお願いした。

 男子部室棟は冬だというのに汗のせいか若干の刺激臭が鼻について、少しだけ顔をしかめる。やっぱり男子ってちょっと苦手だなと考えながらも、速足で男子バドミントン部の部室をノックした。


 

「生徒会です」

「うぃー……って会長⁉」

 

 扉を開けたのはバトミントン部員の一人だ。さすがに男性ということもあって、私より少しだけ背が高い。といっても目線はほぼ同じで、じっと目を見ると一瞬呆けていたその人はさっと髪を整えた。

 

「お前ら整列! 会長がお越しになられた! 場所を空けろっ! 飲み物とお菓子はあったか!」

「いえ、ここで結構ですので」

「そうとは言わずに。少し……いえ、結構汚いですけど、座るとこくらいはあるんで」

 

 部室の中をみると、さっきの号令で壁際には何人かの部員が整列していた。いくつかのロッカーは開きっぱなしで、一角にはぼろぼろになったラケットやシャトルが積みあがっている。端にあるゴミ箱には空になったペットボトルが溢れかえっていた。

 部屋が汚れているのは気になるが、流石に男子ばかりの部室は掃除したくもならない。

 

「確かに『少し』汚れているようですね、もう少し清潔した方がいいと思います。……本日来た要件はそれではなく、会計の安城に対して冬休み中、バドミントン部の使用時間を長くするように提言があったという」

「申し訳ございません!」

「……まだ話の途中ですけど」

 

 私の話を遮って、目の前の男子生徒はきっちり90°腰曲げて謝罪をした。話は最後まで聞いて欲しいんだけど。

 

「会長、言われなくともわかっています。生徒会だけには迷惑をかけるなと、常々部員には言っていましたが……おい」

「……はぃ」

 

 後ろで整列していた生徒のうち、一人が出てくる。身体はぶるぶる震えているし、顔色も悪い。おそらくそれが安城さんを脅した生徒なんだろう。

 

「ペナルティだ。校庭10周、筋トレメニュー各200回」

「わかりました」

 

 その生徒がふらふらと部室を出ていく。すれ違いざまに安城さんへ深く頭を下げて出ていった。

 

「……バドミントン部のルールには口出ししませんが、あまり無理をさせないように」

「あんな部員にも気遣ってもらえるとは、ありがとうございます」

「バドミントン部が今季頑張っているのは、私も把握しています。全国大会にも初めて出場できたと聞いていますので、長く体育館を使用したいのは理解できますが、時間は平等に振り分けますので」

「そこまで私に注目してくれていたとは……」

 

 なぜか目の前の男子生徒は感動しているらしい。よくよく見ると、目の前にいる人物が全国大会までいった生徒だったと思い出した。学内新聞で見たのを思い出しただけで、名前までは覚えてないけど。

 

「会長! いえ、香奈さん! 前から好きでした! 付き合ってください!」

 

 突然の告白に、さっきまで緊張状態だったバドミントン部室が歓声に沸く。

 いきなり告白を決行した男子生徒は、さっきと同じく90°に腰を曲げたまま、右手を私の方へ差し出していた。周りの部員も、後ろにいる安城さんまでも、その右手に注目している。

 それを見ながら、私は一つため息をついた。

 

「付き合えません、私には心に決めた人がいるので」



 

「あ、あの」

「あの様子なら、明日クラスで何か言われることもないと思いますよ。もしなにかまたあるようなら、私に連絡してください」

 

 生徒会室に戻る途中、後ろからついてくる安城さんにそう答える。

 さっきみたいな告白はたまにあることで、私にとっては慣れ切ってしまって気にすることもなかった。というか、ほとんど関わりもないのに告白が成功すると思っていたんだろうか。本当に考えてることがわからない。

 

「ありがとうございます、そっちは心配してません。それよりも、会長の心に決めた人って本当にいるんですか?」

「……どういうこと?」

「えっと、会長が告白を断る方言じゃないかって、実はみんなで話してて。もし本当にいるんだったらどんな人だろうって、新聞部が調べてるって噂もあって。最近では会長と釣り合うなら、宇宙人とかUMAだって話も」

「宇宙人?」

 

 新聞部が調べているのは知っているからいいとして、いつの間にか増えていた新説に、私は思わず笑ってしまった。

 

「え、え、なんで笑ってるんですか⁉」

「私の好きな人がそんな扱いされてるんだって思うと、おかしくて」

「ってことは本当にいるんですか⁉……どんな人ですか⁉」

「……実は宇宙人だったりして。みんなには内緒ですよ」

「ほ、本当に宇宙人……」

 

 神妙に頷いている安城さんに、私はますます可笑しくなってしまうのであった。



 

 結局、全ての作業を終えたのは完全下校時間ギリギリだった。

 私は途中まで一緒に歩いていた夕と別れた後、すっかり暗くなってしまった空を見上げながら家まで残り少しの道を歩く。

 

「結局雑誌買えなかったな」

 

 諦め悪くコンビニを確認したけど、並んだ雑誌の中にあゆみさんの姿はなかった。買わなくても明後日には読めると思うけど、その明後日までがひたすらに長く感じてしまう。

 そう考えると、なんだか足まで重くなってしまったように感じた。今夜はあゆみさんに電話してみようかな。でも平日はあゆみさんも忙しそうだから、邪魔に思われたりしたら嫌だし、どうしようかな。

 

「あ、香奈」

 

 そんな迷いと共に家の付近まで歩いてくると、聞きたかった声がした。

 

「あゆみさん! どうしたんですか? こんなところまで」

 

 そこには仕事終わりだろうあゆみさんが小さく手を振っていた。駆け寄ってあゆみさんの前に立つと、やっぱり少し首をあげなきゃいけなくて。今日告白してきた男子よりも少し背が高い、その高さが私を安心させる。

 

「会えてよかった。連絡しても返信ないからさ」

「あっ、ごめんなさい。スマートフォン見てなくて」

「いいのいいの。連絡したのもついさっきだし、それよりこれ」

 

 あゆみさんにビニール袋に入ったなにかを渡される、もしかして。

 

「あゆみさんの雑誌!」

「今日もらったんだけどなんか二冊あったから、香奈におすそ分けしようと思って」

 

 表紙にはシックなドレスに身を包んだあゆみさんがこちらを見据えている。

 うわー、きれい……かわいい……かっこいい……私の欲しかったあゆみさんがそこには全部ある。

 

「えっと、目の前でそこまで見られるとちょっと恥ずかしいんだけど……」

 

 少しだけ顔を赤くしているあゆみさんは、雑誌の中とは少し違うけど、そんな表情もまた愛おしく見えて。

 やっぱりこの人が、私の好きな人だなって。そう思った。

 

「あ、本人いるじゃないですか! サインください!」

「え、大丈夫? 香奈言動がちょっと怪しいんだけど」

「くださーい!」

 

 ぐいぐいともらったばかりの雑誌を押し付ける。あゆみさんのサインってよく考えたら初めて見るかもしれない。いったいどんなサインを書くのだろう。

 少し困っている表情も可愛いなと思いながら、私はあゆみさんに詰め寄った。




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