その"あか"は――。
ぴちゃん、ぴちゃんと音がする。
その音が響くに伴い。
赤、朱、紅、緋、アカ、あか…。
色鮮やかなようで、しかし元を一つとするその色たちに前に急速に全ての色が姿を消し。
その時から、私の世界はキャンパスの白と影の黒、そして。
視界一杯の〝あか″に染められた。
鋭いその切っ先から滴るその〝あか″は白のキャンパスを妖美に染めていく。
視線を落とすと、何か、赤くて黒い塊が落ちていた。さて、これは一体何だっただろうか。
視線を滑らせて、ああ、と思う。見覚えがあるそれは、少し強面のその顔をふにゃりと歪めて笑うその人の顔を持っていたから、お父様だ、と分かった。
その隣の赤い塊も見て、ああ、と呟いた。見覚えのあるそれは。優し気なその顔にふわりと笑みを乗せるその人の顔を持っていたから、お母さまだ、と分かった。
少し遠くを見る。小さな赤い塊が二つあって、ああ、と口を動かす。見覚えのあるそれは、あどけない笑顔を見せるその子達の顔を持っていたから、妹と弟だ、と分かった。
鋭いその切っ先から滴るその"あか"は白のキャンパスを妖美に染めていく。
視線を動かす。白に染まった花瓶と、白に染まったお花が、今度は朱に染まっていた。
視線を動かす。白のキャンパスそのものの地面が、緋く染まっていた。
鋭いその切っ先から滴るその"あか"は白のキャンパスを妖美に染めていく。
その"あか"に触れてみたら、手に紅い液体がついた。ちょっとドロドロした、液体。さて、その液体の名前は何だっただろうか。思い出そうとして、見つけた。と言うよりは、目が合った。
朱殷にその身を染めた人の形をしたソレと。
誰だろう。
そっと手を伸ばす。ソレもまた手を伸ばしてきた。指先が触れ、弾かれたように手を引き戻した。ソレは、音もたてず、すっとその手を引いた。そして、もう一度目を合わせて。
次の瞬間、私の意識は、漆黒に沈んだ。