弐
「つくし」
立ち止まり、振り向くつくし。
「舞いの練習がしたいから、この卓と椅子はかたしておいておくれね」
つくしが片手を払う。
フリルのついた着物の袖が揺れる。
立ち上がる竹千代丸。
するとテーブルと椅子は、奈落を使って地面に吸い込まれるように姿を消してゆく。
「ほほほ。いつ見ても楽しい術じゃの」
「感無量でございます」
「まだ怒っているのか?我はお前のために舞うのじゃ」
「いかな意味です?」
「我が幼き頃、我の舞を見て、お前は褒めてくれた。だから我は舞っている」
「は・・・」
「その頃から我はお前を好いておる。お前に気に入られるために教養をつけたのだ。今度見せる舞は、お前のためにと決めてある。我が自分で考えている舞じゃ。見てくれると嬉しい」
「嬉しいのはつくしですっ」
つくしは袖を目元へとやる。
「これ、まだ泣くのは早い。舞を見てからにしろ。しかしまだ練習中だ。まだ見るな」
「御意」
「そろそろ喋り方を変えてはもらえぬか?」
「まだ家臣癖が抜けませぬ」
「職業病か」
「いずれ竹千代丸様に喜んでいただけるよう、つとめますれば」
「うん。それでいい。あまり急いてもいけないね。ゆっくりでいい」
「わたくしめ・・・いえ、わたくしは、竹千代丸様のそういう所が好きなのです」
「そういう所って?」
「ああ、お気づきでなかったのですね」
「どういう所だ?」
「一生かけてゆっくりと、ご説明したいですわ」
「ほーーうっ。楽しみだ」
「では、見回りに行ってまいります」
退場するつくし。
それを見送る竹千代丸。
「なんぞ、斜めな機嫌が戻ったようじゃが、なして戻ったのか意味不明じゃ・・・女とはかように謎多き生き物。ふむ。手本に書いてあった通りじゃ」
竹千代丸は舞台の正面を向く。
袖に入れておいた緑色の扇を広げる。
「さて、舞の練習じゃ」
ポン、とつづみの音。
ポロロン、と琴の音。
べベン、と三味線。
その三種が、いっぺんに鳴り、竹千代丸は片足で床を一拍叩く。
曲が始まり、竹千代丸は華麗に舞う。