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4.出張

「…………ポラリス、ミリス

ここに集まってもらったのは他でもない

話があるんだ」

「ほ、ほう……」

「なぁに?」


今は昼間。

そして俺の部屋にて、ポラリスとミリスを集め、先ほど聞いた話というものを伝える。


「俺、明日から出張だ

だから、明日からの2日間、この寮にはいないことになる

それを言いたかった、というわけだ」

「なるほど……」

「えぇ…………おにぃちゃん出かけるの………」


そう、つい先程言い渡されたのだが、俺は隣町へ2日間、出張に行く事になった。

各自、思うことはあるだろうが、ポラリスはミリスがついているので大丈夫だろう。

何にせよ、ここは守護団員たちが使う寮だ。

襲撃などに合う可能性はほぼない。

いたって安全であると…………………言えるだろう。


「ミリス、ちょっと良いか?」

「はい、何でしょう」


その前に、


「ポラリス、少しの間だから、向こうの部屋に行って来てくれないか?」

「分かったよ、おにぃちゃん」


ポラリスがこの部屋から出ていったということで。


「では、話をする

心配性の俺から言わせてもらうと、お前がこの期間にどうなるかが心配だ」

「ほ、ほう……」

「言い方は悪くなるが、ただでさえお前は女なんだ

そして、お前は魔女なんだ

髪色から推測されてもおかしくない

心ない扱いを受けるかもしれない

そうならないよう、お前はできるだけ部屋にこもっていてほしい

それくらいしないと、どうなるか分からないんだ……」

「………………………、…」


ミリスは何かを言いたそうにしている。


「ミリス、どうかしたか?」

「………………ランス君……………その………」


ミリスは何か恥ずかしそうだ。

顔を少し赤らめている。


「…………私もその出張に……連れて行ってくれませんか?」

「…………そうしてやりたいが、それはできない…」

「………………理由を、聞いても?」


それは、出張の内容にある。


「………今回の出張は、行くことを拒否することも、誰かを連れて行ってやることもできないものなんだ」

「…………どのような、ものなんですか?」


言っていいのだろうか。

まぁバレてもそこまで問題にはならないだろうし……言って良いか。


「…………俺が所属する守護団は当然、街を守るための組織だ

この街はいくら治安が良いとは言え、稀に起こる重犯罪に備えないといけない

だから、守護団に所属するためには、一定の戦力を示さなくてはいけない、ということになる

そこで毎年、試験が行われるんだ

それが今回行く出張で、もし一定の戦力が示せなかったら、その人はクビだ

結構、重要なんだ………」

「………………………つまり、余計な考えを産まないよう、誰かを連れて行く事ができず、重要な試験のようなものだから、行く事を拒否することができないと?」


理解が早い。

感心するよ。


「良く分かったな、理解が早くて助かるよ

…………だから、2日間は留守にさせてもらう

迷惑かけるけど、頑張ってくれ」

「迷惑かけるなんて、そんなこと………………

……まぁ、頑張ってください、ランス君!」


彼女は満面の笑みで俺にエールを送ってくれた。

明日、頑張らないと。







――――――


気づけばもう夜だ。

俺はもうベッドに寝転んでいる。

明日は早いので、早く寝ようということになったからだ。

しかし、


「……おにぃちゃん、明日は頑張ってね」


同じベッドに、俺に抱きついてくるポラリスがいる。


というのも、今日は俺と寝たいのだそう。

出張前夜ということも重なったのだろうが。


「ポラリス…………その……近い……ぞ?」

「でも僕、おにぃちゃんのこと大好きだよ………」


可愛い…………。


どうやら、今日のポラリスは甘えたいらしい。

仕方のないやつだぜ………。


「…………そういえばおにぃちゃん、おねぇちゃんはどうなるの?

何か話してたみたいだけど」


昼間のこと、か……。

そういえば言ってなかったな。


「………言ってなかったな…………言うよ………

………俺はミリスに、『部屋から出るな』と言ったんだ

ただそれだけだ」

「……どうして、部屋から出ちゃダメなの?」


そうだよな、そこからだよな………。


「……………ポラリス、お兄ちゃんが今から言うことを、絶対に誰にも言わないと誓えるか?

そして、お兄ちゃんが言う約束も守れるか?」

「……うん…」


ポラリスにも説明した方が良いだろう。

彼女が魔女であることを、彼女がみんなから嫌われているということを。

その方が動きやすいだろうし。

色々思ってくれることもありそうだ。


「……………お姉ちゃんは、ミリスは、…………魔女、なんだ…………」

「…………魔女って、なぁに?」


まぁ、知らないよな。

…しかし逆に、その方が悪い知識を吸収せずに、俺が教えたことだけを覚えてくれそうで良いか。


「…………魔女ってのは、この世界を災厄から守ってくれる役割を持つ女の人のことさ

その女の人は、世界に一人だけしかいない」

「…え、じゃあいい人なのじゃないの?」


その思考を持ってくれて助かる。


「あぁ、いい人だ

だけど、希少な存在だからこそ、良く分からない存在だからこそ、事実のない悪い噂が広まって、それがみんなの頭の中に入っているんだ

そのせいで、良いことをしているのに悪者みたいに見られる、可哀想な存在なんだ

だから、ミリスが被害に遭わないために、正体をバラしちゃいけないんだ」


悪い噂が広まっていったのは事実だが、女しか産めなくて嫌われている、ということは、この幼いショタっ子には説明不要だろう。

仮に説明したところで、情報が多すぎで覚えられないだろうし。


「……………だから、嫌われてるから、おねぇちゃんが魔女って言っちゃダメなの?」

「……そうだ…」

「……分かったよ……おにぃちゃん…」


よし、分かってくれたな。


「……………じゃあ、おにぃちゃん、1つお願いがあるの……」

「………なんだ?

言ってくれ」


…………お願い、とは。

いったい何を求めているのだろう。


「今日は、おにぃちゃんに抱きついて寝させて……」

「…ったく………もうしてるだろ…

いいぜ、ポラリス」

「やったぁ」


そんなことか。

ポラリスも寂しいのか、俺に抱きついてくる力はますます大きくなってくる。

本当、仕方のない弟だな………。








――――――


「おにぃちゃん、頑張ってね!」

「ランス君………頑張ってきてくださいね……」


早朝、俺の部屋にてお見送りが行われている。

朝早いから起きなくてもいいのに………。

可愛い奴らめ……。


「あぁ、頑張ってくるよ

ミリス、お前もそんなに無茶するなよ

下手に動いたらどうなるか分からねぇし

お前は顔がバレてるんだし、すぐ俺の連れてきた女って分かられるぞ?

ここのやつは俺がいないことを知ってるんだしな」

「…………分かりました……」


この出張はいわゆる、守護団に残留するための試験のようなものだ。

その試験は毎回のように時間がかかるから、この寮から俺と一緒に出張するのは数名だけだ。

他の団員は別日に行われる。

つまり、この寮にはまだたくさんの男がいるというわけだ。

注意を払った方が良い。


「…………じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい、おにぃちゃん!」

「行ってらっしゃいませ、ランス君」


2人に見送られ、俺は隣町へと向かうのだった。

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