7話 危険域
7話です。リズム良く書いていきます。どうぞお読みください。
7
《片手直剣流 初段スキル 霧雨》は、クリティカル率が上昇する二連撃だった。
どうやって技を発動するかというと、《実際に唱える》か、《頭の中で唱える》かの二種類である。
実際に唱える場合、「片手直剣流 初段スキル 《霧雨》!」と言ってもいいし、「《霧雨》!」だけでもいい。複数の武器スキルを持っている時に、ごちゃごちゃにならなければいいのだ。
例えば俺が、片手剣を持った状態で「サニーサイドアップ!」と言ったりしても、思い通りの剣技は発動しない。
だが、最初のうちはスキルが少なく、間違える事もなく技を使えたので、冒険がかなり楽になった。
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「支援いくぞー、3、2、1、今!」
最初の草原から少し奥地に入り、木が生い茂る林で俺達は戦っていた。実は、今まで見ていた画面には右上に現実世界の時刻が記されていて、今、時刻はまさに4時を回ろうとしたところだった。
晴男の支援を受けた瞬間、体が軽くなる。少し太めの粗雑な棍棒を持ったその猿を、《霧雨》で切りつける。ガン、ガツン!という音と共に、猿の体が大きく後方へ弾き飛ばされる。今のニ撃は、両方とも弱点に当たったことを示していた。
俺の放った霧雨は、元々8割程も残っていた猿のLPを6割程まで減らした。オォォォォォォ、と猿が怒りの咆哮をあげる。実はこの咆哮には威嚇の属性が入っていて、まともに聞くと二秒程硬直してしまうのだが、晴男がかけてくれた支援技によって俺には及ばなかった。威嚇の技後硬直から抜けきっていない猿を、上段から切りつける。(霧雨は、冷却時間クールタイムがあったため、発動できなかった。)その一撃で、猿の頭上のバーは五割を下回り、黄色のゾーンに突入した。
その瞬間、今まで何度も見てきた赤黒い光が猿を包んだ。
「攻性化注意! 行動パターンに突きが加わるぞ!」
晴男が叫ぶ。
「わかった! 支援くれ!」
俺も返す。この猿は攻撃力が高いので、一撃食らうと体力を三割程持っていかれる。さすがに最初の頃のように取り乱すことはないが、体力が三割なくなるというのは大きい。防御力の支援無しじゃ危ないのだ。
「オーケー!3、2、1、はい!」
俺の体を蒼白い光が包んだ。体力バーの左に盾のマークが現れ、防御力が上がったことを俺に伝える。
その瞬間、猿が棍棒を真っ直ぐ後ろに引いた。これが突き技の予備動作だろう。すぐに俺は、猿の利き手と逆の方向に飛ぶ。その直後、俺の顔の左側の空気が消し飛ぶ。
(かわした!)
と思い、俺は全力で攻撃に転じる。その瞬間、俺は自分のミスに気付く。猿の棍棒が淡く緑に光っていたのだ。
「しゃがめー! 勇雅ー!」
晴男が必至の形相で叫んでいるが、もう、遅い。スキルはかなりの威力を持っているので、かなり吹き飛ぶだろう。その後にもう一度準備を整えてコイツに挑めばいい。
半ば諦め気味の思考が俺の頭をよぎったその瞬間、真っ直ぐに突き伸ばされた腕に握られた棍棒が、とてつもない速度で俺の方へ振り払われる。俺の腹を直撃し最後まで振りきられた棍棒は、柔道の背負い投げもかくやというスピードで俺の身体を近くの木に叩きつけた。
殴られた事と、木に叩きつけられた事で、ダメージが二倍になって襲ってくる。俺の体力ゲージは黄色の注意域を下回り、残り一割の、赤い危険域に入ったところで止まった。
そこまで考えたところで、猿が光の欠片になって四散するところが目に入った。晴男が倒してくれたのだ。経験値加算画面が目の前に現れ、レベルとソードレベルが一つずつ上がったことを伝える。
それをひと目見てすぐに、俺は安堵のため息をついた。晴男がこちらに駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
晴男の切羽詰まったような声に、俺は笑いながら返答する。
「ハハ、大丈夫だよ。ごめんな。迷惑かけてさ」
「何言ってんだ!もう俺は、勇雅が死ななくてよかったよ」
「心配してくれてありがとう。じゃあ、回復してくれ。頼む」
「ああ、オーケー。じゃ、いくぞ」
その瞬間、俺を緑の暖かい光がつつみこみ、体力を6割程回復させた。
「サンキュー」
回復についての礼を言うと、晴男は爽やかに、しかし今度は少しにやっと笑いながら返した。
「勿論。傷ついている人がいたら、助けるのは当然だろ」
俺も同様に、にやっとしながら返す。
「今日はありがとな。お陰で楽しかった」
「そうだな。じゃあ、勇雅、また会う日まで。」
そう言ってゲットアップボタンを押そうとする晴男を前に、俺はあることを思い付き、晴男を呼び止めた。
「ま、待って待って!晴男!」
晴男が迷うような顔でこちらを向くが、続ける。
「あのさ、俺、この世界が、どうにも夢だと思えないんだ」
晴男は、俺の言葉を聞いて、少し目を輝かせると、のめり込んで来た。
「俺も! それを! 言おうかどうか迷っていたんだ! この世界は夢にしてはリアル過ぎるし、現実だと言われてもにわかには信じ難い!」
「そうだよな。だから、この世界が本当か、確かめてみないか?」
「確かめる? どうやって?」
「合言葉を決めるんだ。リンゴとか、ゴリラとか」
「なるほど! なら、合言葉、何にする!?」
「そうだな。『猿の突き攻撃』にしようぜ」
「いい案だ!二人の記憶に染み付いているからな」
「ありがとう。じゃあ、今度こそ、また会う日まで」
「ああ、そうだな。また」
そういうと、俺と晴男は同時にゲットアップボタンを押した。
最後まで読んでいただきありがとうございます!次回もご期待下さい!