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私が親友の妹JCと、いつか一緒に住むまでの話  作者: シキ


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20話 卒業と合コン_1

 三月、私は大学を卒業した。

 前々から準備はしていたけど卒業論文が本格的になってからは一月、二月とゼミ室にこもり切りだった。テーマは前の先輩から引き継げるものがあったから、下地はすでに出来上がっていて比較的楽だよ、と先生に言われたのにもかかわらず。

 だから全て終わって卒業が決まった時は、本当に燃え尽きたような気持ちになった。

 別のゼミだった恵奈も同じく卒業を決めていて、いつの間にか家の近くの小さな会社に事務として入ることになっていた。

 近いから受けたら受かったわ。とは恵奈の言葉で、給料は低いが残業もなくて休日が多い、条件が緩い会社みたい。子供が出来たらすぐに辞めるつもりらしく、それもあって働かない時間の方が重要らしい。

 そして卒業式と社会人になるまでの、何者でもない二週間。私は最後の休みを噛みしめるように、恵奈はもちろん大学の友達と遊び惚けていた。

 今までは休みとなれば寝ているのがほとんどだったけど、社会人になってしまえばそうもいかなくなる。寝ているのがもったいなく感じたのは初めてのことだった。

 

「ねぇあゆみん」

「ん?」

 

 そんな軽い呼び方をしてくるのは、ゼミで一緒になって付き合いが多くなった瀬尾紅葉(せおくれは)だ。ゼミで初めて出会った時は、金髪にへそ出し、化粧も濃いめのいわゆるギャルだったけど、就活を機に髪を黒に染め直して、今は服装も少しだけ大人しくなっている。第一印象は私とは合わなそうだなと思っていたけど、ゼミの中で一緒になる機会が多く、意外と話も合ったりして自然と遊ぶようになった。ちなみに『くれは』じゃなく『もみじ』と呼ばれると不機嫌になる。

 今日はそんな紅葉と化粧品を見に来ていた。紅葉は化粧品に詳しくて私の就職先も知っているから、使えそうな化粧品をオススメしてもらっていて、今もアイライナーを選んでいるところだ。

 

「明日って予定ある?」

「今のとこはないかな」

「えーとさ、合コンに興味ない?」

「合コン? 男と女が対面でやる?」

 

 私のその説明が面白かったのか、紅葉はけたけた笑う。

 

「そーだよー、対面で彼氏彼女を探すあれ。高校の時の同級生誘ってくれて、明日3、3でやる予定だったんだけど、一人体調崩しちゃってさー。良かったらどうかなって。あゆみん特に彼氏とかいなかったっしょ?」

「いないけど……私、こんなんだよ?」

 

 と、自分の頭に手を乗せる。対して紅葉は155cmくらいで平均的な女の子だ。

 

「背の高い女の子が好きな人だっているかもしれないじゃん! ……正直に言うといろんな人に頼んでみたんだけど、前日だとなかなか予定合う人いなくて、あゆみんが恋愛に興味ないのは知ってるから誘いづらかったんだけど、人数揃えないと流れちゃうからさー。お願い! このとーり」

 

 ぱん、と音を立てて手を合わせる。

 紅葉はあけすけに話すタイプだから、本当に私以外の友達は全滅で、迷った末にお鉢が回ってきたんだろう。紅葉には結構私の予定に付き合ってもらってるし、でも合コンかぁ……。

 

「んー……わかった。私あんまり彼氏欲しいと思ってないけど、それでもいいなら」

「大丈夫大丈夫! 合コンって言っても普通に飲みに行くだけだからさー」

 

 先に予定ないって言ってしまったのもあって、ちょっと断りづらかった。

 私の返事に、紅葉はすぐスマートフォンを取り出し連絡を取っている。

 

「相手ってどんな人?」

「ちょうど画像あるよ。えっとねぇ、こんな感じ~」

 

 スマートフォンの中には三人の男の子がピースをして写っている。どれもさわやかな感じでラケットを抱えていた。


「隣の町にある大学のバトミントンサークルなんだって。どれが好み? ちなみに私の同級生が狙ってるのはこれね」

 

 そうして右にいた男子が指さされる。

 

「私が気になってるのが真ん中の人ー」

「もう一人しか残ってないんだけど?」

「勝負はすでに始まってるのだよ」

 

 合コンってそんな勝負があるんだ、と少し関心する。

 

「じゃあこの人で。私本当に合コン初めてだから、フォローよろしくね」

「まっかせて~」

 軽ーい返事に若干の心配はあるけど、ご飯食べに行くだけならゼミでも何回かしてるし、それと同じ様なもんだと思えばいいか。

 お相手の男の子がこんな会話をしているのを聞いたらどう思うのかなぁと考えながら、紅葉と明日の予定を話し合った。



 

