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私が親友の妹JCと、いつか一緒に住むまでの話  作者: シキ


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23話 一年後も


 待ちに待ったゴールデンウィークのとある日、私と香奈は少し足を延ばして総合温泉施設へ来ていた。

 

「大きいですね」

「そうだねぇ、ゲームセンターに映画館もあるんだっけ?」

「レストランもあるみたいですし、温泉施設の方がオマケのような気がしますね」

 

 実際、面積的には映画館の方が大きい。ゴールデンウィークということもあって多くの人が出入りしている。

 今回訪れた複合施設は『一日中遊べる』というのがコンセプトで、温泉の中にはサウナや岩盤浴もあって、一日券を買えば出入りも自由だ。私達はとりあえず温泉に入ろうと、一日券を買って受付でタオルと湯着を借りる。私は女性用の推奨サイズだと全然足りなかったから、男性用をレンタルすることになった。

 

「湯着があって助かりました」

 

 脱衣所に入って、香奈がそんなことを言う。湯着は温泉用の水着みたいなもので、薄目のTシャツとハーフパンツのようなものだ。この施設には一部混浴もあり、全員着用することがルールになっている。

 

「女同士だしそんな恥ずかしくもないでしょ?」

「好きな人の素肌なんて直視できません!」

「わ、わー! 声が大きい! というか香奈は私がコスプレする時とかに見たことあるでしょ」

「あの時は、まだ今のような関係じゃなかったでので……それでも直視はできなかったですけど」

「かさねなんて触ってくるくらいだったのに」

「かさねさんは……ちょっと感性が私とは別なので」

 

 なぜか恥ずかしがる香奈と、仕方なく少し離れて湯着に着替える。私からすると仕事柄人前でも脱ぐことがあるから、そんなに気にならなくなってしまった。

 それでも女性脱衣所で男性の色の湯着に着替えるものだから、何人かの女性はぎょっとして見ていたけど。


「お待たせしました」

「……もしかしてまた大きくなってない?」

「み、見ないでください」

 

 湯着に着替えた香奈は、その胸部がはっきりと主張している。天は香奈に二物も三物も与えたようで、不公平だった。

 

「ちなみになんか秘訣とかあるの?」

「えーっと……食事をバランスよく食べることでしょうか……?」

 

 香奈は一瞬もう遅いんじゃ、みたいな表情を見せたけど、律儀に答えてくれてそれがまた余計に空しい。


「だ、大丈夫ですよ。あゆみさんはあゆみさんのままでいいんです!」

「ソウダネ……」

 

 会社でモデルをする時も胸がない方が身体のラインが綺麗に出る場合が多く、よく褒められたりする。ぜんぜん嬉しくないけど。


「ほら、早くいきましょう」


 香奈に手を引かれて浴場に入る。温泉は男性用、女性用、混浴と分かれていて、混浴は大きい露天風呂のようになっていた。女性用の露天風呂からさらに奥に進むと混浴の露店につながっているようだった。

 

「露天風呂も行きます?」

「んー……行っても女性用までだね」

「当たり前です」

 

 湯着があるとはいえ、香奈を男の視線に晒すのはちょっと嫌だな、という気持ちは少なからずある。もしかしたら香奈も同じようなことを考えてるかもしれないけど。

 こういう気持ちが独占欲だったりするのかな、と少し思った。特に恋人を作ったことのない私は嫉妬とか、他人を私だけのものにしたいという気持ちはよくわからない。第一女同士ということもあって、香奈をそこまで束縛したり、私だけを見てほしいなんて感情は今のところないけど、少なくとも今の無防備な姿を男には見せたくないと思った。

 この施設は家族連れが多くて、声をかけてくる人も少なそうだからそんなに警戒しなくていいとは思うけど……。

 

「やっぱり注目されますね」

「え、香奈はやっぱり気づいてた?」

 

 入るお風呂を選びながら、小さな声で伝えてくる。全然気づかなかった私は、女性しかいなくてもやっぱり見られているとわかるものなのかなとつい周りを見てしまう。

 

「はい、やっぱりあゆみさん目立ちますから、仕方のないことだと思いますけど」

「……えっ、私?」

「そうですよ、すれ違う時も見られてるじゃないですか」

「香奈が見られてると思ってた……」

「街中じゃまだしも、こんな女性ばかりのところで私なんて気になりませんよ。あゆみさんの方がよっぽど目立ってます」

「えぇ……?」

「前から思っていましたけど、あゆみさん、自分がどう見られているか全然興味ないですよね」

 

 だって私の隣にはたいてい香奈がいるし、香奈の存在から見ると私なんていないのと同じだと思っていたけど……。香奈にそう言われてちょっと注意してみると、すれ違う人から視線が飛んでくるのに気づいた。


