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 その頃ルルーシアは眠れないままベッドで悶々としていた。

 考えないようにしようとしても、頭の中をぐるぐると様々な思いが駆け巡る。

 アマデウスとサマンサが肩を寄せ合っていたあの光景が、脳裏に焼き付いて消えてくれないのだ。

 

 妄想がどんどんと膨らみ、自分がお飾りの正妃になる未来が目に浮かぶ。

 自分が執務室で机に嚙り付いている間に、2人は見つめ合って愛を語り合っている未来図。

 ルルーシアは枕に顔を埋めて声を殺して泣き続けた。

 友達を作ることも諦め、過酷な教育に耐えたのは偏にアマデウスが好きだからだった。

 そこには愛情があるだけで、貴族令嬢としての義務感も責任感もない。


「アマデウスさま……なぜ? 私の何がいけなかったのでしょうか」


 ルルーシアはずっと頑張ってきた。

 外国語も周辺諸国のものは全て習得したし、全貴族の顔も家族構成も領地も特産品も全て覚えた。

 王家については5代前まで全て言えるし、それぞれの王の功績も諳んじている。


 自国のマナーはもちろん、友好国の独特なマナーも全てマスターした。

 ダンスも声楽も楽器も及第点を貰っている。


「これ以上どうすれば良かったというの? すべてを放り出して、ただあなたにくっついていれば良かったの?」


 そんなことを考えては泣くという悲しいループを繰り返しているうちに、東の空が明るくなってきた。

 カーテンの隙間から差し込む青白い光に目を細めながら、ルルーシアはポツンと呟いく。


「私が泣こうが喚こうが、朝日は昇るし夕日は沈むんだわ……今ここで私が死んだとしても、何も変わるわけじゃない。なんてちっぽけな存在なのかしら」


 起こしに来たメイドがベッドに潜り込んでいるルルーシアの顔を見て驚き、大慌てで駆け去って行く。

 ルルーシアの目はまるで蜂に刺されたように腫れあがり、頬は真っ赤に染まっていた。

 知らせを聞いて駆け込んできたメリディアン侯爵は、大きな声で医者を呼ぶように指示を飛ばしている。

 朦朧としたまま他人事のように慌てる父親と使用人を見ていたルルーシアは、いつの間にか深い眠りに落ちていった。


 大きな鞄を従者に持たせた医者がメリディアン侯爵家に駆け込んだころ、学園の正門前でルルーシアの馬車を待っていたアマデウス。

 校舎から使者が走り寄ってアランに何かを告げ、アランは小さく頷いた。


「殿下、本日ルルーシア様はお休みとのことです」


「え? ルルが休み? どうしたんだろう……昨日は元気そうだったのに」


「しかしランチはほとんど召し上がっていませんでしたよ」


「あ……ああ、そうだったね。どこか具合が悪かったのだろうか。もう少し気を遣うべきだったな」


 アランが小さな溜息をもらす。


「お帰りの前にお見舞いに向かわれますか?」


 アマデウスが弾かれたように顔をあげる。


「うん、そうしよう。途中で花屋に寄るから手配して欲しい」


「畏まりました」


 もうここには用は無いとばかりに踵を返すアマデウス。

 校舎に入る直前に駆け寄ってきたのはサマンサだった。


「おはようサマンサ。昨日の星空はどうだった?」


「素晴らしかったわ。雲一つない夜空なんて久しぶりだったもの。小熊と大熊が仲良く並んで見えたし、東の端のてんびん座まできれいに見えたわ」


「そりゃ見事だっただろうね。ぜひ一緒に見たかったよ」


「ええ、私も同じことを考えていたわ」


 後ろに控えるアランは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、楽しそうに話す二人を遠巻きにしている生徒たちに、無言の圧力を掛けていた。


「殿下、そろそろ」


「ああ、そうだね。ではサマンサ、昼休みに裏庭に行くから」


「うん、わかったわ」


 その会話を聞いていたアリアがアランに言い放つ。


「絶対に許さないわ。全部ルルに伝えるから」


「おい! 誤解するな!」


 アランはアリアを呼び止めようとしたが、スタスタと歩いていくアマデウスから離れるわけにもいかず、舌打ちをして主の後を追った。


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