「あー、わかんない」

 

 その夜、私はクローゼットの中を引っ張り出して服を並べていた。

 ベッドの上に広げた服はどちらかというとマニッシュな服ばかりで、それらはほとんど香奈と出かける時用に買った服だった。

 つまりカッコよくはあるが、可愛くはない。

 別に相手に可愛く見られたいわけじゃないんだけど、こんな服で行っても下手したら女3、男3の合コンが女2、男4になりかねない。さすがにそれは空気読めてない。

 

「いやー可愛いって難しいな」

 

 私が可愛いなーと思う服もたまにあるけど、そういう服はそもそもサイズがない。実際、メンズを買う方がサイズ的にずっと楽だった。

 服を並べて悩んでいると、スマートフォンに連絡がある。紅葉かなと思って見てみたら、それは香奈からのメッセージだった。

 

『こんばんは。良ければ明日、お昼を一緒にしませんか? 気になるお店がありましてお付き合いいただけると嬉しいです』

 

 合コン自体は夜六時から。だけど紅葉ともう一人の子と先に打ち合わせが必要らしく、私達は五時集合となっている。

 ……お昼なら大丈夫か。

 

『いいよー』

『では十三時にこの辺りで待ち合わせしましょう』

『わかった、楽しみにしとくね』

 

 と反射的にOKを返してから気づく。

 

「さすがに香奈には合コン行くって言えないか」

 

 私と香奈の関係は、香奈が私の実家に来た時から変わらず、今でもはっきりとした名前を付けていない。だけど大きく分類すれば、それは間違いなく『好意』ということはわかる。

 そんな香奈に、「今日合コンだから」と言えるか?

 少し想像してみると……合コン、という言葉を聞いた香奈から謎オーラが噴き出して、具現化した何かが合コン会場のお店を破壊していた。想像の中だけど。

 

「……言わなきゃいいか、言わなきゃ」

 

 自分に言い聞かせて、服選びを再開する。

 それに、私はこの合コンで確かめたいことがあった。

 それは私が男を相手に、少しでも好意を持つことができるのかということ。いままでの人生、彼氏というものを意識したことがない。それは最初から諦めていたのもあるし、こんな自分に交際なんてイベントは発生しないと思いきっていたから。

 今でもその気持ちは変わらないし、私を気にしてくれる男なんていると思っていない。けど今回の合コンでやっぱり自分の気持ちは動かないなと分かれば、香奈とちゃんと向き合う一つの要因にもなるだろうし。香奈といる以上のドキドキが、そこにあるのかどうかを確かめたい。

 香奈から送られてきたお店の位置情報が、合コン会場から一駅の場所で、そこまで離れていないのがなんとなく引っかかったけど、私は切り替えて明日の服を選別した。



 

「今日は可愛い感じの服なんですね」

 

 次の日、十三時ちょうど。

 すでに店先にいた香奈は私を見るなり、首を傾げながらそういった。

 三月とはいえまだ少し寒いから、迷った末にハイネックのセーターとロングスカート。その上に薄めのロングコートとかなりシンプルなコーデになっている。

 

「あゆみさんがスカート着ているの、初めて見るかもしれません」

「私もスカートくらい持ってるよ」

 

 この一枚だけだけど。

 

「あゆみさんは腰の位置が高いのでスカートも似合いますね」

「探すの大変だけどね……香奈も背高い方なのに服は可愛いの多いよね」

「私はあゆみさんと10cmも違いますし、ぎりぎりサイズがあるので」

 

 香奈の背は165cmで止まっていた。もう成長は終わりか、と思ったけど次は胸が成長してきたようで、さらりとされたその報告に耳を疑った。私は育たなかったのに……。

 

「席は予約してあるので入りましょう」

 

 少しだけ悲しい気分のまま、香奈の後について店に入った。

 香奈が見つけてくるお店は大体アタリで、今回もお店は申し分なかった。少しお値段はお高めだけど、ハンバーグがメインのお店で、店の中央には色とりどりの野菜を好きなだけとれるサラダバーがある。野菜はもちろんメインのハンバーグも美味しくて、お腹いっぱいサラダを食べた。

 

「ふー、なんか野菜でお腹いっぱいなの久しぶりかも」

「ドレッシングも手作りで美味しかったですね」

 

 香奈は食べ放題なのにやっぱりほどほどに食べていて、まだ少し余裕がありそうに見える。私は食べ放題っていわれると限界まで食べちゃうからそこは正反対。

 

「もう少ししたら出ましょうか、この後どうします?」

「ちょっとお腹の中を消化させておきたいから、そこらへん歩こうか」

 

 この辺りは少し歩けば複合ショッピングモールがあるから、見る場所には困らない。

 

