表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/31

かわいい女の子

 そろそろロッジが近づいてきた頃、これからバーベキューを始めるのであろう団体が目に入った。十人ほどのその人たちは、にぎやかで楽しそうに歩いている。

 何気なくそちらに目をやると、そのうちの一人が突然こちらに向かって声をかけてきた。

「小鳥遊くん!?」

 オシャレなアウトドアウェアを着たかわいらしい女性が、小鳥遊を見て手を振っている。彼女のそばにいた男性も、小鳥遊を見て驚いた顔をした。

「明日真だ! うわっ、何してんの!?」

 二人はこちらに向かって走ってくる。

 どうやら知り合いらしい。未央は瞬時に彼の手を離し、一歩引く。

(りょう)! 佐山も、なんでここに?」

 小鳥遊は驚いて声を上げる。

未央は、存在感を消すことに専念した。

 遼と呼ばれた男性は、うれしそうに小鳥遊の肩をバンバンと叩く。

「久しぶりだな! 花見以来か? 俺らは会社のイベントで来ているんだ」

 三人は同じ大学の卒業生で、たびたび仲間うちで集まる関係だった。

「花火大会のバーベキューもあったのに、小鳥遊くん忙しくて来られないっていうから残念だったもんね~」

 ふふふ、と笑みをこぼす佐山という女性は、ごく自然に小鳥遊の腕に触れる。それを見た未央は思った。「この人は危険人物だ」と……。

 小鳥遊はさりげなくその手を躱し、愛想笑いを浮かべる。

「製薬会社ってこんなイベントあるんだ」

「え? 出版社ってやらないの? でもうちの会社だけじゃないかな、多分。それより明日真、彼女と来てんの!?」

「うん、そう」

 あっさり認める小鳥遊に、未央は目を瞠る。

(え!? いいの? 彼女って紹介してくれるの!?)

「どうも、日下(くさか)(りょう)です~」

「はじめまして、桜木です」

 陽気な遼に、未央も挨拶を返した。

 隣にいる佐山からの視線が露骨に値踏みするもので、未央は居心地の悪さに笑顔が引き攣るのを感じた。

「え、彼女なの? 見えなかった~、意外!」

 大げさなリアクションをする佐山を見て、未央は心の中で反発するも、とても顔に出せはしない。多分、未央の服や雰囲気を見てそう言ったのだろう。

 モノトーンでまとめた姿は、少なくとも目の前にいる佐山のようなきれい系の女子がデートで選ぶ服装ではない。

 一瞬で自分が下に見られたことに気づいた未央は、キスをされて浮かれていた気持ちが沈んでいくのがわかった。

(こうして見ると、服装もだけれどアクセサリーとか爪とかいかにも女の子な人ってかわいいなぁ)

 しっかりと盛られたまつ毛、手入れされた肌。

 さりげなく光るアクセサリーに、ストーンのついたネイルアート。未央は無意識に、自分の手を隠した。

佐山(さやま)(あい)()です。小鳥遊くんとは大学のゼミで一緒だったの」

「どうも……」

 佐山は、アッシュブラウンの髪を細い指で耳にかけながら微笑みかけてきた。ふわふわのパーマのボブは、最近切ったばかりで同僚にも好評だ。

小鳥遊のことを大学時代から意識していた佐山は、彼氏がいてもずっと近づくチャンスを狙っていた。

 なぜ自分ではない女が隣に、とプライドが傷つけられた佐山はにこりと笑いつつも未央を敵視する。

「彼女さん、何している人? 気になるな~」

 答えに詰まる未央の代わりに、小鳥遊が「出版関係の人だよ」とさらりと流す。

「えー、そうなんだ。私は製薬会社のMRなの。出版系って大変なんですよねぇ?」

「あははは、えーっと、そうですね。大変なこともあります」

 愛想笑いに徹する未央は、内心荒れていた。

(MR、キター! 開業医と勤務時間中にイケない関係になるBLにぴったりの職業ですね!)

一瞬にして、成人向けのBL漫画が脳内を駆け巡る。

「小鳥遊くんの彼女って初めて会ったな~。昔からすっごくモテてたでしょう?」

「いや、そんなにモテてはいなかったよ」

 小鳥遊はさりげなく否定する。が、大学時代の話を持ち出されると、未央に入る隙はない。

 会話の端々に、暗に「小鳥遊くんにあなたは似合わない」と牽制を入れてくる佐山。露骨に向けられる敵意と嘲笑に思うことがないわけではないが、未央は笑って受け流していた。

「ふふふ、これから忘年会や新年会もあるから、小鳥遊くんのこと貸してね?」

「あははははは……」

 仕草や口調に甘えた雰囲気が漂っていて、自分とは相いれないキャラだなと未央は思った。

(貸してって何? 何か言い方に棘のある人だなぁ。あ、推しの間に割り込む女ってこんな感じかも。恋愛対象に入れてもらっていないのに、推しカプの受けを誘惑しようとする女……)

 そんなことを思われているとも知らず、佐山は甘えた声で小鳥遊に言った。

「また連絡するね? 小鳥遊くんともっとゆっくり話したいから」

「うん、祥吾に言っておいてくれたら伝わるから。それじゃ」

 上目遣いにも無反応な小鳥遊は、社交辞令の笑顔で二人と別れ、ロッジに向かって歩き出す。

一度は離した手を再び握ると、背後から突き刺さるような視線を感じた。

ただし、未央に振り向く勇気はない。

(あの人、明日真くんのこと好きなんだよね……? 単に私みたいなのが彼女でがっかりしただけ? まぁどっちでもいいか、もう会うこともないだろうし)

 ところがこの日の未央の希望的観測は、見事に裏切られることになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