2.保護
本編の第二話。
今回は3000字書いています。
「………へぇ、ミリスっていう名前なのか…
良い名前なことで」
「いいえ、ランス君も素敵ですよ……
私なんか全然……」
今は守護団員専用の寮の施設の中。
そこで会話を交わす俺とさっきのロリっ子、ミリスは、なぜかと変な目線を向けられているように感じている。
「………おい、あのランスが女を連れてきたぞ…」
「先輩にもようやく春が来たんですね……」
「真面目っぽいけど、実はそこまで真面目じゃなく不真面目だったり、女は作らないとか言っていてたりと、何かとネタにされることが多かったあのランスが………
クソ、先越された……」
おい、お前ら、聞こえてるぞ?
まぁ黙っておくが。
ミリスもいるし、場を乱そうとも思わないし…。
………てか、俺ってネタにされてたのかよ…………。
「…………よし、ミリス
周りはうるさいが関係ない
部屋に案内する」
「は、はい…」
もう俺の部屋の近くだ。
この寮の規則として、団員が所有できる部屋は2つずつある。
1つは自分が寝泊まりするための部屋。
もう1つは知人を泊まらせたり物置にしたりする部屋だ。
今回、ミリスを泊まらせるのは、そのもう1つの部屋になる。
「…………よし、ここだ、着いたぞ」
俺は扉を開けると、
「おにぃちゃん!おかえりなさい!」
可愛い弟が俺に抱きついてきた。
実は、そのもう1つの部屋には弟が寝泊まりしている。
自分の部屋に泊めてもいいのだが、それだと部屋を荒らされそうで怖い。
重要な物だって入っているからな。
そして今日は、この弟を俺の部屋に泊め、ミリスをこの部屋に泊めるということになる。
弟が俺の部屋を荒らさないかが心配だが、常に監視しているから大丈夫だろう。
「………なぁポラリス、ちょっと言いたいことがある」
ポラリスというのは俺の弟の名前だ。
その可愛いポラリスは、俺が言葉を発したあとにすぐうなずく。
「今日、お兄ちゃんの部屋で2人で寝ような
このお姉ちゃんがこの部屋で泊まるから」
「…………」
なぜだ。
なぜ不満気そうでもないのに黙る。
普段なら、
「分かったよ、おにぃちゃん!」
とか言うだろ。
どうした弟よ。
「このおねぇちゃん、だぁれ?」
あー、そのことを言い忘れていた。
確かに、そりぁ分かるわけもないか。
「説明してなかったな……
このお姉ちゃんはミリスという名前だ
お兄ちゃんが街で助けてあげたんだ
でも、服が汚れてたりと辛そうだから、今日はこの部屋で泊めてあげないとなって思って」
「おにぃちゃん、優しいね!」
まぁ、仕事ですから。
助けるのは当たり前……。
………そういえばあの後、ミリスには少量の食料や水を与えたので、多少は歩けるようになっている。
服は俺の物を着てもらうつもりだが、いずれは女用を買ってくるつもりだ。
………まぁ、それがあるかも分からないが。
「えっと、ランス君、この子は弟さん?」
「そうだ
俺の可愛い弟のポラリスだ
仲良くしてやってくれ」
「よろしくね、おねぇちゃん!」
弟がこんな性格でよかった。
もう立派な誰もが喜ぶショタだよ。
「お、おねぇちゃん!?
よ、よろしくね……」
「うん!
よろしく!おねぇちゃん!」
「か、可愛いですぅ……」
ミリスから本音が漏れている。
これは仲良くなりそうだ。
良好で何よりだ。
「よし、じゃあポラリス
俺たちはこっちの部屋に行くぞ
ミリスはこの部屋を自由に使ってくれ
服は用意するから」
「分かりました」
よし、部屋に戻って弟と遊ぶか。
兄弟といっても、同じ寮の中といっても、忙しくてなかなか会えないからな。
いい機会だ。
「…………おにぃちゃん、お願いがあるの…」
「なん、だ?」
急になんだ?
