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1押しかけTS青年

「ギルバート様、私、男の子になりました!ぜひ私の初めてももらってください!」

「は?今なんと言ったの?大体あなたは誰?」

「私は、アントニア・ハルダートですよ。今は男の子になったので、トニーと呼んでください」

「アントニア・ハルダート。え?あの変な子?」

「変は酷いですよ。へへへ」


 ギルバートの目の前に立って、緩んだ表情で笑う青年。

 身長はギルバートより低いが、喉には男性特有の隆起もあり、声もしっかり男の声。骨格も女性のような丸みはない。目の前にいるのは正真正銘男だった。

 しかし、その話し方は明らかに、ギルバートが聞き覚えがあるものだった。

 ここ半年、彼を悩みし続けた女性、それがアントニア・ハルダートだ。

 彼女は侍女で休憩事件になると、毎日ギルバートに会うために彼の職場に押しかけていた。


「どうして、なぜ。男の子になったの?大体、ご両親は知ってるの?」

「知りませんよ。だって家から逃げてきました。だから、私のことはトニーとだけ呼んでくださいね」

「逃げてきたって、あなた」


 トニーの言葉に、ギルバートは自分嫌な思い出がよぎった。


 ギルバート・テラー。

 彼は元は伯爵子息であった。

 母が亡くなり、それまで愛人であった女性を父親が屋敷に連れ込んだ。その女性との間には、娘が二人いて、一人はギルバートより年上だった。異母姉妹たちは、ギルバートを女装させ、メイドのように扱い、馬鹿にした。それは数年続き、ある日事件が起きる。

 異母姉の婚約者フランチェコが女装したギルバートに一目惚れしてしまったのだ。彼はギルバートがしいたげられている娘だと思い込み、その父に異母姉妹のことを告発した。

 それによって今まで異母姉妹たちがギルバートにしていたことが明らかになるのだが、責められたのは異母姉妹ではなく、ギルバートだった。それを知った異母姉の婚約者フランチェコは婚約破棄をした上で、ギルバートを迎え入れた。

 もちろん、その時点で性別がわかっていたので、妻としてではなく、弟としてである。

 ギルバートは精神的ショックからか、女性のような話し方をするようになってしまった。

 フランチェコや彼の両親は心配したが、本人はこの方が楽と言って、笑っていた。

 しかし、それは彼の強がりで、彼は女性のような話し方をすることで、女性から逃げようしていた。

 フランチェコの母親は女性でもかなり歳が離れていて平気だが、年頃の女性を見ると異母姉妹を思い出し、胸が苦しくなったのだ。

 女性ような話し方をすれば、あちらも近寄ってこず、また自分が別人になったようで、緊張せず話すこともできた。

 そうでなければ、彼は外に出ることができなかった。


 フランチェコの紹介もあり、ギルバートはすぐに魔術学校へ編入し、好成績で卒業した。その後フランチェコの後を追う様に魔術師になった。

 彼がギルバートの女装姿に一目惚れしたことは笑い話になっており、二十一歳になった彼には現在婚約者がいる。異母姉妹とは全く正反対の清楚な女性だった。

 ギルバートは、フランチェコが結婚すれば家を出る予定だった。

 彼は女性が苦手だ。なので結婚して彼が家を出る案はなく、家をどこかに借りようとしていた。

 そんな矢先、この騒動である。


「もしかして、アントニア。性転換の薬はフランチェコ兄さんからもらった?」

「そうですよ。よくわかりましたね。へへへ」


 アントニアは不思議な女性だった。

 言動がおかしい。

 表情も間が抜けていて、それは男性化しても同じだった。


(兄さんが裏にいるのね。なぜ、そんなことを?)


「ギルバート様。私、一週間後に三十歳年上のスロヴィア伯爵と結婚させられるところだったんです。だから、男の子になって助かりました。今の私の姿でじゃ、誰も気がつきません。ギルバート様とフランチェコ様だけが、この秘密を知ってます。ひひ」

「ひひ、じゃないわよ。あなた、仕事はどうするの?」

「侍女の仕事はきちんと辞めてますよ。結婚する予定だったので、もう随分前に退職願いを出していたのです」

「だったら、なぜ、私に付き纏ったのよ」

「それはもちろん、私がギルバート様を好きだからです。もしギルバート様に運良く抱いてもらったら、結婚しなくて済むはずですから。私の結婚相手は処女が好きみたいなので」

「そ、そう。そんな情報知りたくなかったわ」


 ギルバードは自分が好きという言葉を無視してそうぼやく。


「あ、すみません」

「それよりも、この後どうするつもり?」

「あの、フランチェコ様がギルバート様に一夜を捧げたら、ずっと面倒みてくれるはずって言っていたんですが……」

「フ、フランチェコ兄さん!?」


 ギルバートは気が遠くなりそうになったが、とりあえず意識を保つ。

 彼は女性の様な話し方をして、さもかし男性に興味があるように振る舞っているが、実はそうでもない。女性に対しては恐怖心があり、男性には恋愛感情が持てないのだ。

 世間では男性を何人も侍らせているなど、噂があるが、全くの嘘であった。


「知ってるはずなのに」


 それはフランチェコも知っているはずなのに、何にも考えていなさそうなトニーにそう吹き込んだ兄の思惑がわからず、今度は頭痛を抱える。


「ギルバート様。やっぱりだめですよね?フランチェコ様の言う通りにはならないだろうなっては思っていたので大丈夫です。今は男の身なので、どうにか一人で生きていけると思いますし。こう見ても、私も魔術を使えるのですよ」

「え?本当?」

「自己流ですけど。学校に通わせてもらえなかったので、妹が練習しているのと見様見真似で練習していたら、できるようになりました」

「すごいじゃない。ちょっと見せて」


 トニーからポロッと漏らされる情報が、どうも虐られているような内容で、彼は気になってしまった。

 フランチェコによって、自身もあの家から救われたのだ。

 だから、と思ってギルバートはフランチェコの思惑がわかった。


「そういうことね。わかったわ。フランチェコ兄さん」


 兄は彼に彼女トニーを救わせようとしている。

 ギルバートはそう理解して、トニーの面倒見ることを決めた。


 

 

 





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