3.5.あの夜
3.5話です。
短いので読みやすいと思います。
「じゃあ、明かり、消しますね」
「分かったよ、おねぇちゃん」
ポラリス君の部屋にて、明かりを消し、二段ベッドの下の段に寝そべった。
外はもう夜だ。
今日は色々あった。
ランス君と…………。
私は今日、ランス君に助けられた。
…そう、こんなにも面倒な私を救ってくれたのだ。
感謝しかない。
彼はまだ、私が魔女であることを知らない。
だからこそ助けてくれたのだろうが。
でも打ち明けると、きっと私の扱われ方は変わるだろう。
………しかし、打ち明けなければいけない。
こんなにもお世話になっている人に隠し事など、私にはできない。
このポラリス君にも言わないと……………。
「………………はぁ…」
私は大きくため息を吐く。
悩んでいるのだ。
居づらいのだ、この環境が。
ふかふかのベッド、優しいランス君、可愛い弟さん、どれもこれも完璧と言うに相応しい。
ただ、それでも居づらい。
それは私が魔女だからだ。
下手に扱われ、態度を変えられ、追い出される。
そんな未来が見えている。
この前もそうだった。
思い出したくもない。
逃げてきた、悪い人から。
逃げてきた、悪い街から。
………まぁ、その原因は分かっている。
なぜ、私は隠し事ができないのだろう。
おそらく、私たち魔女の先祖は、正体を隠しながらも必死に子孫を残したのだろう。
魔女のことを理解してくれる、理解してくれている男なんていないし。
でも、私は普通の女の子だ。
普通の女性だ。
年齢よりも若々しいといっても、年もあまり取っていない。
だから普通の恋愛もしたい、普通の女性と同じことをしたい。
女は道具だなんて言われるけど、じゃあ魔女は何?
それ以下になっちゃうじゃん。
女は子孫を残すためのモノだとしても、それすらできない。
私には自由の一文字もないの?
…………私に春は来ないのかもしれない。
だいたい分かる。
彼だってどうせ見放す。
ポラリス君も…………。
でも、私は魔女だと打ち明ける。
いつか魔女を理解する人に出会いたいから。
希望を持たなきゃ。
「…………………………」
あれ、どうして私、泣いてるんだろう。
あれ…………あれ………あれ、涙が止まらない。
どうして………………どうして?
「おねぇちゃん、何で泣いてるのぉ?」
マズい、起こしてしまっただろうか。
私が泣いていたまでに………。
「ごめんね、ポラリス君
別に何も無いから、ゆっくり寝てて」
「やだよ、おねぇちゃんが泣いてたら寝られない
僕まで泣いちゃうよ?」
なんて可愛らしいのだろう。
ずっとこの子に甘えていたいと思ってしまう……。
「ポラリス君、ひとつ、お願いしていい?」
「うん、いいよぉ」
この際だから、甘えてみてもいいよね?
「今日、おねぇちゃんと一緒に寝よ?」
「うん、ありがとう、おねぇちゃん!」
飛びついてくるように、ポラリス君は私に抱きついてきた。
私も、ポラリス君を思いっきり抱きしめる。
「……………おねぇちゃん、苦しい……」
それでもなお、抱きしめるのをやめない。
力も緩めない。
……………これは、八つ当たりだろうか。
全ての苦しみをここでぶつけているのだろうか。
こんなにも可愛いポラリス君に、なぜそんなことができるのだろう、私は。
私は泣きながら、全てを忘れるように寝た。
――――――
「………………う……………………ん………………っ……」
目覚めると、真横でポラリス君が寝ている。
きっと、夜中に私の抱きしめから解放されるために移動したのだろう。
辺りはまだ暗い。
窓から見える景色に明るさあまりない。
起きる時間が早すぎた、か。
もう一度寝よう……………。
「……………で、ランスが女を連れてきたって話、知ってる?」
……………………ん?
何やら廊下から話し声が聞こえる。
ランス君のことだろうか。
もしくはランス君が会話に混じっているのだろうか。
「知ってる知ってる
何か、弟の部屋に女を泊めたらしいぜ」
「へぇ…………弟さんも幸せだな、その時期に女を抱けるなんて…」
…………私のことか。
聞いている感じ、会話しているのはおそらく、この寮の者二人組で、ランス君は混ざっていなさそうだ。
「………それで、ランスが女を連れてきたら、何か関わりにくくなるよな?」
「分かるわぁ、秘密で女を連れてきて抱くくらいなら良いけど、隠さず堂々と連れてくるなよ………って思う
ちょっとね、迷惑だわ」
…………………………………………。
「…てか、ここってランスの部屋の近くじゃね?」
「ええっとね……………ガチだ、逃げようぜ……」
…………………。
私は出て行った方が良いのか。
ランス君も、私がいなくなったところで変わらないと思うし。
ポラリス君にも言っておかなくちゃ。
起きたらでいいけど。
……………私に味方はいないのかも……。
……………ランス君も、ね…………。
私は様々な想いを噛み締めながら、もう一度眠ることにした。
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