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亡き友

硬い板の間に寝転がる未央と小鳥遊、その傍らではあやかしたちが酒宴を開いていた。

 小玉鼠がせっせとタオルケットを運び、未央たちにそれを被せる。

『ふふっ、初めて会ったときから思っていたけれど、やはり未央は雪女にそっくりだねぇ』

未央の長い黒髪を指に絡め、いじりながらぬらりひょんが笑う。その顔はまるで幼子をあやすよう。懐古の情に駆られたのかその目は少し淋しげで、そしてうれしそうにも見える。

 盃を手にした白狐は、目を閉じたままおもむろに口を開いた。

『未央のくせに、雪女と同じようなことを言うとはな。本来あやかしは強き力にこそ惹かれるべきもの、優しさなど何の役にも立たぬもので心を明け渡すとは……』

『血は争えないねぇ、本当に』

 二人は同じあやかしの姿を思い出していた。

 長い黒髪の着物姿のその女は、顔貌(かおかたち)こそ未央によく似ていたが、自信に満ちた表情はまるで異なる。雪女はいつだって高慢で高飛車な女だった。

『雪女に、なぜそのような弱き者を選んだのだと尋ねたら、優しい男だったからと言いよった。力など己が持っておる故、男にそのようなものは求めぬと……』

 バカバカしい、と白狐は鼻で嗤った。

『あの娘らしい答えじゃないか。恋をすると腑抜けになるあやかしも多いけれど、雪女はどこまでも雪女だった。それでこそ、僕らの友にふさわしい』

『もう昔のことだ』

 盃には苦味の強い日本酒。ぬらりひょんは香りを楽しむようにして、少しだけ口をつけた。

 目の前で胡坐をかいて呑み続ける白狐は、長い爪で小玉鼠をあやすようにくすぐっている。

(気づいていないだろうね、白狐は。あれほど人間に興味がなかった君が変わったのは、雪女のことがあったからだろう。僕は未だに信じられないよ、力こそすべてだった君が、まさか未央と暮らしているなんて……)

 長きにわたり互いを見てきたが、白狐がこれほど穏やかに暮らしている姿は見たことがない。一所に落ち着いていることだけでも、数百年前の白狐からは想像もつかない事態だった。

『未央は雪女と違って、ちょっとぼんやりしているからねぇ。白狐がきちんと見張っておいてあげないと』

『無論だ。はよう死なれては漫画の続きが読めぬからな』

『でも、結界の雷撃はやりすぎだよ? あまり力を貸し過ぎると、未央がほかの人間に遠ざけられて、人里で生きていけなくなる』

 心配し過ぎだ、過保護だと暗に言われているような気がして、白狐はムッとした表情に変わる。

『人間の娘を持つと、大変だねぇ』

『こんな抜けた娘はいらぬわ。人間は好かぬ。……その、すべてを見通しているというような顔に腹が立つ』

『おや、それは失礼したね。この顔は生まれ持ってのものなんだよ』

『数百年単位で顔が変わるヤツが言う言葉ではない』

 コスプレ好きなぬらりひょんは、顔すらも自在に変えてしまう。あやかし同士であれば姿が変わっても間違えることはないが、彼自身も自分の本来の顔は忘れてしまっていた。

『ま、未央たちが生きている間はこの顔にしておくよ。覚えておいて欲しいから』

『ぬしも変わったな、人と戯れるなど』

『お互い様だよ』

 暗闇に浮かぶ朧月。漂う雲が黄金色の光を帯び、妖しげな雰囲気を醸し出している。

 まもなく冬、亡き友への想いを馳せる宴は明け方まで続いた。



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