「やっぱり少し小さくても女性用の湯着の方が良かったかな」

「今回はそれもありますが……そういうことにしておきましょう。あっ、ここだれもいないですよ」

 

 よくわからない言葉を残したまま、香奈が最初に選んだのはジャグジー風呂だった。ゆっくり肩までつかる。

 

「あ~、疲れが溶ける……」

「気持ちいいですねぇ」

 

 足を延ばして入るお風呂はなんて気持ちいいんだろう。泡が自分の身体を押し上げてゆらゆらと揺れるのがまた心地よい。

 

「会社、結構大変ですか?」

「ゴールデンウィーク前だから少し詰め込んでたっていうのもあるんだけど……三号先のメルティーユで本格的にモデルデビューすることになって」

「えっ! そうなんですか? おめでとうございます!」

「おめでとうというか、もともとそういう契約で入ったから普通にお仕事なんだけど。打ち合わせも増えるし覚えることも多くて。体力は問題ないけど精神的に疲れるかなぁ」

 

 今までそんなに真面目に生きてこなかったのもあって、会社に入ってからは気分が張りつめていることが多くなった。特にここ一ヵ月は新しい場所に慣れるのに必死で、せめて言われたことは言われた通りに出来ないと、と気持ちが焦る。

 教えてくれる先輩も優しいから、本当はそこまで気にしなくてもいいんだろうけど……。それでも帰ったらベッドにすぐ倒れこんでしまう毎日だった。

 ふと、お湯の下で浮いていた手が握られる。

 

「ん?」

「いえ、あの、親しい人との接触は緊張を和らげる効果があるらしいですよ! それにお湯の下なら周りからもわからないと思いまして……」

「今は十分リラックスしてるけど、でも……その通りかもね」

 

 周りには誰もいないのに、香奈の言葉は尻すぼみに小さくなっていく。繋いだ手はお湯よりも暖かい気がして、香奈の細い指がよくわかる。

 

「……でもさ、私達の関係ならこっちの方がいいかも?」

 

 手を一度離して繋ぎなおす。それはいわゆる恋人繋ぎというやつで、私の指と香奈の指が交互に交わる。

 

「……実はあんまり信じてなかったんですけど」

「うん」

「手のつなぎ方の種類を雑誌でみたことがあって、接触する面積はそんなに変わらないからどれでも同じだと思っていたんですよ」

「面積換算かぁ」

 

 香奈らしい意見だった、ロマンもなにもない。

 

「でも実際にやってみたら、なんか、その、とてもいいです。恥ずかしいですけど、面積では証明できない気持ちがあります」

「そうだね。さっきとはちょっと違う、かも」

 

 告白を保留にしているのは私の方で、だからこそスキンシップはできるだけ控えようと思っていた。

 香奈のことは全く疑っていないけど、高校生は多感な時期。香奈の中にある気持ちがいつのまにか変わってしまって、新しく好きな人ができた時に、私への気持ちはなるべく小さい方がいいと私は思っているから。

 だから、私は香奈を前にして平常心で、友達と接するようにしなきゃいけない。そう思っていたのだけど。

 香奈と繋いだ手から伝わる想いは、私が想像しているよりもずっと大きくて。その大きさが胸を直接叩くように、私の鼓動も早鐘を打って。

 いつのまにか自分から踏み込んでしまったことに、私は後から気づいた。

 

「ゴメン。なんか温泉入る前に熱くなってきちゃった」

 

 ぱっと手を離す。

 

「そ、そうですね。もう少しいろいろ入りたいですし」

 

 香奈もいつの間にか顔を赤くしていて、それはきっと温泉のせいだけじゃない。

 

「女性側の露天風呂で涼もうかな」

「ちょっと休憩しましょう」

 

 入ったお風呂は1つ目だというのに、私達は外の空気を求めて涼みに向かった。





 

 私達はお風呂にサウナ、岩盤浴と温泉を堪能した。

 一度施設から出て、レストランで一緒にご飯をして、もう一度お風呂に入りに行って、ちょっとゲームセンターで遊んでデザートを食べてゆっくりする。

 施設のコンセプト通り、私達は時間の許す限り満喫し、香奈の門限に間に合うように施設を出た。


 

「そういえば会話の途中でしたけど、香奈さんが出ている雑誌はいつ頃販売されるんですか?」

 帰り道を歩きながら、香奈が思い出したように聞いてくる。


「まだ先だよ。たぶん6か月後? とか?」

「予約しないと……三冊はほしいですね」

「いや、そんなにいらないでしょ」

「えっと、かさねさんが言っていたあれです。読むようと、保存用と、布教用?」

 

 私も、隣を歩く香奈も足が軽い。恋人繋ぎじゃないけど、いつの間にか繋がった手は、私と香奈の間を自然に揺れる。

 できれば、一年後もこうしていられればいいなと、私は素直に思った。


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