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2彼(彼女?)の気持ち

 自身の部屋に招き入れた後、ギルバートはいくつかトニーに質問する。

 するとやはり彼女トニーはギルバートのように異母妹に虐られていた。こちらは女性なので女装などさせられていたわけではないのだが、メイドのように扱われ、家族からも邪険にされていたそうだった。学校にも行かせてもらっていないと聞き、ギルバートは怒りのあまり杖を折るところだった。


「魔法はどれくらい使えるの?」

「初歩が全部いけます」

「え、学校行っていないのに?」

「はい」


 ギルバートはトニーの力量が気になり、魔術鍛錬場で魔法を見せてもらうことにした。


「やるわね。小さいけど正確ね。調整もうまくできてるわ」

「ありがとうございます!」


 トニーはぴょんと跳ねて喜び、まるでウサギの様だった。

 その日、ギルバートは彼を助手として雇う事に決め、今の実家であるハワード家に連れていく。

 どうやら事情はすでに伝わっていたのか、トニーの部屋は用意されていて、少し居心地悪く思えてしまった。それはトニーも同じで二人して肩をすくめることになった。

 

 二週間後。

 ギルバートはトニーがいる生活に慣れ、彼のちょっとした行動に癒されたりした。


(女性の時は、変な子としか思わなかったけど。やっぱり私、同性が好きだったかもしれないわ。まあ、それはそれでいいけど、トニーはいいのかしら。男でいることを楽しんではいるみたいだけど、色々違う事多いし)


 そんな日々が一ヶ月ほど過ぎたある日、ギルバートは夜目覚め、水を飲むため部屋を出た。するとフランチェコとトニーが台所で一緒にいるところを見てしまった。

 親しげで、どうも声をかけられず、そのまま部屋に戻ってしまった。


(え、どういうこと。フランチェコ兄さん、婚約者のマデリーンさんがいるのに)


 その夜モヤモヤしてしまい、ギルバートはよく眠れなかった。


「どうした?ギルバート。寝不足か?」


 彼とは真逆で爽やかに朝食のテーブルについたフランチェコ。

 寝不足の頭で、ギルバートはよく考えておらず、口火を切る。


「フランチェコ兄さん。もし、好きな人がいるなら、マデリーンさんとは結婚しないほうがいいわよ」

「は?どう言う意味だ?」

「フランチェコ兄さん。本当は男が好きだったのよね」

「はあ?怒るぞ!」


 フランチェコが怒声を発して、その場にいたトニーが身を震わした。


「フランチェコ。怒鳴るのはやめなさい」


 ギルバートの義理の母がトニーの肩を抱いて、宥めているようだった。肩を震わせるトニーはとても弱々しく見え、ギルバートも反省した。


「ごめんな。トニー。ギルバート。続きは俺の部屋で話そう。今は食事時だ」

「そうね。トニー。ごめんなさいね。本当」

「謝らなくても大丈夫ですから」


 そう答えたトニーだったが、その声は震えていた。

 それは彼女がいた実家で、彼女が怒声に怯える生活をしていたことの証明だった。

 またギルバートが女性特有の高い声に今だに恐怖心を覚えるのと同じ事でもあった。


(まずかったわ。 本当。怖がらせたくなかったのに。フランチェコ兄さんは怒ると感情がすぐに出ちゃうからね。悪かったわ)


 そうして静かな朝食を終えた後、ギルバートはフランチェコの部屋に行き話をする。


「さて、先ほどの言葉の意味を教えてくれ。俺が男好き?女装姿のお前に惚れたことは認める。だけど、男と分かればすぐに熱も冷めたよ。それでもお前は俺が男のほうが好きっていうのか?」

「それは関係ないの。私、見ちゃったのよ。昨日の夜、トニーと一緒にいたでしょ?」

「ああ、お前、あれ見たいのか。意外と嫉妬深いな」

「何、その言いよう?だって、すごく距離が近くて」

「ああ、あれはお前のことを相談されてたんだよ」

「わ、私のこと?!何?!」

「ははは、言うわけないだろ。本人から聞け」

「……本人ね」

「そのうち、話すだろう」

「うん。わかった」


 ギルバートは頷き、トニーが話にくるのを待った。しかし、何か言いたそうにしているのに、彼は何も言わずに、その状態が三日続き、ギルバートの限界にきた。


「ねぇ。トニー。私に言いたいことあるでしょ?」

「な、何もありませんよ」

「嘘おっしゃい。フランチェコ兄さんに話せても私には無理なの?」

「あの、それは。魔法の薬を私に渡してくれて、こんな素晴らしい生活を送ることになった、きっかけを与えてくれた方ですから」

「兄さんにはとても感謝しているのね」

「はい」


 にっこりと答えられ、ギルバートは面白くない気持ちになる。


「そう。じゃあ、私には話せない?」

「そんなことは。あのでも、嫌な気持ちにさせてしまうかもしれません。私は、この生活を失いたくないのです。ギルバート様の隣にずっといたいのです」

「トニー……」


 胸がきゅんとなって、ギルバートは思わずトニーを抱き締める。


「ギルバート様。えっとあの」


 腕の中でトニーの頬が熟れた林檎の様に真っ赤になっていて、ギルバートの中に遊び心が湧いてきた。


「可愛い」


 軽い気持ちで、彼はトニーの唇に啄む様なキスをする。

 するとぽんっと弾ける様な音がした。

 そして腕の中の存在がさらに小さく、柔らかくなっている事に気がつく。


「トニー……」


 腕の中にいたのはトニーではなく、アントニアだった。黒髪は長く伸びていて、その胸は大きく膨らんでいる。


「わっつ」


 ギルバートは反射的に、彼女を離してしまった。

 鈍い音がして、彼女が床に転がってしまう。


「あ、」


 ギルバートは謝ろうとした。

 しかし彼女が動くのは先だった。


「ご、ごめんなさい」


 そう言って彼女は部屋を飛び出してしまった。






 

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