何か不満でもあるのだろうか。
まぁこの機会だ。
何でも、とまではいかないが、大体のことは叶えてやろう。
「ぼく、おねぇちゃんと一緒の部屋で寝たい」
……………………何を言う。
「なぜ、だ?」
「ぼく、おねぇちゃんのことを何も知らないもん
だから仲良くなりたいし、一緒に遊びたいし
おねぇちゃんのことをいっぱい知りたいし」
これを聞いたミリスは………………頬が赤くなっているな。
嬉しいのだろうか。
照れているのだろうか。
どっちにせよ、頰を赤らめるミリスもおねだりする弟も、両方の可愛らしさがあって実に良い。
ただ、ミリスはゆっくりしたいだろうし、弟といたらうるさくなるだろうから、やめておいた方が良いと思うがな。
「………ポラリス、その気持ちは良いと思うが、お前だったらお姉ちゃんの邪魔をしかねないだろ?
お姉ちゃんは疲れてるんだ
今日のところはやめようか」
「………………分かったよ、おにぃちゃん」
これでいいだろう。
その方がミリスにとっても楽だろうし………。
「……………ランス君、弟さん、可愛いですね……」
何だ、何が始まる?
「こんなに可愛らしい弟さんと過ごしてみたいものです………」
「………………もしかしてだけどミリス、ポラリスと一緒に寝たい?」
「…………はい…」
良いのか?
それで良いのか?
まぁ本人が言うなら別に否定はしないが…。
「わーい、おねぇちゃん、よろしく!」
「ポラリス君、よろしくね」
微笑ましい。
なんて微笑ましいのだろうか。
ロリっ子とショタっ子が会話するとこんなにも可愛いものか。
「…………まぁひとまず、それで良いなら反対しない
じゃあ俺は出かけるから、ポラリス、ミリスを頼んだ
ミリスの服も頼む
あと食べ物も食わせてやってくれ」
「分かったよ!おにぃちゃん
おねぇちゃん、よろしくね!」
「か、可愛いですぅ……………」
俺は、微笑ましい2人を何度も見ながら、この場から離れるのだった。
――――――
夜、施設内の食堂にて。
「ランスさん、昼間の女は誰なのですか!?」
「パイセン、やっと春が来ましたね!」
同僚たちと昼間の件について話を交わす。
「ランス、お前、あの女とはどういう関係だ!?」
「…………はぁ…」
呆れる。
そんなに気になることでもないだろ。
説明もないから疑うのは分らないことも無いが……。
「別に何もない………ただ助けただけだよ…」
「またまたぁぁ
で、いつヤるんですか?」
……………は?
「女なんて脅せば一撃ですよ
そして俺たちは守護団員なのですから、女側も恐れて何も言わなくなりますって」
……………は?
「ストレス発散にも、あの女はチョロそうですしいけますよ」
……………狂っている。
こいつらは狂っている。
「まぁ女なんて子孫を残すための道具ですしね……
遊び相手にも十分過ぎますし……」
「……………」
「……………お前ら、いい加減にしろよ」
「「……………?」」
何を不思議がっている。
何を言ってやがる。
流石に耳障りだ。
「先輩、俺たちはなんか悪いことしましたかね」
「………あぁ、そうさ」
「ランス、一回落ち着……」
「黙れ!」
その場が静まり返った。
その中に響く俺の声は、寮内にまで届いていそうだ。
「何が女は子孫を残すための道具だ!
何が女は遊び相手だ!
軽視するなよ!
それで苦しんでる女側の気になれよ!
俺はお前らと対立する
同志だなんて思うな!」
俺は食堂から去った。
俺が怒鳴ったその言葉のせいで、太く繋がれた糸が切れた。
しかし、それで良い。
あんな奴らとは関わる必要がない。
女を軽視した上に、自分たち男が偉いという態度を取る。
納得できないな。
……………はぁ、寝よ。
………………………母さん、俺、頑張るよ。
周りにはあんな奴らばっかりだけど、戦うことをやめないよ。
自分のためにも、母さんの願いのためにも。
俺、頑張るよ。
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