5話 剣と魔法
遂に戦闘シーンです。楽しんでくれると嬉しいです。どうぞご覧下さい。
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ベッドから出ると、時刻はまだ6時半だった。母さんの「ご飯だよー」という声が聴こえてくる。俺は「わかった」と返事をすると、二階にある俺の部屋から小走りで一階のダイニングに向かった。
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学校に行く途中、勇斗に会ったので昨日の事を遠回しに聞いてみたが、あの感に障る
「何を言ってるんだい?」
で通されてしまった。
学校に行ってもその話が出る事はなく、誰もその事を話したがらないようだった。
俺は、家に帰ってからまたあの世界に行く為に、昨日の帰ってからの行動を完全に模倣しようとした。食事の際に、天敵のトマトが出てきた時はどうなるかと思ったが、どうにか寝る時間は昨日と同じにこぎつけた。
(どうか、またあの世界へ...!!)
自分でもう自覚しているが、俺はあの世界を気に入っていた。綺麗な町並みもそうだが、何か言葉で言い表せないものが俺の心をくすぐっている感じだった。
また、あの世界へ行けることを願って俺はまた、眠りにつく。
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目を覚ますと、そこは昨日俺がこの世界に来た時と同じ場所だった。
(やった!)
声にこそ出さなかったが、俺は飛び上がるほど嬉しかった。その勢いに任せて、今日こそフィールドに出ることにした。ジジイに教えてもらった《町の北端の大門》へ向かう。歩いている途中、俺と似通った格好の奴を見つけたが、あまり気にすることもなく通り過ぎた。
そして、ついに大門に到着した。息を整え、身なりを整え、俺は、大きな一歩を踏み出した。
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十分間歩いても、一切モンスターと出会わないとはどういうことなのだろう。モンスターの足跡一つ見つからない。
「うーん、どうしたもんかなぁ...。」
俺は困り果てていた。
「どこにいるんだあ?」
辺りを見回しても、どこにもモンs…。あれ、何か見えるぞ。と思った瞬間、あちらも俺に気付いたらしく、猛スピードで突っ込んでくる。それは、50センチもありそうな歯を生やし、鋭い爪を持った俺の腰ほども大きさのあるウサギだった。
キシャァァァァ、という鳴き声と共に、ウサギの目が赤く光る。ジジイ曰くこれはあらゆるモンスター共通の予備動作らしい。それ以外の予備動作は自分で見極める必要があるが、最初のウサギは《一番簡単》だということだった。
ウサギが思いきり口を開け、噛みつきの予備動作を見せる。俺は素早く右に避けると、技が空振り硬直しているウサギに思いきり剣を叩きつけた。ザシュッ!という心地よい効果音と共にウサギの頭上にある青いバーが大きく削れる。
俺は未だかつてない高揚感を味わっていた。神経からアドレナリンが分泌され、俺の集中が限界まで高められる。さっきまでかわすのに一生懸命だったウサギの攻撃も、今はまるで時間を引き伸ばした映像のようだ。
淡々と攻撃を続け、ウサギの頭上のバーが半分まで削られた時、ウサギの体が赤く発光した。攻性化状態だ。そこから、ウサギは技を乱発し始めた。だが、それをかわし続けるのはあまり難しくなかった。全神経が視覚と脚部に集結し、ウサギの攻撃を次々とかわしていく。
噛みつき、引っ掻き、噛みつき、ストンプ、ストンプ、引っ掻き。全ての攻撃をかわし、攻性化が解けて疲労状態のウサギに俺は全力で攻撃を仕掛けた。防御を考えずに全ての力を攻撃に転じさせる。縦から、横から、流星のごとき剣閃が、ウサギを切り刻む。
ウサギのバーがついに真っ赤に染まる。あと少しで倒せる状態だ。その瞬間、防御を捨てていた俺に致命的な隙ができた。ウサギの攻撃の予備動作を見逃し、足の薙ぎ払い攻撃をくらってしまった。
それだけで俺の体は五メートル程も吹き飛んだ。青かったバーは一気に5分の1以上減り、黄色に染まっている。
その瞬間、俺の背筋をひやりと冷たいものがなでた。集中が一気に途切れ、時間の感覚も元に戻った。その間にもウサギはストンプのプレモーションを開始させている。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)
俺は冷静さを失い余計に足がもつれる。
(動け、動け、動け、動け!!)
そう念じるほどに焦り、冷や汗が俺の頬をつたう。「死」という明確なイメージが俺の脳裏をよぎる。一回攻撃をくらっただけでこれとは、やはり俺には向いていなかったのだ。自分は出来ると勘違いして調子に乗った愚かな人間だ。
ウサギの体が上から降ってくる。俺は死を覚悟した。
と、その瞬間、ドォン!という音と共にウサギの頭が吹き飛んだ。ウサギの頭上のバーが消滅し、経験値の加算を知らせる画面が目の前に表示されるが、それよりも俺の意識は攻撃の飛んできた方向に向けられていた。
「大丈夫か?」
彼は遠目から大きめの声で話しかけてくる。動かなかった足を無理矢理動かして駆け寄ると、俺を助けた救済者は、言葉をつなぐ。
「俺は2組の吉川晴男《きっかわはるお》。よろしく。」
「あ、よろしく。」
俺はぎこちなく言葉を返した。
「さっきは助けてくれてありがとう。おかげで助かった。」
そう言うと、あたかもいつも通りと言うように、晴男は話す。
「いや、遠くから地面に倒れて襲われている人がいたからさ。助けないわけにはいかないだろ?」
(爽やかだぁ。)
晴男は2組以外のクラスでも有名人で、成績がよく、人当たりがいいのは言わずともがな、なにより、(俺的に羨ましいのは)音楽関係に強いことである。俺は音楽がからっきしなので、晴男は俺の憧れでもあった。
そこで、俺は今まで疑問だった事を聞いてみた。
「晴男は魔法使いなのか?」
それに対して、晴男はまさかの返答をしてきた。
「え、勇雅は違うのか?」
驚くのはこちらの方だった。まだこの世界は謎が多いらしい。
ここまでお読みいただきありがとうございます!お話はまだ続きます。乞うご期待。