「そういえば近くの科学館で、夜間プラネタリウムをやっているようです。時間が遅めで二十時からなんですけどそちらもよければ」

「あ、香奈ゴメン。この後はちょっと予定あって」

「? そうなんですか?」

「十八時から大学の友達と夜ご飯行くことになってるの」

「私も夜までの予定は確かに聞いていませんでしたね……それではまだ後日にしましょうか」

「ごめんね、香奈の学校始まるまでには行こう」

「はい、必ずですよ」


 自然に夜までの話をした香奈に、内心ひやひやした気持ちで予定を伝える。十八時のご飯は嘘じゃない、実際集まるのは一七時ではあるけど。

 香奈との約束も忘れないようにしないと、と頭の予定表をめくる私に、香奈は笑顔のままなにも言わずに店を出た。

 その後私達は話しながら、特に当てもなくショッピングモールを歩く。……けど、私達はすぐにカフェに避難せざるを得なくなった。

 

「いやぁ、私の服装ってちゃんと意味あったんだね」

「こんなに違うなんてびっくりです」

 

 なにせ近寄ってくる男が多いこと。いつも香奈と出かける時はメンズよりコーデをしていたけど、今日は明らかに女性よりコーデなこともあって、男が躊躇なく話しかけてくる。もちろん目線は香奈の方を向いていて、この短時間で男性二組とどこかの事務所のスカウト一人が釣れていた。

 男避けって大事なんだなー……。

 カフェの端で座っていても、ちらちらと視線を感じる。香奈も自分の外見を無理して隠すことがなくなったから、それもあると思うけど。

 

「ちょっと面倒だし、今日は帰ろうか」

「残念ですけど、そうした方がよさそうです」

 

 今の時間であれば、香奈を家まで送って戻ってきても余裕はある。人目を気にしながら、私は香奈の隣をガードするように歩いた。


 


「あゆみん、こっちこっち」

 

 夕暮れ時、合コン会場の個室居酒屋にほど近いカフェへ入ると、紅葉が手を振っていた。

 

「待った?」

「私もさっききたとこ。こっちは今日の主催者、碧ちゃんでーす」

「今日はよろしく! 話には聞いてたけど足長ーい。羨ましいー」

 

 紹介された碧さんは紅葉と似たようなタイプだった。背の高さも紅葉と同じくらいで、派手目な遊んでそうな雰囲気は紅葉と同類であることがすぐにわかる。

 

「碧とは高校が同じでさ、赤青コンビって言われたんだー。正しくは紅碧だけど」

「突然参加してもらって今日はごめんね。人数も埋まったし、みんなで協力して無事男どもに持ち帰られようぜぃ」

「持ち帰られる側なんだ……」

 

 どうやら二人とも話すのが好きみたいで、私が話さなくても会話はぐんぐん進む。紅葉と普段話しているおかげか、碧とは初対面だけど全然そんな感じがしなかった。

 お相手のお名前は一吾、隆二、三太というらしい。あっちは綺麗に1、2、3と揃っていて少し驚く。紅葉は一吾、碧は隆二狙いだから、私の担当は三太だ。三人には先にお店へ入ってもらって、私達は後から入ってお目当ての人の前に座るように計画する。

 碧はある程度三人の人柄まで調べているようで、パーソナルな情報も三人で共有する。合コンはすでに始まっているといっていた紅葉の言葉は嘘じゃなかったんだなぁと感心した。

 

「あっ、今三人ともお店入ったって」

 

 碧がスマートフォンに連絡があったみたいで、話しているうちにいつの間にか十八時手前になっていた。

 

「じゃあそろそろ……」

「待った、あゆみん。こういう時こっちは少し遅れていくものだよ」

「そうそう、少し焦らして期待させるの」

 

 十八時になっても当たり前のように動かない二人。これが駆け引きってやつなのかなー、私的にはさっさと行かないと時間勿体なくないと思っちゃうけど。

 適当に時間を潰してから、碧のそろそろいっか、の一言でやっと私達は居酒屋へ向かう。

 お店は個室居酒屋、といっても布で目隠しした簡易的なもので、居酒屋の独特の喧騒が私達を包む。店員さんに名前を伝えると、片方が埋まっている席に案内された。

 最初に段取りを決めた通り、各々狙いの人の前に座る。

 横並びで座ると、やっぱり身長差が目立つ。二人とは20cmくらい違うから、やっぱり私だけ目立っている気がして自然と猫背になる。対面に座る三人からも、最初に視線が刺さった気がした。

 いや、いけない。ソウエイは猫背じゃない、ソウエイは猫背じゃない。それに私は今日、確かめなきゃいけないこともあるんだ。いつもの私でなくちゃ。

 私が猫背になった時に出てくる、心の中のソウエイを奮い立たせながら、碧の進行で自己紹介をスタートさせた。

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