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「では行って参ります」


「ああ、ご先祖さま達に、見守っていただけるよう心から祈ってきなさい」


 王家の紋章が入った豪華な馬車に乗り込んだ2人は、国王夫妻と見送りの貴族たちに笑顔を見せた。


「ルルちゃん、途中で困ったことがあったらすぐにアマディに言いなさいね」


「はい王妃殿下、その時に頼らせていただきます」


 王妃の言葉に笑顔を見せるルルーシア。


「必ず妃を守れ」


「はい、父上。命に代えましても」


 頷く国王に頷き返す王太子。

 この国で代々続いてきた儀式が、滞りなく遂行されようとしていた。


「叔父上、行って参ります」


「ああ、くれぐれも優先順位を間違えるなよ」


 心配でしょうがないという表情を浮かべながら、甥の顔を見詰めていた王弟がルルーシアに向き直った。


「もし本当に困ったことや我慢できないことが起きたらこれを鳴らしなさい」


 他の人間に気付かれないように渡したのは、掌に載るほど小さなハープだった。

 弦は三本しかないが、小さな蹄鉄のような形のそれはおもちゃのようでもしっかりとした作りで、材質はマホガニーと思われる。


「王弟殿下……本当にお気遣いいただき感謝しかありませんわ」


「必ず守るから、安心してね」


 優しい笑顔でそう言われたルルーシアは俯きながら頬を染めた。


「行こうか、ルル」


「はい、殿下」


 手を取ってもらい馬車に乗り込んだルルーシアの隣に座るアマデウス。

 それを見送った側近たち四人も、すぐに後続の馬車に乗り込んだ。


 見送りを終えたメリディアン侯爵が家敷に戻ると、次期当主予定の長子ノーベンと亡き妻の父親であるロマニア国のモネ公爵が酔っぱらって出迎えた。


「ルルは無事に旅立ったか?」


「ええ、義父上。それにしても飲み過ぎではありませんか?」


「バカ言うな、これしきの酒などで酔うものか。しかしこれでやっとワシの肩の荷も降りると思ったが、そうでもなさそうだな? パトリック」


「知ってたくせに何ですか? 今更」


「お前は何も言ってこなかったじゃないか」


「言えるわけ無いでしょう? まあどうしても無理だと判断したら義父上のところに亡命しようとは考えていましたが」


「来なかったということはルルの意志か」


「あの子はこの国の貴族として最善を選びました」


「そうか……責任感の強さはワシに似たのだな……」


 パトリック・メリディアンは片眉をあげて抗議の意志を示すだけに留めた。


「まあこれで、ロマニア国とローレンティア国の長年の争い事も消えるはずだ。水面下の争いとはいえ長かったな……後はルルの幸せだが」


「ルルの幸せって何なのでしょうね。あの子は母親を亡くし寂しい思いもたくさんしました。王家との婚約を結んでからは、毎日厳しい教育に耐えてきたんです。その頃のアマデウス殿下は信頼に足る男で、ルルをとても大切にしてくれました」


 モネ公爵が眉間に皺を寄せた。


「学園で春を知ったか……稚拙な春だが奴にとっては楽しい日々だったのであろう。友人だとほざいているようだが、実際のところはどうなんだ?」


「意識は友人、行動は恋人、助けるためとはいえ側妃に召し上げるという常軌を逸した奇々怪々な行動ですよ。まともな人間には理解不能だ」


「ルルはどう思っているんだ? ワシに入った情報では淡々と受け入れているらしいが」


「いえ、そうせざるを得なかったのでしょう。あの子の心は千々に乱れ、見ているこちらも身を切られる思いでした」


「でも嫁ぐと決めたか……」


「ええ」


「やはりワシに似たのだな。貴族とは何たるかをきちんと弁えている」


 メリディアン侯爵が思い切り嫌な顔をした。

 その顔を笑いながら見たモネ公爵が、バシバシとメリディアンの肩を叩く。


「いざとなれば何とでもできるさ。まずはルルの気持ちだ」


「ええ、あの子が納得してあのアホから離れるなら、何とでもしてやりましょう。今はまだその時じゃない。あの子は優しすぎる」


 2人はソファーで寝コケている長子ノーベンに視線を移した。


「嫁は決まったか?」


「いえ、まだ決めていません。余程しっかりした女性を選ばないといけませんからね」


「こいつはこいつで頑張っているぞ? お前ってホントにノンちゃんの評価が低いな」


「頼りなくても次期侯爵なんですから、そのノンちゃん呼びは控えてください。もうこいつも22歳ですからね?」


 モネ公爵がペロッと舌を出した。


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