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 アマデウスはルルーシアたちから視線を外せないまま唇を嚙んでいる。


「そうですね、かなり距離が近いように見えますね。でもあれは殿下が学園でルルに見せた姿と同じですよ」


「え……あれほど近くには……それにわざと見せたわけじゃ……」


「ああ、やはり無自覚ですか。夢中になると気付かないうちに近くなりますもんね。わざとだろうと何だろうと結果は同じですが」


「しかし僕はふたりきりになったことはない」


「ええ、ルルーシア様もふたりきりではないでしょう? ほら、あそこにアランが立ってます。ああ反対側には護衛のエディもいますね。殿下のケースよりひとり多いですよ?」


 言い返せないアマデウスが鼻から勢いよく息を吐きだした。


「……何を話しているんだろうか」


「ルルーシア様は最近演劇を趣味になさっているそうです。オペラも良くご覧になるとか」


「オペラだと? 昼公演か? いったい誰と行くんだよ……僕は聞いてないぞ」


「昼は業務がありますから夜公演ですよ。レイダー様と行ったりキリウス様と行ったりするみたいですね」


「叔父上はまだしも、そのレイダーとかいう男とふたりでなどと!」


「ふたりじゃないですよ。必ずアランかマリオがついていますから。それにエディ卿は必ずついてますし」


 アマデウスが掌をギュッと握りしめた。


「これは私への意趣返しかな……」


「違いますよ。ただの演劇鑑賞ですわ。それに趣味を持つことを勧めたのは殿下でしょう?」


「そ……それは……」


「ねえアマデウス殿下。今どんな気持ちですか?」


 幼馴染の顔に戻したアリアが問いかけた。


「……」


 アマデウスは問いかけに答えず、ギュッと掌を握った。


「絶望的な気分になって胸が苦しくない? 自分は何のために頑張ってきたのかって思わない?」


「アリアの言いたいことは分かるよ……でも夫に内緒で夜に出かけるなんて!」


 アリアが溜息を吐いた。


「自分はサマンサと会うのを報告していたみたいに言うのね。私はルルから聞いているけれど、仲の良い趣味の友達だそうよ? そこに愛は無いの。あるのは友情だけ。ねえ、友達として忠告するよ。もう一度あなた達が婚姻式で教会長に言われた言葉を思い出してみて。夫婦とはどういうものかを今こそ思い出すべきよ」


「夫婦とは……」


 その日からアマデウスの中で葛藤が始まった。


(なぜルルは打ち明けてくれないんだ? 「お前も打ち明けなかっただろう?」)


(異性と夜に出掛けるなんて! 「お前もサマンサと夜に会っていたじゃないか」)


(あの距離感で友達だなんて 「お前はもっと近かったぞ」)


 今すぐにでも駆け出してあの二人を引き離し、相手の男を殴り飛ばしたい。

 しかし全ては自分が過去にやってきたことだという思いが、その激情に待ったをかける。

 苛立ちと焦燥を繰り返すアマデウスを見ながら『そろそろかな』とアリアは思った。


 王太子の心が千々に乱れようとも、スケジュールは遠慮なく進んでいく。

 そして明日はロマニア国との会議という夜、アマデウスがルルーシアの部屋を訪ねた。


「まあ殿下。お疲れ様です。何かお飲み物をご用意いたしましょう」


「いや、今日は明日の晩さん会の衣裳を聞きに来ただけだから」


「明日の衣裳ですか? すでに殿下付きの侍女には知らせてございますが、私はレモンイエローにブルーサファイアのネックレスで、殿下は濃紺のタキシードにルビーのタイブローチですわ」


「あ……ああ、そうだったかな。聞き漏らしたのかもしれない」


「殿下? お顔の色が……」


「ねえルル。叔父上とのことをどう思っているの?」


「キリウス殿下ですか? 仰っている意味が分かりかねますが……素敵な方だと存じます」


「レイダーっていうのは誰?」


 ルルーシアが小首を傾げる。


「殿下はレイダー卿をご存じですの? 彼は劇作家です。お仕事柄とても演劇に詳しくて、丁寧に色々教えて下さるのです」


 アマデウスはギュッと唇を嚙みしめた。


「そうか。本人がどう言おうと、まわりからどう見えたかというのはこういうことだね」


「殿下? 本当にお顔の色が悪うございましてよ?」


「ああ……少し疲れているのかもしれない。今日はもう休むとしよう」


「ええ、そうなさいませ。こちらから行かれますか?」


「そうだね、そうさせてもらうよ」


 王太子の部屋と王太子妃の部屋は主寝室を挟んで行き来ができる。

 キャロラインが寝室へのドアに駆け寄りガチャリと内鍵を開けた。

 結婚してもうすぐ半年だというのに、一度も使ったことが無い大きなベッドの横を通り、自室へと戻るアマデウス。


「ねえアマデウス。戻れるならいつに戻りたい?」


 自室のドアを閉めたアマデウスは、自分に詮無い質問をするのだった。


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